第33話 「初依頼でドラゴンは聞いてない!」
# 第33話 初依頼でドラゴンは聞いてない!
眷属。
詳しい仕組みは知らない。
でも絶対、気軽になっていいものじゃない!
ヴィオラ:「悪い話じゃないと思うけど?」
唯:「初対面の人の眷属になるほど困ってません!」
ヴィオラ:「百年物のワインも飲み放題よ?」
唯:「…………」
エマ:「唯?」
唯:「なりません!」
危ない!
この人、私の弱点を理解するのが早すぎる!
ヴィオラ:「残念♡」
そう言いながら、ヴィオラは全然残念そうじゃない。
むしろ楽しんでいる。
ヴィオラ:「でも、ますます欲しくなっちゃった」
唯:「なんで私狙われるの!?」
ヴィオラ:「だって珍しいんだもの」
赤い瞳が私を見つめる。
まるで身体の奥まで覗かれているような気がした。
ヴィオラ:「ヴァンパイアなのに、私の知らない魔力が混ざってる。血の匂いも普通じゃない」
唯:「…………」
ヴィオラ:「ねえ、唯ちゃん。少しくらい調べさせてくれない?」
唯:「嫌です」
ヴィオラ:「ちょっと血をもらうだけ♡」
唯:「もっと嫌です!」
私が一歩下がると――。
すっ。
エマが私の前に出た。
エマ:「唯が嫌がっています」
唯:「エマ……」
エマ:「唯はあなたの眷属にはなりません。血も渡しません」
ヴィオラ:「あら?」
ヴィオラが楽しそうに目を細める。
ヴィオラ:「ふふっ。いいわねぇ、若いって♡」
唯:「あなた何歳なの?」
ヴィオラ:「女性に年齢を聞くものじゃないわよ?」
唯:「そこは普通なんだ……」
◇
ヴィオラ:「まあ、無理やり連れて帰るつもりはないわ」
唯:「ほんとに?」
ヴィオラ:「ええ」
よかった。
ヴィオラ:「今のところは♡」
唯:「帰ります!」
全然よくなかった!
エマの手を取る。
逃げても戻される。
でも、このままここにいるのも――。
――ズン。
唯:「……え?」
足元が揺れた。
《振動感知》が、遠くから近づいてくる巨大な何かを捉える。
――バサッ!
森にいた鳥たちが、一斉に飛び立った。
エマ:「次は...な、なに……?」
――ゴロゴロゴロ。
晴れていたはずの空が暗くなる。
雲?違う。
巨大な影が――森を覆っている。
見上げた。
唯:「…………」
巨大な翼。
硬そうな鱗。
長い尾。
陽光を遮るほどの巨体。
そして、こちらを見下ろす巨大な瞳。
唯:「キャ……」
嘘でしょ。
唯:「キャピィィィィ!?」
**ドラゴンだ。**
どう見てもドラゴンだ!
洞窟で見たグランガも化け物だった。
でも、こいつは――。
(なんか格が違う!)
唯:「《鑑定》!」
――――――――――
《ガリア・ヴァルガリア》
種族:鑑定不能
称号:《龍王》
Lv:鑑定不能
――――――――――
唯:「…………」
もう一回。
――――――――――
称号:《龍王》
――――――――――
唯:「龍王ぉぉぉぉ!?」
エマ:「りゅ、龍王……?」
待って。
私、今朝なんて言った?
『ドラゴン討伐しよう!』
(撤回します!!)
調子に乗ってました!
ドラゴン討伐なんてしません!
薬草採取最高!
私、一生草むしりでもいい!
◇
――ドォン!
龍王が地面へ降り立った。
巻き起こった暴風が森を駆け抜ける。
唯:「うわっ!」
エマ:「きゃっ!」
咄嗟にエマを抱き寄せる。
木々が大きくしなり、葉が舞い上がった。
龍王:「ガハハハハハ!」
笑い声だけで空気が震える。
龍王:「面白い魔力を感じて来てみれば、なんだこの状況は!」
唯:「こっちは面白くない!」
龍王:「ガハハハ! そうか!」
(会話できるんだ!?)
いや、そこじゃない!
ヴィオラ:「……あなたまで来るなんてね」
ヴィオラを見る。
さっきまでの余裕たっぷりな笑顔が、少しだけ消えていた。
(ヴィオラが警戒してる……?)
《鑑定》すらまともに通らないヴィオラ。
そのヴィオラが警戒する相手。
(帰りたい)
ものすごく帰りたい。
龍王:「吸血鬼」
ヴィオラ:「なにかしら?」
龍王:「何をしている?」
ヴィオラ:「ちょっと気になる子を見つけただけよ♡」
唯:「眷属にしようとしてました!」
ヴィオラ:「唯ちゃん?」
唯:「事実です!」
龍王:「ほう」
巨大な瞳が私を捉える。
龍王:「…………」
唯:「な、なに?」
さっきまで豪快に笑っていた龍王の表情が、一瞬だけ消えた。
龍王:「お前……妙な匂いがするな」
唯:「臭い!?」
くんくん
龍王:「そういう意味ではない!」
よかった!
昨日お風呂入ったもん!
ヴィオラ:「でしょう?」
ヴィオラが笑う。
ヴィオラ:「だから私が先に見つけたのよ」
龍王:「先?」
ヴィオラ:「この子は私がもらうわ♡」
唯:「だから私は物じゃない!」
その瞬間。
――ズン。
唯:「――っ!?」
空気が、一気に重くなった。
龍王から放たれた何か。
魔力?
威圧?
分からない。
ただ、立っているだけで身体を地面へ押しつけられそうになる。
同時に。
ヴィオラからも赤黒い魔力が滲み出した。
木々がざわめく。
地面が軋む。
(ちょ、ちょっと待って!)
この二人。
本当にヤバい!
エマ:「う……」
唯:「エマ?」
隣を見る。
エマの顔から血の気が引いていた。
エマ:「唯……ごめ……」
ぐらっ。
唯:「エマ!」
倒れる身体を抱き止める。
唯:「エマ!? エマ!」
返事がない。
でも、呼吸はしている。
(気絶した……?)
この二人の魔力に耐えられなかったんだ。
唯:「ちょっと! エマが倒れたんだけど!」
龍王:「む?」
龍王がこちらを見る。
直後。
身体を押し潰していた圧力が弱まった。
(……抑えた?)
エマを抱きしめる。
苦しそうだった呼吸も、少しずつ落ち着いてきた。
よかった……。
龍王が再びヴィオラを見る。
龍王:「吸血鬼」
さっきまでとは違う。
低い声だった。
ヴィオラ:「なに?」
龍王:「その娘から手を引け」
唯:「……え?」
ヴィオラ:「嫌よ」
龍王:「そうか」
――ミシッ。
足元の地面に亀裂が走った。
ヴィオラの赤い瞳が細くなる。
初めて。
本気で龍王を警戒している。
龍王:「ならば、もう一度言おう」
巨大な瞳が――私を捉えた。
龍王:「その娘は、お前たちだけのものではない」
唯:「…………?」
龍王:「我らが同族でもある」
唯:「…………」
…………はい?
ヴィオラ:「……なるほど」
ヴィオラが私を見る。
今までの好奇心とは違う。
何かを確かめるような視線。
唯:「ちょ、ちょっと待って」
私はヴァンパイアドラ。
ヴァンパイア。
そこまでは分かる。
たぶん。
でも。
目の前にいるのは――龍王。
唯:「私が……ドラゴンの同族?」
龍王:「そうだ」
唯:「…………キャピ?」
どういうこと!?
◇
ヴィオラ:「仕方ないわね」
先に動いたのはヴィオラだった。
赤黒い魔力が消えていく。
ヴィオラ:「今日は譲ってあげる」
唯:「だから私は物じゃない!」
ヴィオラ:「ふふっ♡」
いつもの笑顔に戻った。
ヴィオラ:「また会いましょ♡ 唯ちゃん」
唯:「…………」
――ふっ。
次の瞬間。
ヴィオラの姿が消えた。
気配まで綺麗に消えている。
唯:「…………怖っ」
静かになった森。
腕の中には、気絶したエマ。
目の前には――龍王。
龍王:「さて」
唯:「…………」
巨大な顔が近づいてくる。
龍王:「お前――」
にやり。
龍王:「面白いな!」
唯:「…………キャピ」
昨日。
ヴァンパイアだとバレたら危ないと言われた。
今日。
強そうなヴァンパイアに見つかって。
眷属に誘われて。
逃げられなくなって。
今度は龍王が空から降ってきた。
そして――同族認定。
私は腕の中のエマを抱きしめながら、巨大な龍を見上げる。
(私……)
(いったい何になったの?)
**――第33話 初依頼でドラゴンは聞いてない! 完**




