第32話 「初依頼で美女に目をつけられました」
# 第32話 初依頼で美女に目をつけられました
???:「やっと見つけた♡」
銀色の髪。
透き通るような白い肌。
そして、血のように赤い瞳。
木々の間から現れたのは、息を呑むほど綺麗な女性だった。
唯:「…………」
美人だ。
ものすごい美人。
だけど――。
(絶対ヤバい!!)
洞窟生活で鍛えられた本能が、全力で逃げろと叫んでいる。
(《鑑定》!)
――――――――――
《ヴィオラ・ブラッドレイン》
種族:ヴァンパイア《■■■■》
Lv:鑑定不能
能力:鑑定不能
――――――――――
唯:「…………」
(帰ろう)
ほとんど何も見えない。
さっき薬草相手には無双してたのに!
(私の《鑑定》、草専用じゃないよね!?)
ヴィオラ:「そんなに警戒しなくても大丈夫よ」
唯:「してませんよ? じゃあ依頼の途中なので!」
くるっ。
エマ:「えっ、唯?」
唯:「エマ、帰ろう」
ヴィオラ:「待って...♡」
唯:「…………」
ですよねー。
◇
ヴィオラ:「私はヴィオラ。ヴィオラ・ブラッドレイン」
唯:「へ、へぇ……」
ヴィオラ:「この近くに住んでいるの。あなたは?」
唯:「唯です。ただの人族です!」
よし。完璧。
昨日ガルドにも言われた。
ヴァンパイアだと知られるな。
翼も尻尾も牙も隠している。
今の私は、どこからどう見ても普通の女の子!
ヴィオラ:「…………」
唯:「…………」
ヴィオラ:「ふふっ♡」
唯:「な、なんですか?」
ヴィオラ:「人族」
唯:「はい!」
ヴィオラ:「あなたが?」
唯:「そうです!」
ヴィオラ:「ふふふっ♡」
唯:「なんで笑うの!?」
全然信じてない!
ヴィオラ:「ごめんなさい。あまりにも可愛らしい嘘だったから」
唯:「嘘じゃないです!」
ヴィオラ:「じゃあ、昨日の夜――」
赤い瞳が、すっと細められる。
ヴィオラ:「この街から盛大に漏れていた、ヴァンパイアの魔力は誰のものかしら?」
唯:「…………」
昨日の夜。
お酒を飲んだ。
美味しくて、楽しくて。
魔力制御が緩んで――。
(私じゃん!!)
唯:「ひ、人違いじゃないですか?」
ヴィオラ:「あれだけ垂れ流しておいて?」
唯:「…………」
ヴィオラ:「それも、私が今まで感じたことのない魔力だったわ。隠す気があるのか疑うくらい、だだ漏れ♡」
唯:「…………キャピ」
エマ:「唯……昨日かなり漏れてたもんね」
唯:「エマまで!?」
ヴィオラ:「そうねぇ……人間で言えば――」
にこっ。
ヴィオラ:「赤ちゃんのお漏らしみたいなものね♡」
唯:「言い方ぁぁぁぁ!!」
もっと他にあるでしょ!
魔力が暴走してたとか!
制御できてなかったとか!
ヴィオラ:「だって、自分で止められなかったんでしょう?」
唯:「止められます!」
ヴィオラ:「昨日は?」
唯:「…………」
ヴィオラ:「ふふっ♡」
(この人、性格悪い!)
ヴィオラ:「でもね。そんな感じたこともないヴァンパイアの魔力を、あんなに盛大に撒き散らして――」
ヴィオラが一歩近づく。
ヴィオラ:「誘われちゃったら、見に来るしかないでしょう♡」
唯:「誘ってない!!」
事故です!
ただ酔っ払ってただけです!
◇
ヴィオラの視線が、私の全身をゆっくりとなぞる。
さっきまでのふざけた雰囲気とは少し違う。
ヴィオラ:「本当に不思議」
唯:「何がですか?」
ヴィオラ:「あなたの魔力よ。ヴァンパイアなのは間違いない。でも、それだけじゃない」
唯:「…………」
ヴィオラ:「知らない匂い。知らない魔力。それに――」
すんっ。
ヴィオラ:「血も、とても美味しそう♡」
唯:「血!?」
エマが、さっと私の前に出た。
エマ:「唯の血はあげません」
唯:「エマ!」
ヴィオラ:「あら?」
ヴィオラの視線がエマへ移る。
ヴィオラ:「もしかして、恋人?」
エマ:「……はい」
唯:「キャピ!?」
即答!?
ヴィオラ:「ふぅん♡」
エマと私を交互に見て、楽しそうに笑う。
ヴィオラ:「ますます面白いわね、あなた」
(帰りたい!)
ヴィオラ:「ねえ、唯ちゃん。私のお家に来ない?」
唯:「結構です!」
ヴィオラ:「せっかくお茶でもと思ったのに」
唯:「お気持ちだけ!」
ヴィオラ:「古いワインもあるわよ?」
唯:「何年物ですか?」
エマ:「唯?」
唯:「…………」
しまった。
ヴィオラ:「百年物もあるわ♡」
唯:「百年……」
ごくり。
(異世界の百年物……!)
エマ:「唯」
唯:「はい」
エマ:「知らない人について行っちゃダメ」
唯:「はい……」
ヴィオラ:「残念♡」
危なかった。
異世界、怖い。
強いヴァンパイアがワインで釣ってくる。
唯:「じゃあ、私たちはこれで!」
エマ:「失礼します!」
二人で一気に走り出した。
◇
唯:「はぁ、はぁ……!」
エマ:「唯、もう大丈夫かな?」
唯:「かなり走ったし……」
後ろを見る。
誰もいない。
唯:「よし! 逃げ切った!」
敵意は感じなかった。
でも、何を考えているのか全然分からない。
唯:「早く街に――」
ヴィオラ:「おかえり♡」
唯:「…………」
エマ:「…………」
目の前の木にもたれ、ヴィオラが笑っていた。
唯:「なんで!?」
ヴィオラ:「なんでって?」
唯:「私たち、ずっとあっちに走ってたよね!?」
エマ:「う、うん!」
周囲を見る。
見覚えのある木。
見覚えのある岩。
そして――さっき薬草を置いた場所。
(戻ってきてる……?)
そんなはずない。
途中で何度も方向を変えた。
《振動感知》だって使っていた。
(結界? 幻覚?)
分からない。
でも、一つだけ分かる。
(逃げられない)
背中に冷たい汗が流れた。
ヴィオラ:「そんなに怖がらなくても、殺したりしないわよ」
唯:「本当に?」
ヴィオラ:「ええ。少しお茶して」
唯:「…………」
ヴィオラ:「少しお話して」
唯:「…………」
ヴィオラ:「あなたのことを色々教えてもらって――」
ヴィオラが、にこっと笑う。
ヴィオラ:「あわよくば、私の眷属にしたいだけ♡」
唯:「言った!?」
エマ:「今、普通に言いましたよね!?」
ヴィオラ:「あら?」
ヴィオラが小首を傾げる。
ヴィオラ:「口に出てた?」
唯:「全部出てたよ!!」
薬草を採るだけだった。
エマと二人で、のんびり初依頼を終えるはずだった。
なのに――。
ヴィオラ:「じゃあ、いいわよね♡」
唯:「何が!?」
(初依頼からハードすぎるんだけど!!)
**――第32話 初依頼で美女に目をつけられました 完**




