第30話 「異世界の酒とドキドキお泊り」
# 第30話 異世界の酒とドキドキお泊り
お風呂を出た私とエマは、ガルドたちと合流するため酒場へ向かった。
買ったばかりの服。
温まった身体。
そして――。
(エマと、にぎにぎしてしまった……)
ちらっ。
エマ:「…………///」
目が合い、二人同時に前を向く。
(なんかめっちゃドキドキする!)
そんな状態のまま、酒場へ到着した。
◇
ガルド:「おう! 来たか!」
すでにガルドたちは席についていた。
テーブルには料理と、いくつかの革袋が置かれている。
唯:「それ、お金!?」
ガルド:「食いつくの早えな」
今回の洞窟調査の報酬。
さらに、グランガとアビスラから回収した素材の一部が高値で買い取られたらしい。
経費を差し引き、報酬を分配する。
じゃらっ。
私の前にも革袋が置かれた。
ガルド:「ほら。お前の取り分だ」
唯:「…………!」
袋を開く。金貨2枚
金貨だ。
正真正銘、私のお金!
……とはいえ。
唯:「エマ」
エマ:「なに?」
唯:「これって、どれくらいのお金?」
エマ:「え?」
唯:「私、この世界のお金の価値知らない」
エマ:「あ、そっか。唯、昨日まで洞窟にいたんだもんね」
忘れてた、とエマが硬貨をつまむ。
エマ:「基本は銅貨、銀貨、金貨だよ。銅貨10枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚」
唯:「ふむふむ」
エマ:「だいたい銅貨1枚で、安いパンが1個買えるくらいかな」
唯:「なるほど!」
つまり――。
(銅貨1枚が100円くらいの感覚か!)
これなら分かりやすい。
唯:「じゃあ、これ全部で……」
革袋を見る。20万円!!!
急に重みが変わった。
唯:「私、お金持ち!?」
ガルド:「だからその程度で金持ちなわけあるか!」
エマ:「それと唯」
唯:「ん?」
エマ:「入街税と、今日の服代と、お風呂代」
にこっ。
エマ:「返してね?」
唯:「…………キャピ」
私のお金が。
手に入れた瞬間から減っていく。
リン:「借金生活、短かったわね」
唯:「もっと余韻を楽しませて!」
◇
ガルド:「唯!資金が尽きるまでに仕事を見つけるか冒険者なるか決めろ」
唯:「わ、わかったよ!」
ガルド:「よし! 金の話は終わりだ!」
そして。
目の前に置かれたものを見て、私は固まった。
木製のジョッキ。
白い泡。
黄金色の液体。
唯:「…………酒」
エマ:「うん」
唯:「本物?」
エマ:「本物だよ?」
麦の香り。
(酒だ……!)
転生して。
ネズミを食べて、虫を食べて、血を吸って。
怪獣に追い回されて。
翼まで折られて。
それでも生き延びて、人間になって。
洞窟を出て、街まで来て――。
唯:「酒だぁぁぁぁぁぁ!!」
ガルド:「うるせえ!」
◇
ガルド:「全員持ったな!」
ガルドがジョッキを掲げる。
ガルド:「洞窟調査の完了と、全員無事に帰ってこられたことを祝って!」
リン:「かんぱーい!」
全員:「乾杯!」
カンッ!
ジョッキがぶつかる。
私はすぐに一口。
ごくっ。
唯:「…………!」
苦い。
前世で飲んでいたものとは少し違う。
でも、麦の香りがして。
喉を通って、お腹へ落ちていく。
もう一口。
唯:「くぅぅぅぅ……!」
ガルド:「なんだその顔」
唯:「これだよ……!」
ガルド:「何がだよ」
唯:「私が求めてた異世界生活はこれだよ!」
リューク:「冒険じゃないのか」
唯:「酒!」
ガルド:「断言しやがった」
みんなが笑う。
私も笑った。
だけど、ジョッキを見つめていると少しだけ胸が熱くなった。
前世では仕事終わりに普通に飲んでいた。
あの頃は、酒を飲めることなんて特別だと思わなかった。
洞窟では違った。
今日を生き残れるか。
明日、何を食べるか。
そればかりだった。
でも今は、暖かい料理があって。
誰かの笑い声があって。
隣には――。
エマ:「美味しい?」
唯:「うん!」
エマがいる。
(私、本当に外に出たんだ)
もう一口。
今度はゆっくり味わった。
◇
そこからは飲んだ。
食べた。しゃべった。
そして、また飲んだ。
唯:「エマぁ~」
エマ:「なぁに~?」
唯:「飲んでるぅ?」
エマ:「飲んでるよぉ」
気づけば二人とも、すっかりいい気分だ。
酔ったエマは普段よりよく笑う。
そして、やたら近い。
エマ:「唯ぃ」
ぎゅっ。
腕に抱きつかれる。
唯:「キャピ?」
エマ:「唯、あったかい」
唯:「エマもあったかいよ」
ぺたっ。
頬までくっつけてきた。
(かわいい……)
ガルド:「お前ら、そろそろ帰れ」
唯:「まだ飲める!」
ガルド:「足ふらついてんぞ」
エマ:「私が唯を連れて帰ります!」
ガルド:「お前もだよ!」
◇
結局、宿の前までリンとミレイに送ってもらった。
ミレイ:「水飲んでから寝なさいよ」
唯・エマ:「はーい!」
ミレイ:「これは...」
リン:「何か起こる...」
ミレイ・リン:「まぁ、2人とも大人だし大丈夫よね!」
声が揃った。
◇
部屋へ戻ると、ベッドが二つ。
(…………)
急に意識する。
今日、ここでエマと二人で寝るんだ。
エマ:「唯」
唯:「ん?」
エマ:「今日……楽しかったね」
唯:「うん。めちゃくちゃ楽しかった」
エマ:「私も」
ふわっと笑う。
その顔を見ていると、酒とは違う温かさが胸に広がった。
唯:「エマ」
エマ:「なぁに?」
唯:「……ありがと」
エマ:「何が?」
唯:「全部」
洞窟で庇ってくれた。
血をくれた。
正体を知っても、一緒にいてくれた。
唯:「私、エマに会えてよかった」
エマ:「…………」
――ドクン。
エマが胸元を押さえる。
唯:「エマ?」
エマ:「……ううん」
その瞬間。
ふわっ。
唯:「あ」
身体から魔力が漏れた。
(まずい……)
昼間は抑えられていたのに、酒のせいか集中が続かない。
エマ:「……唯」
服の裾を掴まれる。
唯:「ん?」
エマ:「私ね……」
エマが一度、息を吸った。
エマ:「唯のこと、好き」
唯:「…………」
…………。
唯:「キャピ?」
エマ:「好き」
聞き間違いじゃない。
心臓が跳ねる。
エマ:「一緒にいると楽しいし、もっと一緒にいたいって思う」
エマが一歩近づく。
エマ:「今日も、ずっと嬉しかった」
お風呂で手をつないで。
離したくないと思った。
街を一緒に歩いて。
隣にいるのが当たり前みたいになって。
私だって――。
唯:「……私も」
エマ:「え?」
唯:「私も、エマが好き」
言った。
言っちゃった。
エマ:「…………!」
エマの顔が、一気に明るくなる。
エマ:「唯……」
ぎゅっ。
抱きしめられた。
私も腕を回す。
しばらく、ただお互いの温かさを感じていた。
やがてエマが顔を上げる。
近い。吐息が触れそうなくらい。
唯:「…………」
エマ:「…………」
どちらからともなく顔を近づけて――。
ちゅっ。
唯:「…………!」
唇が触れた。
ほんの一瞬。
それだけなのに。
心臓が壊れそうなくらい鳴っている。
エマ:「……えへへ///」
唯:「キャ、キャピ……」
その夜。
私たちは二つあるベッドのうち、一つに入った。
ただ抱き合って。
なかなか眠れなくて。
最後には二人で笑って――。
そのまま眠った。
◇
――翌朝。
ちゅん、ちゅん。
唯:「…………ん」
目を開ける。
目の前には――。
エマ:「すぅ……」
エマ。近い。
完全に抱きつかれている。
(昨日……)
告白された。
私も好きって言った。
それから――。
(キ、キスした……!)
ぼんっ!
顔が熱くなる。
そのとき。
《人化の熟練度が規定値に到達しました》
《人化Lv.2→Lv.3》
《派生技能《部分人化/部分解除》を獲得しました》
唯:「…………え?」
突然のシステム音。
人化してから。
歩いて、話して、食べて。
服を着て、街を歩いて、お風呂にも入った。
人間の身体を使い続けた、その積み重ねが一気に形になったらしい。
背中へ意識を向ける。
すっ。
翼が消えた。
唯:「……!」
もう一度。
ばさっ!
現れる。
尻尾も。
牙も。
出す。戻す。
自由に切り替えられる!
(これなら普通の女の子に見える!)
喜んでいると――。
エマ:「ん……」
唯:「!」
エマが目を開ける。
私を見て。
幸せそうに笑った。
エマ:「おはよ♡」
唯:「お、おはよ……」
エマ:「昨日は...幸せだったよ///」
唯:「…………!」
エマが顔を近づける。
ちゅっ。
唇に柔らかい感触。
唯:「――キャピ!?」
エマ:「ふふっ♡」
朝から顔が熱い。
転生して初めて飲んだ異世界の酒は、最高に美味しかった。
それだけじゃない。
初めての街で。
初めての酒を飲んで。
そして――。
大切な人が、一人できた。
(……この夜、一生忘れないかも)
**――第30話 異世界の酒とドキドキお泊り 完**
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