第3話 コウモリなら血を吸うよね?
#第3話 コウモリなら血を吸うよね?
唯:「キャピ……」
(痛ぇ……)
私は地面に伏せたまま、ネズミに噛まれた翼を見る。
血が滲んでいる。
身体にも引っかかれた傷が何本か残っていた。
さっき確かにレベルは上がった。
**《Lv.1 → Lv.2》**
でも。
唯:「キャピキャピ……」
(傷、治ってないじゃん……)
ゲームならあるじゃん。
レベルアップした瞬間、HP全回復とか。
期待するじゃん。
異世界転生なんだから。
唯:「キャピ……」
(現実は厳しい……)
それに、もう一つ気になることがある。
ネズミを倒した直後に聞こえた、あの声。
**《条件達成を確認》**
**《魂魄情報との接続を開始します》**
**《接続完了》**
**《個体情報を登録しました》**
唯:「…………キャピ」
(何に?)
説明がない。
登録しました。
以上。
唯:「キャピ!」
(何に登録したか言えよ!)
そのとき。
――ピコン。
**《初回個体レベル上昇を確認》**
**《世界システムへの接続が完了しました》**
**《初回接続報酬を付与します》**
唯:「キャピ?」
(報酬?)
その一言に、耳がぴくっと動いた。
唯:「キャピ!」
(それ先に言ってよ!)
チート!
ユニークスキル!
神級魔法!
アイテムボックス!
何でも来い!
**《スキル《鑑定Lv.1》を獲得しました》**
唯:「キャピ!」
(来た!)
異世界定番!
これさえあれば、何が食べられるのかも、
どの魔物が危険なのかも分かるかもしれない。
そして、もう一つ。
**《固有スキル《吸血Lv.1》を解放しました》**
唯:「…………キャピ?」
(吸血?)
舌で口元を探る。
尖った牙。
唯:「…………キャピ」
(マジかぁ……)
コウモリ。
牙。
吸血。
分かる。
ものすごく分かるけどさ。
唯:「キャピ……」
(もっとこう……火炎魔法とかさぁ……)
まあいい。
まずは《鑑定》だ。
私は自分自身を意識する。
(《鑑定》!)
今度は――反応した。
---
**《コウモリドラ》**
**個体名:唯**
**個体Lv:2**
**魔物ランク:F**
**状態:負傷**
**保有スキル:鑑定Lv.1/吸血Lv.1/飛行Lv.1**
---
唯:「…………キャピ」
(コウモリ……ドラ?)
コウモリじゃない。
**コウモリドラ。**
唯:「キャピ?」
(ドラって何? ドラゴン?)
まさかね。
こんなちっこいのに。
それよりも。
唯:「キャピ……」
(Fランク……)
絶対弱いやつじゃん。
知ってたけど。
ネズミ一匹に殺されかけた時点で、薄々気づいてたけど。
唯:「…………キャピ」
(異世界転生したのにFランク……)
夢がない。
そのとき。
ふわっ。
唯:「…………キャピ?」
匂いがした。
倒したネズミから漂ってくる。
さっきまでとは違う。
妙に――美味しそうな匂い。
今なら分かる。
**血だ。**
唯:「キャピ……」
(これか……)
喉が渇く。
牙の奥が疼く。
身体が――飲めと言っている。
唯:「キャピキャピ!」
(いやいやいや!)
ネズミだぞ!?
しかも生血!
前世なら絶対に口にしない。
でも。
翼は痛い。
身体も傷だらけ。
そして、手に入れたばかりの《吸血》。
唯:「…………キャピ」
(もしかして……回復できたり?)
吸血鬼って、血を吸ったら傷が治るイメージあるし。
試す価値はある。
唯:「キャピ……」
(薬。これは薬)
治療。
医療行為。
生きるため。
そう自分に言い聞かせながら、ネズミの首元へ顔を近づける。
唯:「…………キャピ」
(うわぁ……)
美味しそう。
そう思ってしまう自分が、一番怖い。
意を決して牙を立てた。
プツッ。
温かいものが口へ流れ込む。
唯:「キャピィ!?」
(血! 飲んだ!)
反射的に顔を離した。
口の中に鉄っぽい味が残っている。
唯:「…………キャピ?」
思っていたより――。
まずくない。
唯:「キャピ……」
(むしろ……美味しい?)
いやいやいや。
何言ってんの私。
でも。
もう一口だけ。
チュッ。
ゴクッ。
唯:「…………キャピ」
(美味しい……)
ダメだ。
認めたくない。
唯:「キャピ!」
(イチゴジュース!)
そう。
これは血じゃない。
ちょっと温かくて。
ちょっと鉄っぽくて。
ネズミから出てるだけの――。
唯:「キャピ!」
(イチゴジュース!)
完璧。
私は現実逃避しながら、もう一度血を吸った。
そのとき。
唯:「……キャピ?」
翼が熱い。
ズキズキしていた痛みが、少しずつ引いていく。
噛まれた傷も――ゆっくり塞がっていた。
唯:「キャピ!?」
(治ってる!?)
**《吸血による生命力の吸収を確認》**
**《負傷状態が軽減されました》**
唯:「キャピキャピ!」
(やっぱ回復できるじゃん!)
これはデカい。
レベルアップでは治らない。
でも《吸血》なら傷を治せる。
唯:「キャピ!」
(吸血、当たりスキルでは!?)
さっきまでの低評価を即撤回。
むしろ大当たり。
さらに――。
**《吸血対象から生体情報を取得しました》**
唯:「キャピ?」
**《適合する簡易スキルを確認》**
**《スキル《隠密Lv.1》を取得しました》**
唯:「…………キャピ」
固まった。
唯:「キャピキャピ!?」
(ちょっと待って!?)
血を吸った。
傷が治った。
それだけじゃない。
**相手のスキルまで取った?**
私はゆっくりと、洞窟の暗闇を見る。
ここには――まだ魔物がいる。
もし。
他の魔物の血を吸えば。
唯:「キャピ……」
(他のスキルも取れる?)
ぞくっ。
恐怖じゃない。
**好奇心だった。**
もっと知りたい。
もっと試したい。
もっと――。
そこまで考えて。
私は口元についた血を翼で拭った。
唯:「…………キャピ」
(イチゴジュース……)
違う。
これは血じゃない。
私はもう一度、自分へ言い聞かせる。
唯:「キャピ!」
(これはイチゴジュース!)
返事はない。
ただ洞窟の奥へ。
虚しい「キャピ」だけが響いていった。
**――第3話 コウモリなら血を吸うよね? 完**
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