第4話 元人間、順調にコウモリ化中
# 第4話 元人間、順調にコウモリ化中
翌日。
私は岩陰から、じーっと獲物を見つめていた。
少し離れた場所。
一匹のネズミが、地面の苔を漁っている。
唯:「…………キャピ」
(いた)
昨日なら。
ネズミを見つけただけで、かなり緊張していた。
実際、一匹相手に翼を噛まれ、引っかかれ、本気で死にかけた。
でも今は違う。
私には――。
**《隠密Lv.1》**
がある。
唯:「…………キャピ」
(試してみるか)
意識を集中させる。
すると。
身体を包む感覚が、わずかに変わった。
姿が消えたわけじゃない。
身体も普通に見えている。
でも。
なんというか――。
(気配が薄くなった……?)
試しに少し動く。
ネズミは気づかない。
もう少し。
まだ気づかない。
唯:「…………キャピ」
(おお……!)
これは使える。
私は翼をゆっくり広げた。
音を立てないように。
静かに。
ゆっくり。
そして――。
一気に飛ぶ!
バサッ!
「ヂュッ!?」
ネズミが顔を上げる。
でも。
(遅い!)
昨日みたいに正面から突っ込まない。
背後。首元。
そこへ――。
唯:「キャピッ!」
ガブッ!
「ヂュッ!?」
暴れる。
でも離さない。
そのまま牙へ意識を集中する。
**《吸血》**
ズズッ――。
温かい血が喉へ流れ込んでくる。
昨日はあれだけ抵抗があったのに。
今日は――。
唯:「…………キャピ」
(慣れるの早くない? 私)
やがてネズミの身体から力が抜けた。
私は牙を離す。
ぽとっ。
ネズミが地面へ落ちる。
「…………」
勝った。
しかも。
ほとんど傷なし。
唯:「…………キャピ?」
昨日。
あんなに苦戦した相手だよね?
翼を噛まれて。
血を流して。
死ぬかと思って。
それが今日は。
隠れて。
後ろから近づいて。
首を噛んで。
血を吸って。
終わり。
唯:「キャピ……!」
(私、強くなってる!)
◇
調子に乗った私は、そのまま次の獲物を探した。
二匹目。
《隠密》。
背後へ回る。
ガブッ。
《吸血》。
終了。
三匹目。
今度は天井から。
岩にぶら下がって待つ。
真下へ来たところで――。
唯:「キャピ!」
急降下。
ガブッ。
終了。
四匹目は途中でこちらに気づいた。
でも。
もう慌てない。
飛び上がる。
ネズミが飛びかかってくる。
ひらり。
かわす。
旋回。
そのまま背後へ。
唯:「キャピッ!」
ガブッ!
終了。
そして五匹目。
物陰へ隠れる。
《隠密》。
近づく。
飛ぶ。
噛む。
吸う。
終わり。
唯:「…………」
私は地面に転がるネズミを見つめた。
(なんか……)
(作業になってきた)
昨日まで命懸けだったのに。
◇
そのとき。
**《条件を達成しました》**
**《スキル《隠密Lv.1》が《隠密Lv.2》へ上昇しました》**
唯:「キャピ!」
(上がった!)
続けて。
**《スキル《飛行Lv.1》が《飛行Lv.2》へ上昇しました》**
唯:「キャピキャピ!」
(飛行も!)
どうやらスキルは、使えば成長するらしい。
しかも《隠密》と《飛行》は、かなり上がりやすい。
(ゲームでいう初級スキルみたいな感じかな?)
まだ分からない。
でも。
戦えばレベルが上がる。
スキルも使えば成長する。
そして《吸血》を使えば傷も回復できる。
唯:「…………キャピ」
私は自分の牙を舌で触った。
飛んで。
隠れて。
背後から襲って。
首に噛みついて。
血を吸う。
「…………」
(暗殺者じゃん)
いや。
違う。
コウモリだ。
たぶん。
唯:「キャピキャピ!」
(まあ、生き残れるなら何でもいいか!)
昨日までは。
この洞窟で生きていけるのか、本気で不安だった。
でも今は。
少しだけ思う。
(私……意外とやっていけるかも)
飛び方も覚えてきた。
獲物の狩り方も分かってきた。
血への抵抗も――。
「…………」
さっき普通に五匹吸ったな。
唯:「…………キャピ」
(私、適応するの早くない?)
元日本人。
元会社員。
そして現在――。
**コウモリ。**
どうやら私。
順調に異世界へ適応中。
というより。
**順調にコウモリ化している気がする。**
唯:「…………キャピ」
(まあ、いっか)
私は次の獲物を探して、洞窟の奥へ飛んでいった。
**――第4話 元人間、順調にコウモリ化中**




