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『転生したらコウモリでした。キャピしか言えないけど異世界で生きます。』  作者: AsaHiruYugataYoru
第1章 キャピしか言えないけど、洞窟で生き残ります。

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第2話 初めての獲物

# 第2話 初めての獲物


 ぐぅぅぅぅ……。


「…………キャピ」

(お腹空いたなー)


 異世界転生らしきものを果たしてから、どれくらい経っただろう。


 時計はない。

 太陽も見えない。


 あるのは岩と、水溜まりと、淡く光るヒカリゴケだけ。

 さっきまで私は、この身体に慣れるために飛び回っていた。


 飛ぶ。曲がろうとする。

 壁にぶつかる。


 落ちる。

 また飛ぶ。


「キャピ……」

(飛ぶの難しい……)


 それでも、最初よりはだいぶマシになった。


 少しなら曲がれるようになったし、壁に張り付くこともできる。

 試してみたら、天井から逆さまにぶら下がることだってできた。


 コウモリの身体、意外と便利。


 ただし――。

 ぐぅぅぅぅ……。


「キャピキャピ……」

(そろそろ限界……)


 飛び回ったせいなのか、さっきから身体の奥がずっと何かを求めている。

 周囲を見る。


 岩。


 ヒカリゴケ。


 水。


「…………キャピ」

(食べ物ないじゃん)


 コウモリって何食べるんだっけ?

 果物?虫?


 あとは……血を吸う種類もいたような。


「キャピ……」

(バナナ生えてねぇかな……)


 ない。当然である。

 そのとき――。


 カサッ。


「キャピ?」

 暗闇の奥から音がした。


 カサカサッ。


 何かいる。


 私は慌てて翼を広げ、いつでも逃げられるように身構えた。

 やがて、ヒカリゴケの淡い光の中に何かが姿を現す。


「チュウ」


 灰色の毛。細長い尻尾。

 小さな身体。


「…………キャピ」

(ネズミじゃん)


 思わず力が抜けた。

 巨大ムカデでもなければ、毒々しいスライムでもない。


 ただのネズミ。

 これなら――。


 ふわっ。


「……キャピ?」

 妙にいい匂いがした。


 スンスン。鼻を動かす。

 匂いの元は――目の前のネズミ。


「…………キャピ」

(美味しそう……?)


 じっとネズミを見る。

 なぜだろう。口の中に唾液が溜まってくる。


「キャピ!?」

(ネズミ食うのー!?)


 いやいやいやいや。

 無理無理無理!


 私は元人間。

 日本人。文明人。


 ネズミを見て「美味しそう」なんて思ったことは一度もない。

 むしろ前世なら、見つけた瞬間に逃げる側だ。


 なのに今は――。

 ぐぅぅぅぅ……。


「…………キャピ」

 身体は正直だった。


「チュウ」

 そんな私の葛藤など知るはずもなく、ネズミが背を向ける。


「キャピ!」

(ちょ、待って!)


 逃げられる。

 …………。


 私はネズミを見る。

 お腹が鳴る。


 ネズミを見る。

 また、お腹が鳴る。


「…………キャピ」

(とりま狩るか!)


 食べるかどうかは、後で考えよう。

 相手はネズミ。


 こっちは飛べる。

 上から襲えば余裕でしょ。


「キャピ!」

(いくぞ!)


 翼を広げ、一気に飛び上がる。

 狙いを定めて――急降下!


「キャピィ!」

(もらったぁ!)


「ヂュッ!」


 ネズミが振り返った。

 そして――跳んだ。


「キャピ?」

 ガブッ!


「キャピィィィ!?」

(痛ぁぁぁ!?)


 翼に牙が食い込む。

 そのまま体勢を崩し、地面へ墜落した。


「キャピッ……!」

 噛まれた場所から血が滲んでいる。


「…………キャピ」

(血……)


 痛い。本当に痛い。

 当たり前だけど、ゲームみたいにHPが数字で減るだけじゃない。


 身体を傷つけられれば、普通に痛い。


「ヂュウッ!」


「キャピ!?」


 ネズミが飛びかかってきた。

 慌てて横へ転がる。


 ブンッ!爪が身体を掠めた。


「キャピッ!」

 また痛い。


 さっきまで、ネズミなら余裕だと思っていた。

 全然違う。こいつも生きている。


 そして――こいつも私を殺す気で戦っている。


「…………キャピ」

 胸の奥が冷たくなる。

 ここで負けたら。


 私――。

 また、死ぬ?


 仕事に追われて。

 何もできないまま死んで。


 せっかくもう一度、生きられたのに。

 こんなところで。


 ネズミに殺されて?


「…………キャピ」

 冗談じゃない。


 私は震える翼を広げた。


「キャピ……!」

(やるしかない……!)


 今度は正面から行かない。

 地面すれすれを飛び、ネズミの頭上を通過する。


「ヂュ?」


 ネズミが私を追って振り返る。

 今だ!翼を傾け、全力で急旋回。


「キャピィ!」

 背後から飛びついた。


 ガブッ!


「ヂュウウウッ!」

 牙が肉に食い込む。

 ネズミが激しく暴れた。


 爪が当たる。

 痛い。怖い。


 それでも――離さない。


「キャピィィィ!!」

(死んでたまるかぁぁぁ!!)


 必死に牙へ力を込める。

 暴れていたネズミの動きが、少しずつ弱くなっていく。


 そして――。


「ヂュ……」

 力が抜けた。


「…………キャピ」

 私は恐る恐る牙を離した。

 動かない。


「キャピ……?」

(勝った……?)


 しばらく待つ。

 やっぱり、動かない。


「…………キャピ」

(勝った……)


 翼が痛い。

 身体も傷だらけ。


 息も苦しい。

 ただのネズミ一匹。


 それだけなのに、死ぬかと思った。


「…………キャピ」

(異世界……)


 甘く考えていた。

 転生して。


 チートをもらって。

 無双する。


 そんな物語みたいに、簡単にはいかないらしい。

 今の私は、ネズミ一匹を倒すだけでも命懸けだ。


 そのときだった。

**《個体経験値が規定値に到達しました》**


「…………キャピ?」

**《個体レベルが上昇します》**

**《Lv.1 → Lv.2》**


「キャピ!?」

(レベルアップ!?)


 あるんだ!レベル!


「キャピキャピ!」

(よっしゃぁぁぁ!)


 さっきまでの恐怖も忘れて、翼を広げる。

 そして、ふと傷口を見る。


 …………。


「…………キャピ」

(治らないんかい)


 血は出たまま。

 傷も普通に痛い。


 どうやら、レベルアップしたからといって全回復するわけではないらしい。

 そこはゲームじゃないのね。


 でも――。

 レベルがある。

 なら、強くなれる。


 今はネズミ一匹に苦戦していても、レベルを上げていけば、

 いつかもっと自由にこの世界を生きられるかもしれない。


「キャピ!」

(よーし!)


 少しだけ希望が見えてきた。

 ――その瞬間。


**《条件達成を確認》**

「キャピ?」

**《魂魄情報との接続を開始します》**


「…………キャピ?」

 何それ?

 一瞬だけ、意識の奥に何かが触れたような感覚がした。


 痛くはない。

 でも、妙な感じだ。


 やがて――。

**《接続完了》**

**《個体情報を登録しました》**


「…………キャピ」

 …………。


「キャピ?」

(終わり?)


 返事はない。

 何に接続したのかも。

 何に登録されたのかも。

 さっぱり分からない。


「…………キャピ」

(まあ、異世界だしな)

 レベルが上がったことで、何かの機能が使えるようになったとか。


 たぶん、そんなところだろう。

 私は深く考えるのをやめた。


 それよりも。

「…………キャピ」


 目の前には、倒したネズミ。

 そして。


 ぐぅぅぅぅ……。


 私のお腹は、まだ鳴っている。


「…………キャピ」

(……これ、食うの?)

 初めての獲物を前に。

 私には戦いよりも重大な問題が残されていた。


**――第2話 第2話 初めての獲物 完**

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