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『転生したらコウモリでした。キャピしか言えないけど異世界で生きます。』  作者: AsaHiruYugataYoru
第1章 キャピしか言えないけど、洞窟で生き残ります。

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第1話 目が覚めたらコウモリでした。

挿絵(By みてみん)

# 第1話 目が覚めたらコウモリでした。


 暗い。

 最初に思ったのは、それだった。


 いや、真っ暗というわけじゃない。

 ぼんやりと青白い光が見える。


 壁に何かが生えている。


 苔?

 ヒカリゴケ……みたいなやつ?


 …………。


 あれ?

 私、生きてる?


「キャピ?」

 …………。


 ん?


「キャピ?」

 今の何?


 声を出したつもりだった。

 でも聞こえてきたのは、やたら甲高い鳴き声。


「キャピキャピ?」

(あー、あー。テステス)


「キャピキャピキャピ」

(ただいまマイクのテスト中)


 …………。


「キャピ!?」

(待て!?)


 おかしい。

 明らかにおかしい。


 声だけじゃない。

 身体の感覚も変だ。


 まず――手がない。


「キャピ!?」

(手ぇ!?)


 慌てて身体を動かそうとする。

 バサッ。


「キャピィ!?」

 何かが広がった。


 視界の端に、黒い膜のようなものが見える。

 恐る恐る動かしてみる。


 バサッ。

 バサバサッ。


「…………キャピ」

(翼じゃん)


 嫌な予感がする。

 ものすごく嫌な予感がする。


 私は周囲を見回した。

 岩。岩。ヒカリゴケ。


 また岩。

 どうやら、ここは洞窟らしい。

 少し離れたところに、小さな水溜まりがある。


「キャピ……」

 私はぎこちなく身体を動かして、そこまで近づいた。


 そして――。

 恐る恐る、水面を覗き込む。


「…………」


 黒っぽい身体。

 大きな耳。

 つぶらな目。

 小さな牙。


 そして――翼。


「…………キャピ?」

 水面の生き物も首を傾げた。


 私が反対側へ首を傾ける。

 そいつも傾ける。


「キャピ?」

 右。

 右。

 左。

 左。


 翼を上げる。


 水面のそいつも翼を上げた。


「…………」

 認めたくない。


 でも。


 どう見ても。

 何度見ても。


 これは――。


「キャピィィィィィ!?」

(コウモリじゃん!?)


 洞窟中に甲高い声が響き渡った。


「キャピキャピキャピキャピ!!」

(私、コウモリになってるぅぅぅぅ!!)


 声だけが虚しく反響する。

 キャピキャピキャピ……。

 キャピキャピ……。

 キャピ……。


「…………キャピ」

(マジかよ……)


 私はその場にへたり込んだ。

 ……いや。

 

 コウモリがどうやってへたり込むのかは知らないけど、

 気分的には完全にへたり込んでいる。


 何で?

 どうしてこうなった?


 私は――。

「…………」


 そこで、死ぬ直前の記憶が蘇った。

 仕事。仕事。仕事。


 残業。また仕事。


 寝不足。身体が重い。


 それでも出勤して。

 また働いて――。


「…………キャピ」

(私、死んだんだ)


 たぶん。

 いや、ほぼ間違いなく。

 ブラック企業で働き続けて、最後は


――過労死した。


「キャピ……」

(…………)

 しばらく、何も考えられなかった。


 死んだ。 私。

 本当に死んだんだ。


 前世で最後に何を考えていたのかすら、よく覚えていない。

 ただ疲れていた。眠かった。休みたかった。


 それだけは覚えている。


 …………。

 でも。


「……キャピ?」

(待てよ?)


 私は顔を上げた。

 死んだ。

 なのに今、生きている。


 知らない洞窟。

 知らない身体。


 どう考えても日本じゃない。

 しかも私は――コウモリになっている。


「…………キャピ」

 その瞬間。


 私の中で死んでいたはずのオタク部分が、むくりと起き上がった。

 漫画。アニメ。ゲーム。

 そして――。


 大好物だった、異世界転生物。


「キャピ!?」

(もしかして、これ……!)


 死んだ人間が、別の世界で別の生き物として目覚める。

 つまり――。


「キャピキャピキャピ!」

(異世界転生ってやつでは!?)


 一気にテンションが戻ってきた。

 死んだはずなのに生きている。


 見たこともない洞窟。

 そして、コウモリになった私。


 うん。

 どう考えても、それっぽい!


 だったら――ある。

 絶対ある。


 異世界転生した主人公なら、まず確認するもの。

 私は意識を集中させた。


(ステータスオープン!)


 …………。


 …………。


 …………。


「キャピ?」

 何も起こらない。


(ステータス!)


 …………。


(ステータス表示!)


 …………。


「キャピ……?」

 おかしい。ならば!


(鑑定!)


 …………。


(アイテムボックス!)


 …………。


(メニュー!)


 …………。


(スキル!)


 …………。


「…………キャピ」

 何もない。


「キャピキャピキャピ!」

(おい神様ぁ!)

 返事なし。


「キャピ!」

(説明!)

 静寂。


「キャピキャピ!」

(チュートリアルくらい寄越せ!)


 ヒカリゴケだけが淡く光っている。


「…………キャピ」

(不親切すぎんだろ……)


 異世界転生。 たぶん。

 でも、神様からの説明なし。


 ステータスなし。

 チート能力があるのかどうかも分からない。


 そして身体は――。

 私はもう一度、水面を見る。


 コウモリ。


「キャピ……」

(せめて人間にしてくれよ……)


 水面の私は、情けない顔でこちらを見返している。

 ……いや。


 待て。

 本当にただのコウモリなのか?


 翼がある。

 牙もある。

 耳も前世とは比べものにならないくらい大きい。


 少なくとも、身体の仕組みは人間だった頃とはまったく違う。

 だったら、この身体で何ができるのか確認した方がいい。


 ステータスが見えないなら、自分で調べるしかない。


「キャピ!」

(よし!)


 まずは翼。広げる。

 バサッ。動く。


 もう一度。

 バサッ。


 バサバサッ。

 試しに強く羽ばたいてみる。


 ふわっ。


「キャピ!?」

 身体が浮いた。


「キャピキャピ!」

(浮いた!)


 もう一度。バサバサッ。

 今度は少し高くなる。


「キャピキャピキャピ!」

(飛べる! 私、飛べるぞ!)


 すごい。飛んでる!

 人間だった頃には絶対にできなかったことだ。


 嬉しくなって、そのまま勢いよく羽ばたく。

 身体が前へ進む。


「キャピィィィ――!」

(いっけぇぇぇ――!)


 ゴンッ!


「キャピッ!?」

 壁にぶつかった。

 ぽとっ。そのまま地面へ落ちる。


「…………キャピ」

(痛い……)


 どうやら、飛べるからといって最初から上手く飛べるわけではないらしい。

 私は地面に転がったまま、ぼんやりと天井を見上げた。


「キャピ……」

(異世界生活……)


 思っていたより、大変そうだ。

 そのときだった。


 ぐぅぅぅぅ……。


「…………キャピ?」

 小さなお腹が鳴った。


「キャピ……」

(腹、減ったな……)


 そうだ。

 転生だろうが何だろうが、生きているなら腹は減る。


 そして当然――食べなければ死ぬ。

 私はゆっくりと身体を起こした。


 この洞窟に何がいるのか。

 何を食べればいいのか。


 それすら、まだ分からない。

 私はまだ知らなかった。


 このあと、ただのネズミ一匹を相手に――

 本気で命を懸けることになるなんて。


**――第1話 目が覚めたらコウモリでした 完**

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