第20話 「人間が来た!」
# 第20話 人間が来た!
――コツ。
唯:「…………キャピ?」
天井にぶら下がったまま、耳を澄ませる。
《振動感知》に複数の反応。
一定の間隔で、こちらへ近づいてくる。
(魔物……?)
いや、違う。
二本足で歩いている。
しかも五つ。
そして――。
ガルド:「――この先も調べる。リン、何かあったらすぐ知らせろ」
唯:「…………キャピ?」
今、聞こえた。
意味のある言葉。
リン:「了解。この辺りから魔物の痕跡も増えてる。気をつけた方がいいね」
聞き間違いじゃない。
人の言葉だ。
唯:「キャピ!?」
(人間!?)
◇
胸が一気に高鳴った。
転生してから、ずっと洞窟。
聞こえるのは魔物の鳴き声、水の音、岩が崩れる音。
そして自分の――。
唯:「キャピ」
これだけ。
(人間……!)
会いたい。
話したい。
でも、私は自分の身体を見る。
大きな翼。黒い身体。牙。
(……いきなり出ていったら、まずいよね)
私は人間のつもりでも、見た目は完全に魔物だ。
まずは様子を見よう。
《隠密》
気配を消して、声の方へ向かった。
◇
岩陰から、そっと覗く。
唯:「…………!」
(いた!)
本当に五人いる。
大盾を背負った男。
軽装の女性。
弓を持った女性。
杖を持った青年。
そして最後尾には、大きな荷物を背負った僧侶らしい少女。
(人だ……! 本物の人間だ!)
それだけで泣きそうになる。
そのとき。
リン:「――止まって」
全員の足が止まった。
ガルド:「どうした?」
リン:「前。三体来る」
ガルドが大盾を構える。
ガルド:「エマは後ろへ。リューク、魔力は温存しろ」
エマ:「はい!」
――ガサッ!
三つの影が飛び出した。
(《鑑定》!)
《洞窟牙狼》
魔物ランク:E
一体目がガルドへ飛びかかる。
――ガァン!
大盾が牙を受け止めた。
ガルド:「リン!」
リン:「任せて!」
リンが横へ滑り込み、短剣で後脚を斬る。
体勢が崩れた瞬間――。
ミレイ:「そこ!」
矢が首筋へ突き刺さった。
二体目が横から迫る。
リューク:「《火球》!」
炎が洞窟を照らし、怯んだ狼をガルドの盾が弾き飛ばす。
唯:「キャピ……!」
(すっご……!)
私の戦い方とは全然違う。
私は一人で隠れて、狙って、噛みついて、危なくなったら逃げる。
でも、この人たちは。
(一人が止めて、別の人が攻撃して、後ろから弓と魔法!)
全部がつながっている。
唯:「キャピ!」
(パーティ戦だ!!)
ゲームでもアニメでもない。
本物の異世界冒険者が、目の前で戦っている。
(かっこいいぃぃぃ!!)
私は最後の一体が倒れるまで、夢中で見ていた。
◇
ミレイ:「この数日だけでも、やっぱり変ね」
リン:「本来なら、もっと奥にいる魔物の痕跡もあった」
ガルド:「何かが魔物を浅い方へ押し出してるのかもしれん」
(この洞窟を調べに来たんだ)
異変なら、私にも心当たりがある。
グランガとアビスラが死んでから、魔物の動きは明らかに変わった。
(…………まさかね)
それより。
(話したい)
街のこと。
この世界のこと。
聞きたいことは山ほどある。
それに――。
(私も冒険者になれるかな)
さっきの戦いが頭から離れない。
誰かと一緒に旅をして、知らない場所へ行ってみたい。
唯:「…………キャピ」
(よし!)
せっかく会えたんだ。
私は《隠密》を解除した。
◇
バサッ。
ガルド:「――止まれ!」
唯:「キャピ!?」
(はやっ!)
全員がこちらを向く。
私は慌てて近くの岩へ降りた。
ミレイ:「……コウモリドラ?」
ガルド:「いや、待て」
ガルドが私をじっと見る。
ガルド:「……でかい。こんな大きなコウモリドラ、見たことねえぞ」
リン:「普通の個体じゃないね」
ミレイ:「特殊個体……?」
ガルド:「……やはり、このダンジョンで何か起きてるのか」
唯:「…………キャピ」
(私、異変扱いされてる!?)
ガルド:「全員、警戒。ただし手は出すな」
(話し合える!)
唯:「キャピ!」
(こんにちは!)
翼をぱたぱた。
唯:「キャピキャピ!」
(私、敵じゃないよ!)
ガルド:「…………」
唯:「キャピ!」
ガルド:「……何をしてる?」
(通じてない!)
知ってたけど!
唯:「キャピ! キャピキャピ!」
(中身は人間だから!)
一歩近づく。
ガルド:「来るぞ! 構えろ!」
唯:「キャピィ!?」
(違う違う違う!)
盾、短剣、弓、杖。
一斉にこっちを向く。
(無理!)
唯:「キャピィィィ!!」
私は反転して、全力で逃げた。
◇
エマ:「……逃げた?」
リン:「追う?」
ガルド:「いや。追わなくていい」
ガルドが大盾を下ろす。
ガルド:「目的は異変の調査だ。あんな特殊個体、何を持ってるか分からん。下手に刺激するな」
ミレイ:「でも、あんなコウモリドラ聞いたことないわ」
ガルド:「記録しておけ。異変と関係している可能性もある」
エマ:「…………」
エマは、唯が消えた暗闇を見つめていた。
エマ:「でも……さっきの魔物、ほかの魔物とは何か違ってた気がします」
ガルド:「ん?」
エマ:「……敵意がなかったのかも」
ガルド:「…………」
ガルドも暗闇の奥を見る。
ガルド:「……だとしても、油断はするな」
エマ:「はい」
ガルド:「進むぞ」
◇
唯:「…………キャピ」
(怖かったぁ……)
十分に距離を取って、岩陰に隠れる。
やっと人間に会えた。
言葉も分かった。
なのに、私の言葉は何一つ伝わらなかった。
(そりゃそうか……)
私は人間のつもりでも。
向こうから見れば、ただの魔物だ。
唯:「…………キャピィ」
(せっかく会えたのになぁ……)
遠くから、かすかに人の声が聞こえる。
…………。
唯:「キャピ」
(ちょっとだけ)
帰るとは言ってない。
近づかなければいい。
見るだけ。
話を聞くだけ。
《隠密》
(だって、人間だよ!?)
気になるに決まってる!
私は再び、こっそり五人の後を追い始めた。
そのとき――。
――ザッ。
唯:「…………キャピ?」
《振動感知》に新しい反応。
前方。
複数。
しかも、速い。
(また……何か来る?)
私は暗闇の奥へ耳を向けた。
**――第20話 人間が来た! 完**
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