第19話 「進化確認と地上の大騒ぎ」
# 第19話 進化確認と地上の大騒ぎ
――コツ。
《振動感知》に、小さな反応が触れる。
唯:「…………キャピ」
(やっぱり、いる)
昨日までなら、ほとんど魔物が近づかなかった場所。
グランガがいた乾いた洞窟を、一匹の魔物が歩いている。
《鑑定》。
《岩殻トカゲ》
魔物ランク:E
個体Lv:8
唯:「…………キャピ」
(なんでここに?)
前なら絶対に来なかった。
逃げている最中でさえ、あの境界だけは越えなかったのに。
少し離れた場所では、湿った洞窟にいたはずの魔物まで見つけた。
(もしかして……)
グランガ。
アビスラ。
二匹の洞窟の主。
乾いた側と、湿った側。
あいつらが互いの縄張りを牽制していたから、魔物たちも境界を越えなかった。
そして。
二匹とも死んだ。
唯:「…………キャピ」
(これ……私のせい?)
正確には、アビスラが私を追いかけてきたせい。
でも。
そこまで考えて。
唯:「キャピ!」
(レベル上げよ!)
考えても戻ってこないものは仕方ない!
今の私には、もっと大事な目標がある。
《ヴァンパイアドラ》
その進化特性。
《人化》
必要レベルは30。
現在27。
(あと三つ!)
◇
それから。
私は、ひたすら狩った。
飛ぶ。探す。
《振動感知》。
見つけたら《鑑定》。
相手を選んで、《隠密》。
《弱点感知》で狙いを定める。
急降下。
ガブッ!
吸う。逃げる。
また探す。
以前なら慎重に避けていたEランクも、今なら大きな脅威じゃない。
Dランクだって、相性とレベルを見れば狙える。
ただ。
狩れば狩るほど、違和感は大きくなっていった。
乾いた洞窟に、湿地を好む魔物。
湿った洞窟に、乾燥した岩場にいた魔物。
今まで見なかった魔物まで、奥から流れてくる。
それだけじゃない。
浅い方へ向かう魔物が、明らかに増えている。
唯:「…………キャピ」
(やっぱり、おかしい)
洞窟の中が。
少しずつ、ぐちゃぐちゃになっている。
◇
《個体Lv:27 → 28》
狩る。
《個体Lv:28 → 29》
また狩る。
眠る。起きる。
飛ぶ。
狩る。
その間にも、魔物たちは動き続けた。
昨日まで安全だった道に、今日はDランクがいる。
逆に、魔物だらけだった場所から何もいなくなる。
頭の中に作った洞窟の地図が、どんどん当てにならなくなっていく。
唯:「キャピィ……」
(せっかく覚えたのに……)
そして。
どれくらい経っただろう。
いつものように獲物へ牙を突き立てた、そのとき。
――ピコン。
《個体Lv:29 → 30》
唯:「…………キャピ」
…………。
唯:「キャピィィィ!!」
(きたぁぁぁ!!)
Lv30!
ついに!
(《鑑定》!)
---
《ラ・コウモリドラ》
個体名:唯
個体Lv:30
魔物ランク:D
状態:正常
《月蜜華因子統合中:84%》
《推定残り時間:384時間》
---
唯:「キャピ!」
(レベル30!)
ちゃんと上がってる!
しかも。
(84%……)
前に確認したときは70%だった。
つまり、あれから約二週間。
残り384時間。
(あと16日か)
こっちも、もう少し。
でも今は――。
(進化!)
すぐに系譜を開く。
---
《ド・コウモリドラ》
進化条件:
✓ 個体Lv.30
《進化可能》
《アサシン・ド・コウモリドラ》
進化条件:
✓ 個体Lv.30
■ 暗殺個体数1000体
《ヴァンパイアドラ》
進化条件:
✓ 個体Lv.30
■ ■■の血を摂取する
進化特性:
《人化》
---
唯:「…………キャピ」
普通に進化するなら。
もうできる。
《ド・コウモリドラ》。
今すぐ選べば、さらに強くなれる。
でも。その下。
《ヴァンパイアドラ》
《人化》
唯:「…………キャピ」
(待つ)
即決だった。
(ここまで来て、人化を捨てるとかないでしょ)
問題は相変わらず。
《■■の血を摂取する》
これだけ。
唯:「キャピ……!」
(絶対見つける!)
◇
唯がLv30へ到達した頃。
洞窟から離れた地上でも、その異変は無視できないものになっていた。
エクエール王国。
地方都市ノスト。
冒険者ギルドには、ここ数日で同じ地域からの報告が相次いでいた。
森で見かける魔物が増えた。
本来なら洞窟にいる魔物まで地上へ出ている。
さらに、二週間ほど前には森の奥から大きな地響きと轟音が何度も聞こえたという。
ギルド職員:「北方森林の洞窟周辺で、魔物の異常行動が確認されています」
集められた冒険者たちを前に、職員が説明する。
ギルド職員:「現時点でモンスターパレードとは認定されていません。ただし、その前兆である可能性は否定できません」
ざわめきが広がる。
ギルド職員:「原因確認のため、洞窟内部の調査を行います。今回は討伐が目的ではありません。異常を確認した場合、無理に交戦せず情報を持ち帰ってください」
その話を聞いていた一人の男が腕を組む。
大盾を背負った冒険者――ガルド。
ガルド:「調査か……」
ミレイ:「受けるんでしょ?」
弓を携えたミレイが尋ねる。
ガルド:「ああ」
即答したあと。
ガルドは後ろを見る。
斥候のリン。
魔術師のリューク。
そして。
大きな荷物を両腕で抱えた少女。
ガルド:「エマ」
エマ:「は、はい!」
びくっ、と肩が跳ねる。
ガルド:「加入して最初の仕事がこれとはな。無理そうなら残ってもいいぞ」
エマ:「だ、大丈夫です!」
即答。
そして少しだけ間を置いて。
エマ:「…………たぶん」
ミレイ:「そこは言い切りなさいよ」
エマ:「だ、大丈夫です!」
今度は言い切った。
ミレイが小さく笑う。
ガルド:「今回は調査だ。戦闘になっても深追いはしない。異常があればすぐ撤退する」
エマ:「はい!」
荷物持ち兼、見習い僧侶。
まだ冒険者として戦えるほどの経験はない。
それでもエマは、背負った荷物の紐をぎゅっと握った。
エマ:「大丈夫……調査だけだもん」
ミレイ:「自分に言い聞かせてる?」
エマ:「ち、違います!」
翌朝。
五人は、北方森林の洞窟へ向けて出発することになった。
◇
同じ頃。
洞窟の奥。
唯:「キャピ!」
(次!)
Lv30になっても。
唯は《■■》の正体を探して、いつも通り飛び回っていた。
自分がずっと会いたかった存在が。
もうすぐそこまで近づいているとも知らずに。
**――第19話 進化確認と地上の大騒ぎ 完**




