第18話 「怪獣の血飲んじゃいます!キャピ」
# 第18話 怪獣の血飲んじゃいます!キャピ
血の匂いがする。
濃い。
今まで吸ってきたネズミや、
洞窟の魔物とはまるで違う。
倒れたアビスラ。
その首元から流れ出した血が、
岩のくぼみに溜まっている。
唯:「…………キャピ」
(飲みたい)
お腹が空いたわけじゃない。
喉が渇いたわけでもない。
なのに。
――ドクン。
牙の奥が疼く。
身体の奥にある何かが、あの血を欲しがっている。
でも。
唯:「キャピ……」
(その前に……)
右の翼を見る。
落石の下に挟まれたまま。
少し動かすだけで、鋭い痛みが走る。
(これ、どうしよ)
飛べない。
このまま他の魔物が来たら終わる。
唯:「キャピ……!」
(やるしかない!)
爪を岩壁へ食い込ませ、身体を固定する。
翼をできる限り細く畳んで――。
(せーのっ!)
唯:「キャピィィィィ!!」
ズルッ!
抜けた。
同時に身体が落ちる。
唯:「キャピ!?」
反射的に翼を広げる。
けれど、右が動かない。
(落ちる!)
左翼を必死に羽ばたかせ、爪を伸ばす。
ガリッ!
なんとか岩壁に引っかかった。
唯:「…………キャピ」
(死ぬかと思った……)
三本の手足と左翼を使って、ゆっくり壁を下りる。
(コウモリなのに……徒歩……)
正確には壁だけど。
◇
ようやく地面へ降りた。
目の前にはアビスラ。
唯:「…………キャピ」
(本当に死んでるよね?)
《振動感知》。
反応なし。
念のため、小石を蹴る。
コツン。
動かない。
《鑑定》。
---
《深淵大蛇アビスラ》
魔物ランク:???
個体Lv:???
状態:死亡
《鑑定能力が不足しています》
---
唯:「キャピィ……」
(怖かったぁ……)
ようやく力が抜けた。
私を散々追い回した怪物が、もう動かない。
そして。
――ドクン。
また身体が反応する。
(《吸血》なら……翼も治る?)
ネズミの血でも傷は治った。
だったら、この怪物の血なら。
恐る恐る舌を伸ばす。
ぺろっ。
唯:「――キャピ!?」
濃い。
舌から喉へ、熱い何かが流れ込んでくる。
(もっと……)
私は血溜まりへ口をつけた。
ゴクッ。
ゴクゴク。
唯:「キャピ!?」
右の翼が熱い。
ズキズキしていた痛みが、少しずつ消えていく。
動かしてみる。
痛くない。
唯:「キャピキャピ!」
(治ってる!)
なら、もっと!
ゴクゴクゴク!
唯:「キャピ!」
(怪獣ジュースすごい!)
イチゴジュースから、ずいぶん遠いところまで来た気がするけど。
今は気にしない!
――ピコン。
《高位個体から特殊生命情報を取得しました》
《既存因子との高適合を確認》
《ヴァンパイア因子が活性化しました》
《ヴァンパイア因子:1% → 2%》
唯:「…………キャピ」
(ヴァンパイア、育った)
なんで蛇の血で?
分からん。
《高位個体の生命情報を蓄積しました》
《進化条件への影響を確認しました》
唯:「キャピ!?」
(進化!?)
続きは?
…………。
何も出ない。
唯:「キャピキャピ!」
(そこ一番大事なところぉぉ!!)
◇
翼を広げる。
軽く羽ばたくと、身体が浮いた。
唯:「キャピ!」
(飛べる!)
これなら逃げられる。
……逃げる?
私は振り返った。
もう一つの巨体。
グランガ。
アビスラの血で、翼が治った。
因子も増えた。
進化にも何か影響した。
(こっちも……いける?)
《振動感知》。
反応なし。
小石をぶつけても動かない。
唯:「キャピ」
(よし)
グランガの首元へ近づく。
岩のような甲殻の隙間から、赤黒い血が流れていた。
唯:「キャピ……」
(ちょっとだけ)
ぺろっ。
唯:「――キャピ!?」
舌がビリッと痺れた。
唯:「キャピィィィ!?」
(毒ぅぅぅ!?)
忘れてた!
グランガは最後に、アビスラの毒牙を食らっている。
《毒性物質を検出しました》
《耐性獲得条件を達成しました》
《スキル《毒耐性Lv.1》を獲得しました》
唯:「…………キャピ?」
痺れが、すっと引いていく。
唯:「キャピ!」
(あ、大丈夫だ!)
なら。
チューッ!
唯:「…………キャピ」
(まずっ!)
苦い。
濃い。
なんというか。
(土っぽい……)
怪獣ジュース。
個体差が激しい。
それでも飲む。
ゴクッ。
ゴクゴク。
――ドクン。
身体の奥で、何かが強く脈打った。
《高位個体から特殊生命情報を取得しました》
《休眠因子との高適合を確認》
《龍因子が活性化しました》
《龍因子:0% → 1%》
唯:「キャピ!?」
(龍!?)
グランガを見る。
地竜。
自分を見る。
コウモリ。
でも、私の種族は――。
(ラ・コウモリドラ)
ドラ。
唯:「…………キャピ」
(ドラって、そういうドラだったの?)
知らんけど。
《複数の高位生命情報を取得しました》
《既存因子との適合性を確認》
《進化条件の一部を満たしました》
さらに。
《鑑定Lv.2 → Lv.3》
《鑑定可能情報が拡張されました》
《進化系譜の一部が閲覧可能になりました》
唯:「…………キャピ」
(進化系譜?)
気になる。
めちゃくちゃ気になる。
その前に。
(今の私、どうなってる?)
自分へ《鑑定》を使う。
---
《ラ・コウモリドラ》
個体名:唯
個体Lv:27
魔物ランク:D
状態:正常
保有スキル:
《鑑定Lv.3》
《吸血Lv.3》
《隠密Lv.4》
《飛行Lv.5》
《弱点感知Lv.3》
《振動感知Lv.3》
《毒耐性Lv.1》
特殊因子:
《夢魔因子:1%》
《ヴァンパイア因子:2%》
《龍因子:1%》
特殊処理:
《月蜜華因子統合中:70%》
《推定残り時間:720時間》
進化系譜:一部解放
---
唯:「…………キャピ」
(レベル27!?)
進化した直後はLv.1だった。
毎日飛んで、狩って、逃げて。
気づけば、ここまで上がっていた。
スキルもかなり育っている。
(《飛行》Lv.5……そりゃ上がるわ)
怪獣からも全力で逃げたし。
それより。
《月蜜華因子統合中:70%》
《推定残り時間:720時間》
(720時間……あと30日!?)
あの花の蜜を飲んでから、もうそんなに経ってたの?
洞窟にいると、本当に時間感覚がなくなる。
でも今は――こっち!
《進化系譜:一部解放》
意識を向ける。
---
### 《第二進化系譜》
《ド・コウモリドラ》
魔物種
コウモリドラ種の上位個体。
群れの頂点に立つ大型種。
自然発生例は約三十年に一度。
進化条件:
・個体Lv.30
《アサシン・ド・コウモリドラ》
魔物種/希少種
狩猟能力と隠密性に特化した希少個体。
進化条件:
・個体Lv.30
・暗殺個体数1000体
《ヴァンパイアドラ》
半魔族種/極希少種
魔物から半魔族へ、存在そのものが変質した特殊進化個体。
確認された事例は極めて少ない。
進化特性:
《人化》獲得
進化条件:
・個体Lv.30
・■■の血を摂取する
---
唯:「…………キャピ」
三つ。
次の進化先が見えてる。
普通に育てば《ド・コウモリドラ》。
狩りに特化すれば《アサシン・ド・コウモリドラ》。
(アサシン……ちょっとカッコいい)
でも。
その下を見た瞬間。
全部吹き飛んだ。
《ヴァンパイアドラ》
《進化特性:《人化》獲得》
唯:「…………キャピ」
(…………人化?)
もう一度見る。
《人化》
(人間になれる?)
手が使える。
服が着られる。
ご飯を食べられる。
お酒だって飲めるかもしれない。
洞窟の外へ行って。
誰かと普通に話せる。
何より。
もう――。
唯:「キャピキャピキャピ!」
って。
言わなくていい。
唯:「キャピィィィィ!!」
(人化一択ぅぅぅ!!)
必要レベルは30。
今は27。
あと三つ。
唯:「キャピ!」
(二週間もあればいける!)
問題は。
《■■の血を摂取する》
唯:「…………キャピ」
(何の血?)
もう一度見る。
《■■の血を摂取する》
唯:「キャピキャピ!」
(そこ隠すなよぉぉぉ!!)
一番大事なところ!
当然、答えは返ってこない。
でも。
私はもう一度、《人化》の二文字を見る。
今までは、ただの願望だった。
いつか人間になれたら。
いつか誰かと話せたら。
でも今は違う。
道がある。
あと三レベル。
そして。
■■の血。
唯:「…………キャピ」
(絶対、見つける)
人間になって。
洞窟の外へ出て。
ちゃんと、二度目の人生を楽しむ。
唯:「キャピ!」
(まずはLv.30!)
そのとき。
――コツ。
唯:「…………キャピ?」
《振動感知》に、小さな反応が触れた。
一つ。
さらに、もう一つ。
今までなら、この場所には近づいてこなかったはずの方向から。
(なんで、こっちに来てるんだろ?)
二匹の主が消えた洞窟で。
それまで保たれていた何かが。
静かに、崩れ始めていた。
**――第18話 怪獣の血飲んじゃいます!キャピ 完**




