第17話 「逃げられない怪獣大決戦」
# 第17話 逃げられない怪獣大決戦
「グオオオオオオオッ!!」
「シャアアアアアアッ!!」
「…………キャピ」
(帰りたい)
前にはグランガ。
後ろにはアビスラ。
さっきまで私をしつこく追い回していたアビスラは、もう私を見ていない。
二匹の視線は、完全に互いへ向いていた。
「…………キャピ」
(今なら逃げられる?)
私はゆっくり翼を動かす。
一センチ。
もう少し。
お願い。
そのまま私のこと忘れてて。
私は何もしてません。
ただ通りかかっただけのコウモリです。
アビスラをここまで連れてきたのも――。
「…………」
(…………私だった)
考えるのやめよう。
とにかく逃げる。
私は二匹から距離を取ろうと――。
「シャアアアッ!!」
先に動いたのはアビスラだった。
「キャピッ!?」
巨体が弾ける。
速い。
あれだけ大きな身体が、一瞬でグランガとの距離を潰した。
大口を開けて。
グランガの首へ――。
――ドガァァァン!!
「キャピィ!?」
当たる直前。
グランガの前脚が振るわれた。
アビスラの頭が弾かれる。
巨体が岩壁へ激突。
洞窟全体が揺れた。
「…………キャピ」
(なに今の)
アビスラが。
私が必死に逃げ続けた怪獣が。
前脚一発で吹き飛んだ。
「…………」
(今のうち!)
私は全力で羽ばたいた。
戦ってるなら勝手にやって!
私は帰る!
出口側へ向かって――。
――ブォン!
「…………キャピ?」
視界の端。
何かが。
来る。
「キャピィィィ!?」
急上昇。
直後。
グランガの巨大な尾が、私の真下を通過した。
――ドガァァン!!
岩壁が吹き飛ぶ。
「キャピキャピキャピ!」
(無理無理無理!)
私を狙ったんじゃない。
アビスラを狙った攻撃。
なのに。
**当たったら私なんて消し飛ぶ。**
「…………キャピ」
(逃げ道……!)
下はダメ。
二匹がいる。
横もダメ。
どこまで攻撃が飛んでくるか分からない。
なら。
「キャピ!」
(上!)
私は天井近くまで一気に上昇した。
岩の出っ張り。
その裏へ身体を押し込む。
(《隠密》!)
翼を畳む。
息を殺す。
できるだけ小さく。
「…………キャピ」
(ここで……待つ)
二匹が離れたら逃げる。
それまで。
絶対に動かない。
◇
「シャアアアアアッ!!」
アビスラが再び飛びかかった。
今度は正面じゃない。
グランガの横を抜ける。
そのまま長い身体が巻きついた。
「グオオオオオッ!!」
グランガが暴れる。
アビスラの身体が。
一周。
二周。
岩山みたいな巨体を締め上げる。
「…………キャピ」
(力比べ……?)
違う。
アビスラが大口を開けた。
狙っているのは。
グランガの首。
でも、そこは分厚い甲殻に覆われている。
噛みついても――。
「…………キャピ?」
牙が。
甲殻ではなく。
**その隙間へ入った。**
――ガブッ!
「グオオオオオオッ!!」
グランガが吠える。
アビスラの牙から。
紫色の液体が流れ込んでいく。
「…………キャピ」
(毒……!)
Dランクの食い残し。
あれ。
全部。
アビスラの毒だったんだ。
グランガが身体を振る。
でもアビスラは離れない。
締めつける。
さらに牙を押し込む。
「…………キャピ」
(グランガ、まずくない?)
その瞬間。
グランガが動いた。
アビスラを巻きつかせたまま。
岩壁へ。
――ドガァァァン!!
「…………っ!」
洞窟が震える。
もう一度。
――ドガァァン!!
さらに。
――ドガァァァン!!
「シャアアッ!?」
アビスラの身体が緩んだ。
グランガが前脚で掴む。
そのまま。
地面へ。
――ドォォン!!
「…………キャピ」
(怪獣映画じゃん……)
いや。
映画なら。
私は安全なところで見てる。
これは違う。
私は今。
**怪獣映画の画面の中にいる。**
「…………キャピ」
(お願いだから早く終わって……)
◇
どれくらい経った?
五分?
十分?
分からない。
体感では。
ずっと戦っている。
グランガの爪が岩を砕く。
アビスラの尾が地面を薙ぐ。
二匹がぶつかるたび。
洞窟そのものが揺れる。
「…………キャピ」
私はDランクになった。
進化して。
飛ぶのも上手くなった。
Eランクなら普通に狩れる。
Dランクだって。
相手を選べば戦える。
強くなった。
そう思ってた。
でも。
――ドガァァァン!!
岩壁が。
丸ごと崩れる。
「…………キャピ」
(こんなの……)
どうやって戦うの?
グランガも。
アビスラも。
私なんて見てすらいない。
なのに。
ここにいるだけで。
死ぬ。
「…………」
そのとき。
――ピシッ。
「…………キャピ?」
小さな音。
怪獣たちの轟音に紛れて。
すぐ近くから聞こえた。
――ピシ。
――ピシピシッ。
「…………キャピ」
(…………上?)
顔を上げる。
私が隠れている岩。
その根元に。
亀裂。
「…………キャピ」
(まず――)
――バキッ!!
崩れた。
唯:「キャピィィィィ!!」
飛ぶ。
でも。
遅い。
落ちてきた岩が背中へ当たる。
――ドガッ!
「キャピッ――!」
身体が岩壁へ叩きつけられた。
息が。
止まる。
落ちる。
翼を広げ――。
――ゴキッ。
唯:「キャピィィィッ!!」
激痛。
右の翼。
岩と岩の間に挟まっている。
「キャピッ……キャ……!」
(痛い痛い痛い!!)
引く。
抜けない。
もう一度。
「キャピィッ!」
ダメ。
しかも。
翼の中。
明らかに。
おかしい。
「…………キャピ」
(折れた……?)
ぞっとした。
飛べない。
コウモリなのに。
私の一番の逃げ道が。
なくなった。
「…………キャピ」
(やばい)
下を見る。
二匹は。
まだ戦っている。
私が岩に潰されかけたことなんて。
当然。
気づいてすらいない。
「…………キャピ」
(余波だけで……これ?)
身体が震えた。
痛みだけじゃない。
怖い。
本当に。
怖い。
◇
私は岩に挟まれたまま。
《隠密》を維持した。
声を出すな。
動くな。
見つかるな。
そして。
死ぬな。
「…………キャピ」
(お願い……)
(早く終わって……)
戦いは続く。
でも。
少しずつ。
変化が見え始めた。
グランガの動き。
さっきより。
遅い。
「…………キャピ?」
一歩。
ぐらり。
もう一歩。
また。
ぐらっ。
(毒……)
効いてる。
あれだけ殴られて。
叩きつけられて。
アビスラも全身血まみれ。
それでも。
最初に打ち込んだ毒が。
確実にグランガを削っている。
「シャアアアッ!!」
アビスラが飛びかかる。
グランガは。
避けなかった。
「…………キャピ?」
正面から。
迎えた。
――ガブンッ!!
「シャアアアアアアッ!!」
グランガの牙が。
アビスラの首元へ深く食い込んだ。
アビスラが暴れる。
身体を巻きつける。
締め上げる。
牙を突き立てる。
それでも。
グランガは離さない。
「グルルルルル……!」
首を。
大きく振った。
――ブチッ!!
「…………キャピ」
肉が抉れた。
血が。
噴き出す。
アビスラの巨体が地面へ落ちる。
それでも。
頭を持ち上げた。
「…………キャピ」
(まだ……やるの?)
グランガも。
立っている。
でも。
脚が震えていた。
アビスラも。
血を流し続けている。
逃げれば。
もしかしたら。
どちらかは助かるかもしれない。
なのに。
二匹とも。
逃げない。
「…………キャピ」
そのとき。
少しだけ。
分かった気がした。
乾いた側。
湿った側。
魔物たちが決して越えなかった境界。
(こいつら……)
ずっと。
互いを知っていたんだ。
だから。
越えなかった。
こいつがいるから。
向こうへ行かない。
向こうにあいつがいるから。
こっちへ来ない。
それで。
洞窟の奥は。
ずっと二つに分かれていた。
「…………キャピ」
(それを私が……)
アビスラを見る。
グランガを見る。
「…………」
(ぶつけちゃったんだ……)
◇
「シャアア……!」
「グルルル……!」
二匹が。
最後に。
動いた。
アビスラが飛び出す。
グランガも踏み込む。
毒牙が。
グランガの首へ。
深く。
突き刺さった。
同時に。
グランガの顎が。
アビスラの頭部近くへ食らいつく。
――ドォォォォン……!!
「…………キャピ」
巨体が。
倒れた。
静かになった。
「…………」
何も。
動かない。
私は震えながら。
岩へ意識を向ける。
(《振動感知》)
…………。
…………。
反応。
なし。
「…………キャピ」
(終わった……?)
まだ動けない。
翼は岩に挟まれている。
身体中が痛い。
だから。
待った。
もう一度。
(《振動感知》)
…………。
…………。
やっぱり。
動かない。
「…………キャピ」
そのとき。
鼻に届いた。
濃い。
むせ返るような。
血の匂い。
下を見る。
グランガ。
アビスラ。
二匹の周囲に。
大量の血が広がっている。
「…………キャピ」
喉が。
鳴った。
私の中の《吸血》が。
今まで一度もなかったほど。
強く。
その血を――。
**欲しがっていた。**
**――第17話 逃げられない怪獣大決戦 完**




