八十六話 決断の物語
「ついたぞ!」
アキヒロは一人微かな記憶である森に現れた。
通りゃんせの森だ。森の決まりは歌いながら入ることはもう知っている。
「では行くか。…通りゃんせ、通りゃんせ。ここはどこの細道じゃ。」
アキヒロは歌いながら入ると森も答えるように歌い返す。
『天神様の細道じゃ』
「ちっと通して下しゃんせ。」
『御用の無いもの通しゃせぬ。』
「この子の七つのお祝いに、御札を納めに参ります。」
『行きは良い良い帰りは怖い。怖いながらも通りゃんせ、通りゃんせ。』
ざわざわと森は動き出し道が開けてくる。アキヒロが向かったのはかつて昔にお世話になった『木の葉温泉』だ。
「懐かしい景色じゃのう。」
その声にいち早く気づいたのは、耳や鼻がいい犬神だ。
「お!アキヒロ!どうした!?お前だけが来るなんて。」
「おや、アキヒロ。戦の時以来ですね。」
「どうかしたのか?」
犬神に続き件と鬼女も集まると、さらに置くからドスドスと音が聞こえた。
「ん?何じゃ。何奴じゃ?」
大きい狸がアキヒロの前に立つとずいっと顔を近づけた。
「遂にボケが始まりましたか?犬神刑部狸様?」
「…その生意気な言い方は…お前アキヒロだな?随分老けおって。」
「えぇ、もう爺さんですよ。」
犬神刑部狸はわはははっと笑うと近づけた顔を引っ込める。
「で?何しに来たんだ?蝶化身という事は妖怪になんたんじゃろ?ここに住むという話か?」
「それはいい!アキヒロ!お前もここに住め!鬼女も他の妖怪たちと仲良く暮らしてるし、皆お前を歓迎してくれるぞ?」
「私もいいと思いますよ?」
「………。」
「どうしたアキヒロ?」
鬼女が心配そうに声をかけるとアキヒロは大きく深呼吸をし、話を始めた。
「実はな、ワシは完全な蝶化身では無いんじゃ。」
「?どういう意味だ?」
「晴明様にみてもらったんじゃが、ワシは蝶化身と魂の境目の存在らしい。そこで妖怪になるか魂に帰るかの選択を迫られている。」
「そんなもん妖怪になればいいじゃないか。仲良く暮らそうぜ?」
「ははっ、それもさぞかし楽しいだろうな?」
「アキヒロは違う考えなのか?」
「…ワシは……ワシは魂に帰ろうと思う。」
「はぁ!?何でだよ!」
「犬神、落ち着きなさい!」
「…理由を聞こう。」
驚いた犬神を件がなだめている前で話を続ける。
「確かに犬神の考えも魅力的じゃ。しかし、ワシには最愛の妻がおる。彼女が死んだ時一人にさせたくないんじゃ。二人で…二人であの世でゆづるたちを見守りたい。」
「………アキヒロ。」
「あぁぁぁぁぁ!!そんな話聞かされたら反対できないじゃないか!この愛妻家!!」
「はははっ!アキヒロは妻が大事なんじゃな?良い良い!では別れを言いに来たと。」
「あぁ、犬神、件、鬼女。再びお前たちと出会うことが出来て凄く嬉しかった。そして今までゆづるを見守ってくれてありがとう。」
アキヒロはだんだん涙が目から溢れ出してきた。それにつられてか犬神たちにも涙が溢れる。
「グスッ…お前が魂に帰っても友達だからな!」
「忘れませんよ。」
「奥様を絶対一人にさせるなよ。」
「皆………ありがとう!」
アキヒロは満面の笑みで返したのだった。




