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森の中は既にかなり暗く、僅かに木々の間から差しこむ夕日がうっすらと照らす程度だ。しかし、五感を含めた身体能力が高い獣人であるミネアにとっては何も問題が無いのだろう。ぴょんぴょんと跳ねるような足取りでさっさと進んでいく。
まとわりつかれるのも邪魔だが、あまり先を進まれるのも困る。この森は、かなり物騒なのだ。
ミネアに注意をしようと前を見据えた途端に目に入ったソレに、ゼノは盛大に舌打ちをする。
「おいミネア、止まれ」
「っ!? なんじゃ?」
ミネアに声を掛けるのとほぼ同時に風の刃を放ち、横手からミネアを狙っていたソレを一撃で倒す。
「ッチ、角猪か」
角猪はその名の通り、巨大な角を額に生やした猪の魔獣だ。角は素材として使えるし、肉も食べれる。悪くない獲物ではある。
しかし肉の臭みがかなり強いため、下ごしらえに時間がかかるのだ。こんな時間から調理したい物ではない。が、せっかく狩ったのだからと、とりあえず家の貯蔵庫へと転移させておく。
それから大きな金色の瞳をさらに大きく見開いているミネアの側へ行き、頭を拳骨で殴る。
「ぬっ!? なにをするのじゃ!」
「うっせぇよ。狙われてるのに気付かねぇ程度なら、勝手に先進むな。大人しくしてろ」
「うぬぬ……」
角猪に気付いていなかったのは事実の様で、ミネアは唸りながらもしょんぼりと大人しくなる。心なしか、頭上の耳もへたっていた。
「おら、さっさと肉獲って帰るぞ」
「さっきので良いのではないのか?」
「角猪は処理がめんどくせぇ。もっと楽に調理できる、大兎か突鴨が狙いだな」
狙いを説明してやると、大きな瞳をキラキラ輝かせながらゼノを見上げてくる。
「分かったのじゃ、大兎か突鴨じゃな!」
そしてそれだけを言うと駈け出して行こうとするので、むんずと後ろ襟を掴み、強制的に引きとめる。
「おいお前。今、どこ行こうとした?」
「? 獲物を探しに行くのじゃろ?」
きょとん、と問い返してくるミネアに頭が痛くなる。深く深くため息を吐き、とりあえずミネアの額にデコピンを食らわせてやる。
「痛っ! なにをするのじゃ!?」
「何じゃねぇ。お前、ついさっき俺が言ったこと、もう忘れたのか?」
「ゼノがさっき言ったこと……?」
首を傾げて考え込むミネアに、チッと舌打ちをする。
「お前の頭は鳥頭か。いや、鳥以下か。一歩も動いてねぇしな」
「ぬ!? 妾を愚弄するのか!」
「お前な……。俺は、ほんの少し前に勝手に先進むなって言ったよな? なのに何先行こうとしてんだ?」
「ふぬっ!!」
今思い出した、とばかりにきょときょとと周りを見回しだすミネアに、また深いため息が出る。これはもう少し本気で説教しなくては、と思った時だった。
「っ! ゼノっ!!」
「なんっ、うぁ!?」
ミネアが物凄い勢いでゼノの腹に向かってタックルをかます。そしてその勢いに押されて二人で軽く吹っ飛ぶと、さっきまで居た辺りに向かってミネアが火球を放った。
「ブモォォォ!!」
「っ、飛牛か……って、森ん中で火放つなよ!」
断末魔の悲鳴を上げながら派手に燃え上がるソレと、周囲に慌てて水をぶっ掛ける。そうしてやっと落ち着いて状況を把握する。
話し込んでいるうちに飛牛が上から襲ってきて、ソレに気付いたミネアが回避と共に攻撃を仕掛けた、といったとこだろうか。
飛牛は大きな体躯のくせに空中を自在に飛び回る。そして獲物の頭上から圧し掛かり、圧殺するのだ。まさにその攻撃を食らいかけていたのだろう。
攻撃手法が宜しくなかったため思わず怒鳴りつけてしまったが、ミネアには救われたことになる。
タックルをかましたままゼノの上に乗っているミネアの頭を、軽く撫でてやる。
「助かった。良く気付いたな」
「あ、当たり前じゃ! 妾は獣王の系譜ぞ!」
少しばかり呆けていた様子のミネアだったが、あっさり調子を取り戻してキャンキャン吠え出した。元気そうでなにより。
はいはい、と一回軽く頭を叩いてからミネアを抱き上げるようにしながら立ち上がる。そして倒した飛牛の側へ寄る。
「うわ、半分炭になってるじゃねぇか」
「ふん、妾にかかればこの位容易いものよ」
「いや、食いもん減ってんだけど?」
「ぬ……」
「ま、これだけあれば十分だけどな」
もう一度軽くミネアの頭を撫でてやり、まじまじと飛牛を見る。
火がついた後ろ半分が見事に炭化している。普通の火球であれば、せいぜい表面が炙られる程度だろう。とんでもない火力だ。
それにそもそも、普通の獣人であればこういった魔術は使えない。使えても身体強化系が関の山なのだ。
それなのに、ミネアは火球を使った。しかも超火力の火球だ。
ミネアの言う、獣王の系譜である、という言葉を信じざるを得ない。
より頭の痛くなる事実にため息を吐きながら、ゼノはミネアに声を掛ける。
「おい、夕飯はこれで十分だから帰るぞ」
「分かったのじゃ。さぁ、早く帰ってご飯にするのじゃ!」
ピコピコと耳を動かしながら喜ぶミネアに軽く笑い、飛牛ごと家へ転移するのだった。




