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「旦那様、奥様、おはようございます。」


「おはようございます、ウィルヘルムさん。」


「旦那様、お食事の前に、こちらをご服用下さいませ。」


何これ?豆?


「えっと・・・これは?」


「・・・秘伝の精力剤でございます。今朝方、調合いたしました。」


「お気遣いどうも・・・」


有能な執事でとっても嬉しいよ・・・

「そういえばテレーズ様から、グラスヘイム進軍の仔細を話したいって言われてたっけ?」


なんだろ?また奇襲でもかけろってかね?


「ええ、カイム?今日は1日、ウィルヘルム殿にお付き合いなさい。ウィルヘルム殿、ご自身の全てのお荷物を運んではいませんでしょう?カイムを使ってくださって構いませんわ。」


「はい!よろしくお願いします、ウィルヘルムさん!」


「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


「リーンベルは私達と共に、テレーズ様のお所へ行きますわよ。」


「はい!お姉様!」


「じゃ、今日はそんな感じの予定で。」


リヒトリュンヌ家、今日も一日頑張ろう!

コンコン・・・


「はいはい。貴方達もよく来るわね。」


おめえが呼んでんだよ・・・


「冗談よ。掛けてちょうだい。あら?今日はあの男の子はいないのね。」


「カイムはウィルヘルムさんのお手伝いに行ってますよ。」


「そう。どう?ウィルヘルムは優秀でしょ?」


「ええ、正直助かっております。あの広い屋敷を管理となると、家族だけでは大変なので。」


みんな家事くらいは出来るんだけど、こう外出が多いと結構大変なのだ。


「本人から要望があった時は驚いたけど、優しくしてあげてね?」


「もちろんですわ。」


「あと、ウィルヘルムは強いわよ?エルロンドの掃除人、って呼ばれてたんだから。この街に悪人がいないのは、ほとんど彼のおかげね。」


領主お抱えの掃除人ですか、引退前はどんな感じだったんだろ?


「それと・・・彼は天涯孤独なの。若い時に奥さんとお子さんを亡くしたんですって。あ、私が言ったって内緒よ?」


へぇ・・・カイムとリーンベルに結構優しいけど、おじいちゃんって気分なのかな。


「そうでしたの・・・リーンベル?遠慮せずに甘えてごらんなさいな。きっと良くしてくださいますわよ。」


「はい。たくさん我儘言っちゃいます!」


あんまり困らせるなよ?あと、お兄ちゃんにもたくさん甘えなさい、熱烈大歓迎だから。


「そうそう、グラスヘイムの件だったわね。単刀直入に言うわ。イリスさん、エルロンドの大将を務めて欲しいの。」


「お断りします。」


「「「ええ!?」」」


え、ちょ!?イリスさん?そんな普通に断るの?


「申し訳ありません、テレーズ様、私は大将を務める器ではありませんの、先陣を切り、兵を伴う事は出来ますが、用兵術においての知識はありません。ですので、お断りいたしますわ。」


「まさか断られるとは思わなかったわ・・・」


「もし、指揮を任されるのであれば、夫を推薦いたします。」


「うぇ?俺!?」


「はい。」


え?何言ってんの、そんなの、俺のが経験ないよ。


「それは無理だわ。イリスさんは既に実績や知名度があるけれど、ツヨシさんにそれは無いもの。」


「そうですか・・・であれば、テレーズ様?この度はギルドの傭兵達を戦に用いられますの?」


「ええ、出来るだけ戦力を増やしたいもの、そのつもりよ?」


「それでしたら、私達家族に傭兵部隊として、その一軍を与えてくださいませ。」


「それは構わないけれど、かき集めたとしても、たかだか200程度よ?」


「結構ですわ。」


「う~ん・・・ならそれで任せます。はぁ・・・じゃあやっぱり私が大将を務めなきゃならないのね。」


念のため街に防衛戦力も必要だと思うのだけどね。こればっかりはしょうがない。あっちもルカ様が出張ってくるだろうし。


「采配、頑張ってください。」


「仕方ないわね。」


「じゃあ、私はこれから侵攻の準備を進めるから、貴方達も用意しておいて。作戦前日くらいには傭兵達を引き合わせます。あとは、また戦に必要な物があればなるべく早めに言っておいてちょうだい。」


基本は移動手段と兵糧、弓矢くらいじゃないかな。まぁ、思いついたら要請しよう。


「わかりました。では、また後日に。」


「ええ、毎度苦労をかけて申し訳ないわね。」


もう慣れましたよ。

「イリス?なんで俺を大将に推したりなんかしたんだ?」


一般人が兵法なんて知らんぞ。


「私達を上手く扱える将等、この街にいると思いまして?」


「いないね・・・テレーズ様でも、混乱しそうだ・・・」


「このままでは、いずれ部隊を持たされそうな気がいたしますし、先程も申しました通り、私は将には向きませんの。であれば、家長であるあなたに大将を務めていただいた方が、私達家族は素直に従えますわ。」


「なるほどね、やっぱ家族のみで奇襲要員のままじゃダメかね?」


「恐らくは・・・テレーズ様は、そのような駒の扱いをしないと思いますわ。きっと・・・私を英雄としてかつぎ上げるのではないかしら。」


あ~、やっぱり?


「イリスもそう思う?」


「ええ、ですから、あなたも私をあまり目立たせたくないのでしょう?」


大当たり。


「英雄はずっと勝ち続けなくちゃならないからね。負けた時が怖すぎるよ。」


救世主だの女神だのもてはやされて、いざ負けると責任を負わされるなんざ、絶対にごめんだね。


「であれば、私一人が英雄になるのではなく、家族を含み、私のいる部隊が無敵となれば良いのです。」


なるほど、個ではなく、群として、か。それでもリスクはありそうだけど・・・


「まぁ、こんな状況になっちゃった以上、その辺が落としどころかね。」


もう、我関せずではいられない、さようなら、平和。


「う~・・・話が全然わかりません。」


リーンベル、君は君のままでいればいいのさ。え?意味なんてないよ。

「なるほど、とりあえずお姉様一人が有名にならず、私達みんなが有名になればいいんですね。」


だいたいそんな感じだ。


「ただ強いからって、責任を負わされちゃたまらないのさ。イリスが俺達を守るように、俺達もイリスを守らないとな。」


「はい!わかりました!」


リーンベル、君が妹で本当に良かった。


「さて、また数日程、お時間をいただきましたね。いかがいたしますの?」


ん~・・・そうだな・・・


「イリス、リーンベル。二人は毎日ギルドに行ってきなさい。」


「ええ!また修行ですか!?嫌ですお兄様!絶対に嫌です!!」


「・・・・そこまで嫌がらなくてもよろしいのに。」


あ、珍しい、イリスがダメージ受けてる・・・


「はは、違う違う。傭兵さん達と顔見知りになっておいで。」


これから、俺達は彼らを率いて戦場に立たなくちゃいけないんだ。


女性陣の好感度を上げておいて損はないだろ。


「ふむ、わかりましたわ。酒場となっているようですし、親しくなるのは、難しくないかもしれませんわね。」


「イリスに触ってくるヤツはいないだろうけど、リーンベルにちょっかいかけるヤツがいたら『ハヴァマール』使っていいよ。」


兄はとても良い笑顔でそんな台詞を言い放つのだった。


「殺しちゃダメですよ!?」


いいんだよ、リーンベル。そんなヤツは判決死刑だ。


「あなたはどうしますの?」


「俺は・・・」

「と、いうわけで、戦い方を教えてください!」


ウィルヘルム師匠!


「どういう訳なのか、理解いたしかねますが、かしこまりました。旦那様がご所望とあらば、老体ながらお相手つかまつりましょう。」


「え~・・・僕も教えてもらおうと思ったのに。」


「じゃあ、俺達は修行な!ちょっとウチの女性陣、強すぎるからさ・・・・。」


男として立つ瀬ないよね!!


「なるほど、旦那様は武道のたしなみは?」


「まったくありません!身体能力だけで戦ってます!」


「・・・カイム様は?」


「弓しか引けません!」


「お二人共、とても素直で芸術的なご回答です。少々、困り果てました。」


無茶言ってごめんなさい!


「ふむ、ではまずカイム様から・・・」


・・・ヒュン・・・パシィ・・・・ヒュヒュヒュン・・・・パシパシパシィ!・・・・


「ねぇ、それ流行ってんの?」


さすが元Aランク・・・弾丸キャッチはマスター済みですか・・・


「無駄に矢尻を傷める必要もありませんので・・・」


だからってさ・・・みんなどういう動体視力してんの!?


あなたほぼ、じいさんだよね?ウィルヘルムさん!


「いやぁ、一応カイム『弓鬼』なんですけど・・・」


「なるほど、どうりで、指では捕らえられぬはずです。得心いたしました。」


指だけで取る気だったの!?


ホント何もんだよ、この元掃除人。


「カイム様、最早特別な技量は必要ありますまい、後は己の筋力を鍛えるのみかと思われますな。」


「そっかぁ・・・。」


「毎日走りこみでもして、体力を上げたら?長距離移動射撃も技量のうちだろ?」


「・・・うん!そうする!ありがと兄ちゃん!じゃあ早速走ってくるよ!」


「おう!いってらっしゃい!気をつけてなぁ!!」


うんうん、カイムも良い子だ。


いやさ・・・ムキムキなエルフってなんか・・・やじゃん?


「さて、では旦那様の番ですな。」


「よろしくお願いします。」


「旦那様は徒手空拳・・・・では、拳闘をご教授いたしましょう。実は私も、最も得意とする技能でございますので。」


ほう・・・こぶし系執事でしたか・・・


「では、まずはご覧くださいませ。」


ヒュパッ・・・


ん?


「ん?もう終わりました?」


「はい。瞬連3発。いかがでしたでしょうか。」


いや、いかがもクソも・・・腕が一瞬ブレたようにしか見えませんでしたが・・・・


「えっと、もう少し遅めでお願いします・・・・」


おい、嘘だろこのじいさん・・・めっちゃ細身なんだぞ・・・

「ふむ・・・筋力、体力、防御力はどれも人並み外れておりますな。教えがいがございます。」


「はぁ・・・はぁ・・・どうも・・・。」


当たらねぇ・・・てか触れねぇ・・・


律儀に宣言してから攻撃してくるからガードは出来るが・・・


「動体視力、力の配分、脱力法、まだまだございますが、まずは拳の握り方から・・・」


よろしくお願いします。ただの『暴れん坊』じゃ嫌なんです!

「それで?お兄様の顔がこんなになったのは?」


「「面目次第もございません。」」


動体視力を身につけるために、ひたすらウィルへルムさんの拳を受け続けたのだ。


イリスは笑って許してくれたが・・・


男三人でリーンベルの前で正座なう、なのである。


『ヴェルスパー』してくれる前に説教タイム突入なのである。


「お兄様?私は前にも言ったはずです、何事も限度がある、と。」


「はい・・・。」


「ウィルヘルムさんも、お兄様の気合いに付き合うなんて、年を考えてください。」


グサッ・・・高名な元傭兵に会心の一撃、さすが我が妹、容赦がない。


「は、申し訳ございませんでした。」


ポーカーフェイスで耐えたな、このじいさん。


「それでも家事をしっかりとこなしているのは流石ですわね。」


俺の休憩中に・・・ホントこの執事、侮れんな。


「そして兄さんは迷子、と。」


「うぐ・・・」


そうなのだ、何故三人かと言えば、カイムは調子に乗って迷子になったのだ。38にもなって。


フリックさんに連れられて帰ってきたのを見た時はゲラゲラ笑ったが、あとでリーンベルにしこたま怒られた。


どうやらウチの男連中は、女性陣に一生頭が上がらないようである。

「ふふふ、今日は久方ぶりに笑わせていただきましたわ。」


「言うなって。そっちはどうだったんだ?」


「リーンベルの人気はすごかったですわよ?親衛隊、とでも呼べば良いのかしら、あの子が大将でもいいかもしれませんわね。」


たった一日でアイドル化したか・・・あの可愛さだもんな、当然だ。


「ほう、ちなみに、俺の愛しの奥様は?」


「さぁ、ご想像にお任せいたします。」


なぬ!?


「ダメだぞ、イリスはやらん!いやリーンベルもだが、二人共絶対に誰にもやらん!」


「あらあら、あなたが提案されましたのに。」


いやそうなんだけどさ・・・


「ご自分の伴侶を信じておりませんの?」


「その言い方はズルいだろ。・・・・この世界で誰よりも信じてるよ。」


「ふふ・・・あなた?」


はいはい、ウィルヘルムさん、明日も秘伝の薬剤よろしく。

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