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# 第7話:新天地のギルドと、受付嬢の鑑定眼

 ガルバたちを叩きのめした翌日。俺とシアは、それまで暮らしていた街を離れ、馬車に揺られて数時間の場所にある商業都市『リファル』へとやってきていた。


 あのまま前の街に居座り続ければ、ガルバの雇い主である伯爵がメンツを潰されたと激怒し、兵を動かしてくる可能性があったからだ。クビになった元庭師が、伯爵家お抱えのCランク冒険者を一撃で病院送りにしたとなれば、どんな嫌がらせをしてくるか分かったものではない。


「わあ……アルト様、見てください! お店がたくさん並んでいます!」


 馬車を降りたシアが、子供のように目を輝かせて周囲を見渡す。

 衣服店で俺が『剪定』した緑色のワンピースを着た彼女は、ただ歩いているだけで、すれ違う商人や旅人たちの視線を釘付けにしていた。昨日までの衰弱しきった姿が嘘のように、今のシアは健康的な美しさに満ち溢れている。


「本当に大きな街だな。よし、シア。まずはこの街で生活していくための足がかりを作ろう」


「足がかり、ですか?」


「ああ。俺の退職金も、昨日の服代と馬車代でほとんど底をついちゃったからな。まずは冒険者ギルドに登録して、日銭を稼げるようにならないと、今夜の宿代にも困る」


「冒険者……! はい、アルト様のお手伝いができるなら、私、どんな魔物だって倒してみせます!」


 きゅっと小さな拳を握りしめるシア。その背後に、昨日ガルバを吹き飛ばしたあの圧倒的な黄金の魔力が一瞬だけ垣間見え、俺は苦笑いした。今の彼女なら、本当にそこらの魔物くらい一撃で塵にできそうだ。


「いや、シアは俺の護衛ってことで頼むよ。俺も一応、依頼をこなせるように頑張るからさ」


 そんな会話をしながら、俺たちは街の中心部にある、剣と盾の紋章が掲げられた頑丈な建物――冒険者ギルドの門をくぐった。

 建物に足を踏み入れた瞬間、独特の熱気と、鉄と汗の匂いが鼻を突く。

 昼間ということもあり、酒場を兼ねたギルド内には多くの冒険者たちが集まっていた。大男たちが大声をあげてエールを飲み交わし、壁に貼られた依頼書を睨みつけている。その荒々しい雰囲気に、俺は少し気圧されそうになった。

 だが、それ以上にギルド内の空気を一変させたのは、やはりシアの存在だった。


「おい、見ろよ……とんでもねえ美少女が入ってきたぞ」


「新顔か? 冒険者って雰囲気じゃねえな。貴族の令嬢か何かか?」


 野郎どもの視線が、一斉にシアへと集まる。その中には当然、下品な好奇心や、新入りを値踏みするような鋭い視線も混ざっていた。

 シアは少し緊張したように、そっと俺の背中に隠れて袖を掴む。その健気な仕草がまた男たちの独占欲を刺激したようだが、俺はそれを無視して、一番奥にある受付カウンターへと向かった。


「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 受付にいたのは、眼鏡をかけた知的な雰囲気の女性職員だった。

 彼女は俺の泥のついた靴や、腰に下げた剪定鋏を見て、一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐにプロらしい完璧な営業スマイルを浮かべた。


「冒険者の登録をお願いしたいんですが。俺と、この子の二人分です」


「かしこまりました。では、こちらの魔力水晶に、お一人ずつ手をかざしてください。これまでの経歴や、お持ちのスキルを読み取って、登録証を発行いたしますね」


 受付嬢が、淡く光る透明な水晶をカウンターに置いた。

 これまでの自分の「庭師」としての履歴がどう出るか、少し緊張しながら、まずは俺が先に水晶へと手を触れた。

 水晶がピカリと青く輝き、受付嬢の手元の羊皮紙に文字が浮かび上がる。


「ええと……お名前はアルトさんですね。ご職業は……『庭師』。スキルは……『剪定』、ですか」


 受付嬢が、あからさまにパチクリと瞬きをした。


「……あの、失礼ですが、冒険者になられるのですよね? 薬草採取などの採集専門の登録になさいますか? 庭師のスキルでは、戦闘や討伐の依頼は少々厳しいかと思いますが……」


 彼女の言葉に、周囲で聞き耳を立てていた冒険者たちから、ドッと下品な笑い声が上がった。


「ぎゃははは! 庭師だってよ!」


「ハサミ持ってゴブリンの髪型でも整えに行くのか? おめでてえ奴だ!」


 ヤジが飛んでくる。だが、俺は気にも留めなかった。彼らが俺の『剪定』の本当の恐ろしさを知らないのは当然だからだ。


「いえ、普通の登録でお願いします」


「はぁ……分かりました。では、次のお嬢様、どうぞ」


 受付嬢は心配そうな目で見つめつつも、手続きを進める。

 次はシアの番だ。シアは俺の顔を見て、こくりと頷くと、小さな手を水晶へと乗せた。

 その瞬間。

 水晶が、パキィン! と張り裂けんばかりの激しい音を立て、目も眩むような黄金の光を放ち始めた。


「な、何事だ!?」

「おい、水晶の光がヤバすぎるぞ!」


 ギルド内が、一瞬で静まり返る。

 受付嬢の眼鏡が、その光を反射して白く光っていた。彼女は手元の羊皮紙に目を落とし――そのまま、文字通り石のように硬直した。


「……つ、固有スキル……『聖剣術』……? それに、この魔力量、は……格付けが、測定不能……!?」

 受付嬢の震える声が、静まり返ったギルド内に、信じられないほどの衝撃となって響き渡った。

(第7話 終)


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