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# 第21話:不協和音と、緊急召集の鐘


白銀に輝く霊樹の杖を嬉しそうに抱きしめるフィリアを連れて、俺たちは再び冒険者ギルド『リファル支部』の門をくぐった。

昨日Dランクへの飛び級昇格を果たしたばかりの俺たちだ。中に入った瞬間、酒場にいた冒険者たちの視線が一斉にこちらを向く。だが、彼らの様子はどこか奇妙だった。いつものような野次馬根性の視線ではなく、どこかピリピリとした、焦燥感の混ざった空気がギルド全体を支配している。

「おい、ハサミの兄ちゃんたちが戻ってきたぞ……」

「丁度よかった、あいつらの実力なら……」

不穏な囁きを耳にしながらカウンターへ向かうと、眼鏡の受付嬢が、青ざめた顔で書類をひっくり返しているところだった。俺たちの姿を見るなり、彼女は縋るように声をあげた。

「アルトさん、シアさん、フィリアさん! 戻ってきてくれて良かったです!」

「どうしたんですか、随分と慌ただしいようですが」

「緊急事態なんです。先ほど、街の周囲を調査していた偵察部隊から連絡がありまして……『迷い子の森』だけでなく、この街を取り囲む平原の各地で、魔獣たちが一斉に狂暴化し、群れを成してこの街へと進軍を始めているそうなんです!」

「魔獣の、進軍……」

シアが小さく呟き、腰の純白の剣の柄にそっと手を添えた。

「はい。規模からして、ただの大量発生スタンピードではありません。まるで何かに操られるように、統率の取れた動きでリファルを目指してきていると……。ギルドでは今、街にいる全てのCランク以上の冒険者に緊急防衛依頼を発令しています。お三人にも、Dランクではありますが、特例として参戦をお願いしたいのです」

受付嬢の説明を聞きながら、俺は静かに目を閉じ、地面の奥深くへと意識を集中させた。

『剪定』の目を街の地下――この土地を流れる地脈の系譜へと向ける。

(……間違いない。根っこが完全に腐りかけている)

街を支える美しい魔力の根が、どす黒い「悪意のツタ」に締め付けられ、悲鳴を上げていた。

森でのワイルドボアの狂暴化も、この地脈の汚染が原因だったのだ。このまま放置すれば、リファルの街という大きな庭そのものが、根腐れを起こして崩壊してしまう。

「アルト様……」

シアとフィリアが、俺の判断を待つように真っ直ぐな視線を送ってくる。

クビになった庭師ではあるが、自分の足元にある庭が雑草に荒らされるのを黙って見過ごす趣味はない。

「分かりました。俺たちも防衛線に加わります」

「ありがとうございます……! 前線は東門の平原になります。すでに多くの冒険者たちが向かっていますので、合流をお願いします!」

受付嬢に深く頭を下げられ、俺たちはすぐさまギルドを飛び出した。

街の東門へと続く大通りは、武器を手にした冒険者や、避難を急ぐ住民たちでごった返していた。

門をくぐり、外の平原へと出ると、そこにはすでに防衛線を敷いている数十人の冒険者たちの姿があった。その最前線で、ひときわ巨大な大剣を地面に突き立て、周囲を鼓舞している男がいた。

「遅れるんじゃねえぞ野郎ども! びびって腰を抜かしたら、後ろから俺が叩き斬ってやるからな!」

「ボルドさん」

俺が声をかけると、男――ボルドは獰猛な笑みを浮かべて振り返った。

彼の右腕は、俺が『手入れ』したおかげで完全に本来の力を取り戻している。大剣の柄を握るその手には、昨日までの歪んだ魔力ではなく、芯の通った美しい炎の魔力が宿っていた。

「よお、庭師の旦那。待ってたぜ。てめえらが来れば、百人力だ」

ボルドは俺の後ろに控えるシアの純白の剣と、フィリアが持つ白銀の杖を見て、一瞬だけ目を見開いた。

「おいおい……一日見ねえ間に、またとんでもねえ業物を揃えてやがる。本当に底が知れねえな、旦那の『手入れ』ってやつは」

「これからの戦いには、これくらい必要になると思ってね」

俺がそう答えた、その時だった。

ゴォォォォォォン――!!!

街の防衛を告げる巨大な鐘の音が、リファルの空に鳴り響いた。

同時に、前方の平原の地平線から、地響きと共に不気味な黒い砂煙が巻き上がる。

「――来たぞッ!!」

誰かの悲鳴のような叫び声。

地平線を埋め尽くすように現れたのは、目が血走った狂暴化魔獣の群れ。ワイルドボア、ウルグ、さらには空を覆う怪鳥の群れまで、数百の命が、どす黒い歪みを纏ってこちらへと猛進してきていた。

「ひ、ひぃ……数が多すぎる……!」

「おい、本当に勝てるのかよこれ……!」

周囲の冒険者たちに動揺が広がる。

だが、俺の隣に立つ二人の美少女に、恐れなど微塵もなかった。

「アルト様。間引きの準備は、いつでも」

シアが静かに純白の剣を抜き放ち、その刃が夕日のように黄金色に輝く。

「アルト様、私の新しい大樹の力、見ていてください!」

フィリアが白銀の霊樹の杖を掲げると、先端の魔導石から純白の古代魔力が渦巻いて立ち上った。

「よし。二人とも、派手にいこうか。俺たちの庭を荒らす雑草は――根元から綺麗に刈り取るよ」

俺の言葉を合図に、リファルの街を賭けた、規格外の庭師パーティによる大防衛戦が幕を開けた。

(第21話 終)


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