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第8話 妹たちのこと、頼んだぞ――

「それじゃあ、みんな気をつけて帰って。真緒ちゃん、結衣ちゃんのこと、よろしく」


 今日帰るメンバー、真緒・彩夏・葵・詩音・結衣を見送りに、俺と遥は、駅前までやってきた。


「ま、任せて下さい。長女として、無事に結衣ちゃんをお家まで送っていきます」


 真緒は、結衣の肩に手をおいて、コクリとうなずく。


「ほんじゃあ、春になったらまた会おうなー」


 彩夏が元気よく遥の手を掴みブンブン振る。


「ボクたち、なるべく早く引っ越ししますね」


「えー。まだ友だちに話してないから、最後に一緒に遊ぼうって、なかなか来れないかも」


 詩音が下唇に指を当てて口をすぼめる。


「引っ越ししても、たまには帰るんだから、いいじゃない」葵が詩音の手を掴む。


「みんな元気で、春からよろしくね」遥が微笑む。


 賑やかな別れの挨拶を残し、五人は改札へと消えていった。

 ……が、すぐに結衣に手を引かれた真緒が戻ってきた。ホームの方向を間違えたらしい。……本当に大丈夫だろうか。


 妹たちの姿が人垣で完全に見えなくなってから、遥に「帰ろうか」と声をかけた。


 駅からの帰り道、昼間には残っていた水たまりはなくなっていて、風の運んでくる匂いも湿気をおびていない。もう八時を過ぎているが、コートなしでも寒くはない。春はそう遠くはないと感じる。


「どう? みんなとやっていけそう?」


「みんな、とってもいい子たちで、一緒に暮らせるなんて夢みたいです」


 遥が輝くような笑顔を見せた。天涯孤独だと思っていたところに、いきなり七人の妹。責任は重いが、俺もまた、独りではないのだと強く実感する。


 前方からカンカンカンと音が鳴り響き、踏切の遮断器が下りて、俺たちは立ち止まる。


「みんなが集まるまでに、色々と準備をしないとな。女の子のことはわからないから、遥ちゃんが気がついたことを教えてくれると助かる」


「わたしで、お手伝いできることなら喜んで。でも、わたしは同級生の子たちにズレてるってよく言われるので、あんまり参考にならないかもしれません」


「そう? 遥ちゃんは気配りのできるしっかりした子だと思うけど」


 遥は照れくさいのか、うつむいた。


「そんなことないですよ。お友だちの会話についていけないことも多いですし」


 目の前を電車がゴーッと大きな音を出し、風を切り裂きながら通過していく――。


「その歳でずっと独り暮らしだったんだから仕方ないよ。全部、自分でやらなきゃいけなかったんだから。俺もそうだったからわかる。これからはみんな一緒だから、お互い少し楽をしよ――」


 軽口を叩くと、遥は少し涙ぐんでいた。「ごめん。俺、変なこと言った?」


「あ、ちがうんです。ごめんなさい。どうして涙が出るのかわからないんです。初めてそんなこと言われたからかな……」


 苦労してきたんだろう。最初から一人だった俺より、一緒に住んでいた母親を亡くした遥は、つらかったはずだ。

 正直なところ、まだ遥たちのことをどう扱えばいいのか戸惑っているけど、出来ることはしてあげたい。 


 家につくと、風呂場からドライヤーの音が出迎えた。


 靴を脱ぐとドライヤーの音が止み「おつー」と部屋着姿の玲奈が現れる。風呂に入っていたようで、ほんのり顔に赤みがさしている。


「あーしのシャンプーとコンディショナー置いてあるけど、使わないでよ。あれ高いし」


「髪がびっくりして減りそうだから遠慮しとく」


「なにそれ、意味不」


 ケラケラと笑って、玲奈はトントンと二階へ上がっていった。


「遥ちゃん。お風呂、お先にどうぞ」


「お兄ちゃん、お風呂先に入ってください」


 遥と譲り合った末、じゃんけんで俺が負け、遥はほっと胸をなでおろした。


 風呂上がりにビールを飲もうと台所へ行くと、遥がまだ食器の片付けをしていた。


「早く入ってゆっくり温まってくれ。疲れが溜まってるだろ」


「大きなお風呂なので楽しみです」


「ボロいけどね」


 遥を台所に残し、俺は親父が使っていた部屋へと向かった。今日から、ここが俺の拠点だ。


 襖を開けると、部屋の主を失った部屋はガランとして見えた。部屋の奥に置いてある作業机の前に腰を下ろす。

 作業机の上には、スカイツリーや通天閣のミニチュアなんかがところ狭しと並んでいる。

 帰ってくるたびに余計なものを買ってくると思っていたが、娘たちを訪ねるたびに買っていたんだろう。置き物を見て娘に思いを馳せ……ちがうか、そんなセンチな奴じゃない。ただの思いつきに決まってる。


 ふと見ると、名古屋城の鯱の置き物が白封筒を押さえていた。

 置き物をのけて、封筒を手に取る。封はされておらず、中に白い便箋が覗いている。

 一瞬ためらったが、俺は便箋を取り出した。


 拝啓。

 我が子よ。この手紙をお前が見るころには俺はもうこの世にはいないだろう――。


 この出だし――親父め、俺にも手紙を残していたのか。


 まったく同じ文面だ。親父よ。俺には、一言なにかあってもいいんじゃないか。心底、呆れつつ、視線を下ろしていく……。


 だが、最後の一文を見た瞬間。俺の心臓は、凍りついた。


 驚きのあまり、持っていたビールの缶を落としてしまい、机の上をシュワシュワとビールが溢れ、畳に染みができあがる。

 だが、そんなことはどうでもいい。

 手紙の最後、短く書かれていた。


 六人の妹たちのこと、頼んだぞ――と。

【あとがき】

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