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第5話 俺のところに来るってことなんだよね

 ——葬儀はつつがなく終わった。

 参列客たちは去り、俺と妹たちは火葬が終わるまで控室で待機している。


 普通なら、ここで仕出し弁当を広げて故人の思い出話でもするものなのだろうが、俺一人のつもりでいたからそんな手配はしていない。代わりに、急遽注文した宅配のピザとポテト、ペットボトルのジュースとお茶が長テーブルに並んでいる。


「みんなお疲れ。腹、減ったろ。葬式っぽくはないけど、食べてくれ」


 俺が勧める前から、彩夏と詩音はピザに手を伸ばしていた。「いただきます」と、ほかの面々も続く。


 遥がおしぼりを、葵が飲み物を配ってまわる。


「自己紹介をしよう。兄妹といっても、初対面だからな」


 それぞれのピザの形が半月になったころ、端に座っている結衣にもよく見えるように俺は立ち上がった。

 妹たちは、動かしていた口と手を止め、一斉に俺を見た。


「年齢順で、まず俺から。日下部拓真。二十八、会社員。母は俺が物心つく前に亡くなって、ずっとこの町で親父と二人暮らし——といっても、親父は年に数日しかいなかったけど」


「はーい、彼女はいるんですか?」

 詩音が手をあげる。


「いない。部屋は余ってるし、来てもらっても住む場所は心配いらない。相部屋にはなるだろうけど」


「お葬式に来てた若い女の人、彼女とちゃうん? うちらに遠慮せんでええよ」


 彩夏はチーズのついた指先を舐める。美和のことだろう。


「彼女は職場の同僚」


「そっか。けっこうエエ感じに見えたけどなあ」


「残念ながらね。——じゃあ、こんな感じで次、お願い」


 座布団に腰を下ろし、真緒に視線で合図する。


 あわてて真緒が立ち上がった。


「自分は月城真緒です。先週、十七になりまして。えー……母と、その再婚相手のお父さんと、二つ下の弟がいて、四人暮らしです。埼玉に住んでます」


「今年受験生じゃないか。うちに来ていいのか?」


「大丈夫です。自分成績良くないんで」

 全然大丈夫じゃないだろう、という言葉をなんとか飲み込む。就職希望なのだろう。


「弟のほうは成績優秀なので邪魔にならないように、こちらで、お世話になろうかと……。あ、弟は、父親が違うので皆さんとは血の繋がりはないです」


 真緒はペコリと頭を下げ、座った。

 出来の良い弟と比べられて、自信をなくしているのだろうか。

 美人なのに、ずっとオドオドしている。


 次に、遥が立つ。


「水瀬遥といいます。春から高校生です。お母さんは三年前に亡くなって、今は……仙台で一人暮らしです」


「遥ちゃん。苦労してるんやなあ」


 彩夏は、遥が腰を下ろすのと入れ替わりに立ち上がった。


「うちは木村彩夏。中三。大阪でお母ちゃんと二人暮らし。兄妹が欲しかったんで、みんなに会えて嬉しいわ」


「彩夏さん。部活やってます? 引き締まっていて、運動神経が良さそうなので」


「陸上で短距離やってた。あと、さん付けはやめてな! こそばゆいわ」


 彩夏は、葵に照れくさそうに返事すると腰を下ろした。


「じゃあ、次はあたしたちね」


 詩音と葵が立ち上がる。


「あたしは金森詩音」

「ボクは金森葵です。神戸在住の中学二年です」


「二人は似てないけど双子やねんな」


「そそ。あたしが妹です」

 詩音が答える。


「母と再婚相手と、その連れ子の兄と妹と住んでいます」

 葵が補った。


「お母さんは二人が家を出るのを納得してるのか?」


「ママにとっては、あたしたちはいないほうが、いいんです。ね。葵」


 葵は同調してうなずいた。

 そんなものなのだろうか? どっちにしても、あとで、みんなの親には連絡しておかないと。


 最後に結衣が立ち上がった。


「土岐結衣、小学六年生です。東京で母と二人暮らしですが、母は仕事でほとんど帰ってこないので、一人暮らしのようなものです。以上です」


 結衣は簡単に自己紹介して、また座る。


「君も親父から手紙を受け取っているの?」


 結衣はリュックをごそごそして、手紙を取り出した。無言で一番近くに座っていた真緒に渡す。


「読んでもいいんですか?」


 真緒が聞くと、結衣は無言でうなずく。


 真緒は手紙を開き、視線を落とす。


「あ、自分の手紙とまったく同じです」


 真緒は自分の手紙も添えて、隣の遥に回した。


 遥も手紙を取り出して、一緒に俺の前に置いた。


 それを見て、彩夏と、葵も手紙をそれぞれ取り出し、五通の手紙が俺の前に広げられる。文面はまったくおなじだ。筆跡も同じ。


「少しくらい文章変えればいいのに、パパったら手抜き」


 詩音が手紙を覗き込んで呆れる。


「で、でも、コピーじゃないだけ、気持ちがこもってます」


 遥がフォローになっているのか怪しいフォローをいれる。


「お父ちゃん。滅多に顔を見せないと思ってたけど、こんなにあちこちで家庭をつくってたんか。水くさいなあ。言ってくれればええのに」


 彩夏がポテトをいっぱい口に頬張って言う。


「ボクたちで全員なんでしょうか? この調子だと、ほかにも兄妹がいそうな気がしてきました」と葵。


 これ以上、兄妹が増えるのは勘弁してほしい……。


「……みんな、俺のところに来るってことなんだよね」


 俺が妹たちをゆっくりと見回すと、六人は皆、迷いのない表情でコクリとうなずいた。


「じゃあ、ご家族に連絡をいれるから、連絡先を教えて――」


 俺はスマホを手にとり、彼女たちの連絡先を登録していった。

【あとがき】

最後までお読みいただきありがとうございます!


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