闘技大会
生活において。生きていくうえで。
勿論、航海と言う名の冒険においても『お金』は非常に大事である。
そのお金を稼ぐ方法として、『働く』という言葉がある。
この異世界の給与の相場がよくは分からないのだが、それでも日雇いの仕事なんかが無い訳でもない筈である。勿論、立場が立場で状況が状況であるだけに、そんなにちまちまと稼いではいられないという気持ちも分かる。分かるがしかし。
そもそもにして真面目に働いて普通にお金を稼ぐという選択肢自体が、どうやらこの人には無いらしい。
アレンが言った力技、手っ取り早くかつ確実に稼げる場所。その場所とは――
見渡す限り人、人、人。
数多の人ので埋め尽くされた熱気渦巻くその会場。
熱狂する観客席から歓声が上がる。
白熱するステージの上。武を極めた強者達の拳がぶつかり合う。
アドオン海峡をのぼった国、リバイ。
アレン率いるクロート号一行はリバイ国にある闘技場へとやって来ていた。
***
アドオン海峡沿岸国、リバイ。
リバイ国は海洋貿易で栄える国ではあるが、他の沿岸諸国と比べ、名所と言われる観光地が少ないのが難点とされていた。
そんなリバイ国に『他の沿岸国に勝る観光名所を!』と近年建造されたのが、ここ、『ドミネイトコロシアム』。
そのドミネイトコロシアムでは、武芸を極めた者の聖典、御当地名物、『闘技大会』がなんともご都合主義で開催されていた。
つまり、その大会に出場し、優勝して賞金を得ようというのが、今回のアレンの思惑なのである。
その闘技大会に出場するにあたり、アレンはいつものように船長たる権限を振りかざし、乗組員全員に強制参加を言い渡す――と思われた。
しかし、いくら海賊を名乗っているとはいえ、乗組員の全員が全員、戦闘の腕が立つわけではない。それを考慮しての事なのか、アレンは今回、絶対服従の船長命令は下さずに、闘技大会には個人の意思での自由参加という事になった。
しかし、何事にも例外はある。
「なんで俺がこんな事しなくちゃならねぇんだ……」
頭痛を堪えるかのように眉間を抑えたレイズ。
「どうせ拒否したって無理矢理出場させるんでしょ?」
いつもの事だと、あきらめ半分で苦笑するラック。
「アレンが言うなら」
表情一つ変えずにクールに一言そう述べたフォクセル。
この3人に限っては船長命令において闘技大会への参加を言い渡され、強制的に大会に出場する事になったのだった。
見渡す程に広い巨大なドミネイトコロシアム。
外観はまさにかの有名なローマの観光名所の一つ、コロッセオそのもの。巨大な楕円形をした円形闘技場である。その中心には一段高くなった円形状のステージが設けられ、そこが闘技大会の舞台となる。
大会のルールは以下の通り。
初戦は全員参加のバトルロワイヤル形式。そこで参加者は8名にまで絞り込まれる。そこからはトーナメント形式となり、残った者同士で対戦していき、その激戦を最後まで勝ち抜いた者が闘技大会の勝者となる。
尚、今大会は、
・銃などの飛び道具、及び魔法の使用は一切禁止。使えば即失格となる。
ただし、無属性の武器、防具の使用は可能である。
・また円形状のステージから落ちた者も場外となり失格となる。
以上、至ってシンプルかつ、分かり易い上記が闘技大会のルールである。
高い戦闘レベルが要求される闘技大会にアレンは船長権限を振りかざし、レイズ、ラック、フォクセルの3人を強制的に参加させた。それは3人に対するアレンの期待値が高い事を示している。やはり、他の乗組員達に比べるとこの3人は別格。ずば抜けて強いという事になる。
しかし、いくらそうは言っても。
レイズは普段はフレイでの戦闘がメインだが、フレイは炎属性を持つ剣である為大会ではそれを使用出来ない。それにレイズはさきの巨鳥との戦闘でかなりの大怪我を負い、その怪我は未だに完治しきってはいない為、手負いの状態での参加となってしまう。いくら元軍人であるとはいえ、これはかなり不利な状況である。
それから、普段の武器が銃であるラックに関しても、飛び道具禁止の戦闘はいささか武が悪いと言える。
こう考えた場合、3人の中で唯一の普段通りの戦闘が行えるフォクセルが一番有利であるとも思われるが、しかし、周りは筋肉隆々にしてモリモリゴツゴツの見た目からしていかにも強うそうな参加者ばかり。
アドオン海峡は、浅瀬の多い狭い海上航路ではあるが、諸国との貿易の為、日々多くの貿易船が行き交う。その為、この海域は古くから海賊の多発地域となっているらしい。
この闘技大会における精神は『全ての猛者達に健全たる武を』。
その精神に則り、大会には年齢、性別、身分を問わず誰でも自由に参加出来る。それ故に、この近辺は言わば不穏な輩の吹き溜まりにもなっており、己の武を競い尚且つ賞金も出るという闘技大会が開催される時期ともなれば、海賊は然り、各種数多の悪党、イカれた奴らが周辺界隈から集まってくるのだという。
軍役経験があるとはいえ、手負いのレイズ。そして小柄なラックに、華奢なフォクセル。
イカれた強者揃いのこの大会。果たして彼らに勝ち目はあるのだろうか。
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ、ハル」
大会参加のエントリーを済ませたのち、競技開始を待つラック達に私は声を掛けた。そんな私に対しラックは心配ないよ、といつも通りに笑ってみせる。
大会参加のエントリーは締め切られ、出場者達が出揃った。
あと数分もすれば、ドミネイトコロシアム中央ステージにて、待ちに待った闘技大会が開始される。辺りには試合前独特の緊張感が漂っていた。しかし、そんな緊張感の中にあってもラックの態度はいつも通り。
「こんなのはいつもの事だしね。まあ、なんとかなるよ」
「そんな事言ってて、初戦でやられたりなんかしたら目も当てられねぇぞ?」
気楽に構えるラックに対し、横からレイズが言葉を掛ける。
「“パーカー”さん、意外とやる気満々なの?」
「誰がパーカーさんだ。んな訳ねぇだろ。ただ、出るからには負けられねぇって話だよ」
そう吐き捨てたレイズだったが、その腕は胸の前で十字に組まれ、先程から入念にストレッチを繰り返している。どうやら言葉や態度とは裏腹にレイズは意外とやる気らしい。
因みにラックが言った『パーカーさん』というのは大会にエントリーする為の“偽名”である。
色々な事があり過ぎて今やすっかり忘れがちになってはいるが、私達は今、ホープ・ブルーを盗んだとして、ジョン・クライングコールや海軍に追われている身。その為、一応念には念をと、アレンの判断でレイズは“パーカー”、ラックは“ピーター”、フォクセルは“ポール”という名前で大会にエントリーをしたのだった。
「フォクセルさんは大丈夫ですか?」
私は2人から視線を外し、フォクセルの方へと問い掛ける。
尋ねた私にフォクセルはコクリと頷いた。
「アレンの命令だから」
彼はただ一言、そう述べた。
その表情は相変わらず喜怒哀楽に乏しく、心境はほとんど読み取れない。だが、どうやらフォクセルも一応やる気自体はあるようだった。
「てか、なんであんたは出ねぇんだよ?」
入念なストレッチを終えたレイズはくるりと向きを変え、私の隣に立つ人物へと問い掛ける。
「なんでって、俺はこういうのには向いてないからな」
そう答えたのは勿論、アレンである。
アレンは船長権限を行使しレイズ達を強制的に闘技大会に参加させたのにも関わらず、自分自身は大会にはエントリーしてはいなかった。
確かにこう言った勝負事には向き不向きはあるのだろうが、それでも自分達にだけ肉体労働を強いるアレンに対してレイズは不満を口にする。そんなレイズをアレンはいつものようにまあまあと言って宥めた。
「俺には他にやる事があるんだよ」
「はぁ?なんだよやる事って?」
「ちょっと色々とな」
レイズはアレンを問い質したが、彼はそれをはぐらかす。結局アレンはそのやる事とやらについては答えなかった。
そうこうしているうちに試合開始5分前となった。
「では諸君!この闘技大会、必ず優勝して賞金を手に入れるように!諸君らの働きに大いに期待してる!」
アレンは大会に参加するレイズ達を激励した。
その言葉を受け、並居る猛者達と共に彼らはドミネイトコロシアム中央ステージへと向かう。
「まあ、やれるだけやってみるよ。応援しててね、ハル」
ラックもまた最後にそう言葉を残して、中央ステージへと上がっていった。
己の武を賭けた闘いへと向かう彼らの姿を私とアレンは静かに見送ったのだった。
明けましておめでとうございます!
本年も宜しくお願いします!!




