黒幕
重く絢爛な扉を開けた。そこに黒く大きな影が一つ。
そこには全ての黒幕の姿があった。
その人物を見た瞬間、レイズは目を疑った。
「どうして貴方が……」
その人物はゆっくりとこちらを振り返る。
「遅かったな、レイズ・ローゼル」
そこにいたのは、レイズの父、ロイ・ローゼルの同僚にして戦友。帝国軍大佐ジャック・ジェーナイトだった。
現れたレイズの姿を見て、ジェーナイトは不敵に笑う。その姿は赤い炎の中にあった。
「どうして……それにその力……その力を一体どこで……」
レイズの問いにジェーナイトはただ不敵に笑う。彼の両腕には紅蓮に燃える炎が絡み付き、ゆらゆらと不気味に揺れていた。
「くっ……」
すぐ近くから低い呻き声が聞こえた。
そちらに視線を向ければ、そこには国王ケイル・サーティンが壁に持たれ血を流していた。
「陛下!!」
ランクとスタットが慌ててケイル国王の元へと駆け寄る。
「大佐……自分が何をしているのか分かっているんですか!?貴方のしている事は国に対する反逆行為だ!!」
「ああ、勿論分かっているとも」
声を荒げるランクに対し、ジェーナイトは平然と頷いてみせる。
「最初から全部あんたの仕業だったのか……」
「ああ、その通りだ」
重ねられたレイズの問いにジェーナイトはまたも頷いた。
「何故こんな事を……っ」
「お前には分かるまい」
「答えろっ!!」
冷ややかな視線を向けるジェーナイトへとレイズが声を荒げて問い詰める。
「その力、前国王の研究を引継いだものだろ?」
そんな切迫した空気の中へと、全く物怖じする事なくアレンが割って入っていった。
「ああ、そうだ」
アレンの問いをジェーナイトは肯定する。
「前国王が行っていた研究の存在は前々から知っていた。……勿論、その内容もな。だが、国王は魔法に対しての適応力が低く、属性を得てフレイを得ても尚、その力を安定させる事で精一杯だった。結局のところ、国王はフレイを扱える器ではなかったんだ。――だが、俺は違う。俺は力を手に入れた」
ジェーナイトがそう言った瞬間、その腕に纏っていた炎が天井へと届かんばかり勢いで燃え上がる。その熱気は凄まじく、熱さは肌を焦がすようだった。
「なるほど。つまり、結局のところアンタは手に入れた力を見せびらかして誇示したい輩って訳か」
「どうとでも言うがいい」
一笑したアレンにそう吐き捨ててジェーナイトは構えを取る。
「さあ掛かって来い、レイズ・ローゼル」
「……っ」
臨戦態勢を取ったジェーナイト。
それに対し、レイズもまたフレイを構えるも、その足は根を生やしたように動かない。レイズの瞳は困惑に揺れていた。
信じられないのだ。かつて慕っていた人物が、父親の戦友であった筈の人が。まさか全ての黒幕だったなんて。
「来ないのならばこちらから行くぞ!」
ジェーナイトは勢い良く豪腕を振るった。猛々しく燃える炎が曲線を描いて迫り来る。
レイズもまた構えたフレイを勢い良く振るった。
炎を纏う閃光が走り、両者の中間点でぶつかり合う。
熱風が渦巻き衝撃波が空気を震わせた。両者の攻撃は相殺。その力はほぼ互角だった。
「フン、やはりな」
ジェーナイトはそう言うと突然攻撃の手を止めた。
「やはりお前にはその剣は使いこなせてはいないようだ」
「なんだと……?」
「所詮貴様もあの男と同じ。お前はフレイを持つのに相応しき者ではない」
「なに……?」
「その剣は持つ者に“勝利を齎す”という伝説の剣。お前ごときでは扱えまい。その剣はもっと相応しき者が持つべきだ」
突き刺さるようなその言葉。
言いようのない不安がどっと押し寄せてくる。
「まさか……お前……」
レイズの声は僅かに震えていた。
「そう、10年前、ロイ・ローゼルを殺したのは俺だ」
耳を疑わずにはいられなかった。
ずっと慕っていた人物が、父の戦友であった筈の人が……
父親を殺した張本人……
「……どうして」
やっとの思いで絞り出すように言葉を吐き出す。
「なんで…っどうしてあの人を殺した!?アンタは戦友だったんじゃないのか!?」
「ふざけるなっ」
ジェーナイトはカッと目を見開き吐き捨てた。
その顔にはいつもの帝国軍大佐としての面影はなく、隠し切れない憎悪が滲んでいた。
「あの男が戦友だと?ふざけるな……っ」
――あの男は
「俺から全てを奪い去ったんだ」




