アキラの彼女 7
それ以来、存在すら忘れていたはずなのに就職先の会社で再び美月と再会することとなる。派手な見た目は相変わらずだったが、それでも大人になった彼女に少しだけ何処かで期待していた。
自分も大人になって変わったのだから、彼女も……と。
しかし、現実はそうもいかず、結果的に彼女の男に媚びる性格は変わっていなかった。しかも、相手は自分をいびっているあの上司。オフィスラブなんて言えば聞こえは良いが、要は不倫だ。
やっぱりな、という諦めと変わっていて欲しかったという落胆に何故だか無性に苛立ちを覚えた。人の本質なんて結局は変わらないのだと、それはお前も同じなのだと突き付けられた気がした。
そんな時に出会った今の彼女。
「あの……、付いてます」
「え?」
「袖のところに……」
仕事終わりに会社近くのカフェに行くことが日課になり始めていたある日。突然、会計の時に店員に指摘され、言われるがままジャケットの袖を確認するといつの間に付いていたのか、シールが付いていた。たぶん、昼間に食べたあのパンの応募シールだ。
「ああ、どうも……」
「あの……。それ、集めてるんですか?」
「え? いや、別に……、集めてないけど……」
自分では終わらせたつもりの会話が続けられたことに木崎は戸惑った。
「もしよろしければ、それ頂けませんか?」
「はっ?」
その時初めて木崎はまともに店員の顔を見た。ふんわりとした優しい印象の女性店員だった。
「すみません。突然変なことを言ってしまって」
「あ、いや……。どうぞ」
袖に付いていたシールを剥がして彼女に差し出すと、彼女は「ありがとうございます」と言いながら小さなそれを両手で持って見つめていた。木崎は嬉しそうなその姿が何故か頭から離れなくなった。それ以降、店に行く度に少しずつ話す回数が増え、店の外で会う回数が増え、二人が付き合うまでにそれほど時間はかからなかった。
彼女と付き合ったからと言って、木崎の性格ががらりと変わるわけではない。木崎の自分自身に対する嫌悪感は消えることはなかった。自分が嫌っている人間に媚びてしまう自分にも他人に対して同じような事をしている自分にも疲れてしまい、終には会社に行くことも止めてしまった。塞ぎ込んでいく木崎に彼女は何も言わず、ただ側にいた。木崎からも詳しい事情を言うことはなかったが、それでも彼女には見えていたようだ。乱暴な言葉の裏にある木崎の本当の気持ちが。彼女は本人よりも誰よりも木崎の心を読み取るのが上手かった。
◇
「あ、あの子……中学の時のあの子か……」
ふと、一の頭の中に浮かんだショートボブの彼女。アキラにも伝わったのか、お前には関係ないと睨まれる。
「ねぇ、何のこと?」
アキラの夢について知らない双子には勿論分かるはずもない為、揃って首を傾げている。
「お前らに話す理由はねぇ」
まぁ、こいつは意地でも話さないだろうな。
「いい彼女じゃん。大切にしろよ」
「うるせぇ、お前に言われるまでもねぇよ」
何のことだかさっぱり分からないはずなのに、それでも何故だかにこにこしているユキ。
「ユキ、どうしてそんなに嬉しそうにしてるんだ?」
「ん? 何だか木崎君、幸せそうだから。その彼女? のことがとーっても好きなんだなぁって思って」
「はぁ? お前に何が分かるんだよ」
「ちょっと、ユキのことお前って言わないでくれる?」
ハルはユキがお前と言われることに一々反応しているが、当の本人は大して気にしていない。ただただ楽しそうに笑っているだけだった。




