出した答えは
あれから丁度、一ヶ月が経ち、世界の情勢は大きく変貌した。
パンデミックの被害範囲は世界規模に渡り、インフラは既に機能しなくなってしまった。水道や電気は通らなくなり、蛇口を捻っても水滴1つ落ちず、夜は深い暗闇が街を覆うようになった。幸か不幸か生き延びたサバイバーは物資を求め街へ足を運び、命を懸けてその日暮らしを余儀なくされた。
逆に、国のリーダーである政府の官僚や政治家は各国軍が設置したシェルターに移送され、無線や物資投下を通して国民とのコミュニケーションを図っている。だが、投下される物資の内容や安全が確立されたところからの高みの見物、惨状の収束・復興への取り組みの遅さなどから、避難の声は相次いで発せられていた。
日本でも、はじめは自衛隊の駐屯地も緊急時の難民キャンプとして利用されていたが、相次ぐ感染者の大群による攻撃に耐えきれず、その数は減少の一途をたどりつつあった。しかし、各地に大家さんが率いる生存者集団のような、数世帯にわたる小規模な集団が現れ、完全なる自給自足を目指し無線による住民の拡大を図る彼らは『コロニー』と呼ばれるようになった。
だが、手と手を取り合って平穏に生きるだけの集団のみが現れたのではない。すべてを暴力と脅しで解決しようとする集団も現れるようになった。恐喝と強奪を繰り返し、時には殺人まで冒す極悪非道な彼らは、総じて「レイダー」と呼ばれ、忌み嫌われる存在となる。そして、各地のレイダーを取り仕切り、巨大な組織を築いたのが、以前より日本最大規模と呼ばれていた極道組織『豪王会』であった。彼らは日本中に置かれた事務所を要塞化し、大陸から流れてきた本物の銃や刀で武装し、穏健派のコロニーから搾取した上納品で生活している。
少なくとも、日本はこのような状況へ陥っていた。世界中の国々がどうなったかまではわからない。
そんながらりと変わった日本のどこか。人生の決断を済ませ、17歳へと歳を重ねた俺は、都心から数キロ離れた工業地区の倉庫にて、とある稼業をこなしながら食い繋いでいた。
「・・・答えは出たのか?」
7日目。とうとう決断の時がやって来た。俺に与えられた選択肢は二つ。
1つは、大家さんのもとに召集された生存者たちとともに都内のヒルズを目指した命を懸けた遠征に出かける。
もう1つは、この安全な地下室に残り、暗い将来に向けた不安を胸に餓死を待つか。
サオリさんに励まされて以来、残り少ない時間はとにかく体力の強化に努めた。きっと、能力的には大家さんと見比べても引けを取らないぐらいには成長しているだろう。
大家さんからは、簡単な護身術や食べられる野草や調理法も教わったし、災害時における生存術が記されたサバイバルブックも貰っている。
きっと、独りで生きていけるだけの力と知識は身についている筈だ。
だが、それでも一人で死ぬのだけは怖くて、それだけは避けたいという願いがあった。血を見る事には慣れたし、惨い光景も段々慣れてきたが、いざ自分の番が来るのかと思うと足がすくむ。
俺は答えを出すのに、かなり迷った。技量があったところで、結局は気持ちが弱ければ水泡と化す。
「俺は・・・俺は・・・」
悩み抜いている俺の裾を、小さな手が引っ張った。
「お兄ちゃん、コレあげる」
そこにいたのはユイちゃんだった。彼女は、険しい表情を浮かべる俺の手に、何かを握らせた。
「これは・・・?」
握られていたのは、小さな錠前だった。だが少し違うのは大きなハートで装飾されている事。そしてもう一つ、小さな紙を渡した。二つに折りたたまれているそれを広げると、黒いインクで『おまもり』と幼げな字で書かれていた。
「小さくて、それっぽいのがコレしかなかったの。でも、一生懸命ユイが作ってたから、どうか受け取ってあげて?」
「お兄ちゃんずっと頑張ってたから、お兄ちゃんのお願いが叶いますようにって作ったの!」
タコ糸でネックレス状に作られたお守りを首から下げ、無くさないようにシャツの中にしまう。胸の素肌に当たる感触はひんやりしていたが、しかしながら暖かい温もりに包まれていた。
「大家さん・・・俺、決めました」
2人の贈り物に背中を押され、俺の気持ちはハッキリと形作られた。
もう、いつまでもクヨクヨ迷っていられない。優柔不断はこの世界では自滅への大きな一因と化す。俺が決めた答えに、自分で下した決断に、ただ一つの後悔が残らないように、俺は進みづけるのだ。
「・・・俺は一人で生きていきます。俺がこの一週間で得た技術と知恵で、どこまで行けるか。それを試してみたいんです」
「・・・そうか。なら、私も君の決断を尊重し、追い風となるようなモノを送らねばな」
俺の答えを受け入れ、認めてくれた大家さんは、地下室へは俺以外が入ることのないように断りを入れた。俺は大家さんの後に続き、地下室へと下りた。
「これを君に授ける。君なら、この力を正しく使いこなせると信じているからだ。是非、これを受け取り、君の信じる道へとつなげてほしい」
そういって、大家さんは作業台をずらし、新しく現れた隠し金庫の暗証番号を入力し、なかからノートパソコン程のアタッシュケースを取り出した。
「今からこれを君に譲り、コレの使い方を説明する」
パチッパチッとロックを解除し、ケースを開ける。俺はそこにある人生で初めて見るソレに対し、目を見開き興奮を抑えきれなかった。
「スミス&ウェッソン M60リボルバーピストル。日本での通称は『サクラ』。警察が採用している本物の拳銃だ。そしてこれが、こいつに使う.38口径の弾丸だ」
ゴトッと重い音がして、黒く艶光りする拳銃が机に置かれた。俺は実際にそれを手に取り、ずっしりと感じる命を刈り取る道具の重さを素肌で感じ取っていた。ついでに置かれた弾薬のケースを振ってみると、中身がガラガラと音を立てた。
「これを・・・俺に?」
「ああ。君が生きていく先で、やむを得ない状況が訪れると思う。知識や技でどうにもならないとき、圧倒的な力に頼ることも生存する術においては重要な事柄だ。私は君ならこれを正しく使えると信じているから、これを譲ろうと思う」
大家さんは、この拳銃を信頼しているからこそ渡してくれた。俺はその信頼を裏切ることはしないと、彼とこの拳銃に誓い、彼から使用法についてのレクチャーを受け始めた。
「皆さん待たせました。では、早速行きましょう。覚悟はよろしいですね?」
「「「おう!」」」
地下室の外から威勢のいい男たちの雄たけびと、行軍の地鳴りが聞こえてくる。これより彼らは、ヒルズの制圧を目指し移動を開始したのだ。俺は、いつか彼らに追いつける日が来ると信じ、射撃の腕を磨き続けた。
乾いた銃声が、狭い地下室に響き渡る。幾度となく照準器のその先を見据え、正確に的を撃ちぬこうと引き金にかけた人差し指に力を込めた。
長かったプロローグも終わりですよ。ペースに反して内容はスカスカでしょうが許してください。
これから一章に入ります。個人的にはここを乗り越えたら後は流れに従うだけだと思ってます。頑張ります。




