第八話 舌先に咲かせた絵空事
次回は10月14日(水)PM13:00に第9話【見出す勝機】を更新予定です!
この街グレーブンには王国五大マフィアのひとつ、ピトロスキー一家のナワバリがある。
拠点のひとつに過ぎないが、それでもこの街ではかなり影響力のある組織だ。
シャルはピトロスキー一家に取り入ることで、オリバーからの追っ手を払いのけようとしていた。
グレーブンに到着した直後、串焼き屋のオヤジさんからピトロスキー一家の話を聞いた。
―――この街のボスの名前はオランジュ。
ピトロスキー一家の中では幹部にもなれていない下部組織の人間らしいが、五大マフィアということもあってかなり有名なようだ。
幹部のように余りにも相手の格が高いと相手にしてもらえない可能性があるし、組織が小さ過ぎてもとオリバー配下の騎士達と渡り合うことが出来ない。
その中でオランジュは求める条件にピッタリ当てはまる相手だった。
そうは言っても相手はマフィア。
命がかかっているし、どんな要求をされるかわからない。
相手のメリットを提示しつつ、こちらも自分の都合の良いように動ける状況を作らねばならないのが難しいところ。
シャルはマフィアと交渉するまでの計画は考えていたが、それ以降のことまでは考えていなかった。
どれだけ考えたところで相手次第だからだ。
アジトの奥まで進むと、両脇に女を侍らせたオランジュが酒を飲んでいた。
「ボス、面白いガキを連れてきました」
「あん?誰だそいつは?」
下っ端がこちらを見ると、オランジュの方を顎で指した。
自分から話せということなんだろう。
ゴクリと唾を飲み込み深呼吸をする。
前世でも威圧感のあるクライアントに会ってはきたが流石にそれ以上だ。
(今はビビっている場合じゃない。落ち着け。落ち着け。ハッタリをかましてやれ。決して下手に出るな)
シャルは高鳴る心臓と震える拳を握りしめて目を開く。
「ボス、はじめまして。おれはシャル。王国第二王子オリバーの奴隷だったがそこから逃げてきた」
シャルは同時に服をはだけさせ胸の魔印を見せた。
「今、配下の騎士達がおれを追ってこの街に集まってきている。一人では逃げきれない。だから仲間に入れて欲しい」
オランジュは少し驚いた表情をした後、クツクツと笑い出した。
「おいガキ、お前面白いこと言うじゃねえか。だが却下だ。わかったらさっさと帰れ」
「そういう訳にはいかない。おれはあいつらに捕えられるわけにはいかないんだ」
(俺はウィル達と無事に再会しなければならない。アイリーの仇を討たなきゃならない。ここで引くわけにはいかないんだ!)
「バカが!んなこと知るか!てめえを仲間に入れたとしてこっちに何の得があるってんだ!厄介な荷物を抱えるだけだろうが!さっさと引かねえと殺すぞ!」
「つまりボスに得があればいいんですね?」
間髪入れずに質問を返す。
「ああ?何が言いたい?」
「ボスの求めるモノを提示出来れば仲間に入れてくれるということですよね?」
オランジュは目を細めて剣呑な雰囲気を醸し出した。
しかしシャルは今までと違う目つきに飲まれそうになりながらも必死に睨みつける。
「おい。お前ここがどこで、俺が誰だか分かって言ってんのか?遊びじゃねえんだぞ。ガキのママゴトとは違うんだ。それを分かって言ってんだろうな?」
オランジュの声が更に低くなり、雰囲気が一段と重くなる。
「勿論です」
「じゃあお前は俺に何をもたらしてくれる?あいつらからお前を匿うにはそれ相応の対価が必要だぜ?」
「おれはボスに莫大な利益をもたらすと約束する」
オランジュはため息をつき、前のめりになっていた体をソファに預けた。
「莫大な利益だと?お前みたいなガキがそんなこと出来るわけねえだろ。奴隷になるくらいだ。お前は下層民で知識も教養も無えんだろ?そんな奴が俺を儲けさせてくれるってか!?舐めんのも大概にしろよ!」
オランジュは怒声を浴びせた後に、冷静な声で言い放った。
「殺せ」
下っ端の取り巻き達がシャルの脇を抱え外に連れ出そうとする。
必死にもがき抵抗するが、魔力を未だ封じられたままのシャルには大人二人から逃げ出す力はない。
(くっ…ヤバい!ヤバい!ヤバい!ヤバい!何か考えろ!必死に頭を回転させろ!ハッタリでもなんでもいい!声を出せ!)
シャルは必死にもがきながらオランジュを睨んで叫んだ。
「金持ちに投資をさせる!」
オランジュは無関心で酒を飲み始めたが、こちらに目を合わそうともしない。
「土地でも権利でも何でもいい!架空の投資対象をでっち上げて資金を募る!高額配当、元本補償、少額投資、とにかく利益が出ることを謳い金を集めるんだ!最初はしっかりと配当を支払う!そうやって信用を積み上げてから大口資金を投資させる!そのまま雲隠れすれば金を騙し取れる!投資する人数、規模が大きくなればなるほどボスの手元に残る金は莫大になるぞ!」
シャルはとっさに前世の古典的な詐欺手口であるポンジ・スキームの説明をした。
(今の世界にも詐欺はあるだろうが、この話は通用するのか!?もうすでに同じような手口があった場合どうする!?)
「待て」
オランジュは真剣な眼差しでこちらを見てくる。
「続けろ」
オランジュの興味を惹けたようだ。
ポンジスキームの仕組みは簡単に言うと自転車操業だ。
『高利回り』『必ず儲かる』と言って投資資金を集めた後、実際にそのお金を運用はせず、すでに投資をしている投資家に配当金として横流しする。
投資家は実際に配当を受け取るため信用が増し、さらに投資額が増えていくのだが、頃合を見て詐欺師は姿をくらます、という仕組みだ。
ただそれだけのシンプルな手口なのに、今でも多くの被害者を生んでいる詐欺手口なのだ。
シャルは両脇を抱えられたまま深呼吸をして呼吸を整え質問し始めた。
「今のボスの資金源は何ですか?」
「お前に話す必要はない」
「貴族や豪商などとの取引はありますか?」
「なかったらどうした?」
「取引出来ていない理由はなんですか?」
「……チッ。あいつらは俺たちよりも狡猾だ。下手に手を出すとこっちの組織が潰されかねん。あいつらと取引するにはリスクが高い割にメリットがない」
オランジュはシャルから目を逸らさず鋭い目つきで答えた。
「投資となると金持ちが動きます。金持ちは一口あたりの投資額が大きい。ボスの反応を見る限り、この手法はまだ広まっていないはず。もしボスがこの手法で仕事を広げれば、先行者利益として莫大な資金を得られるはずです。」
オランジュは何も答えず目を瞑る。
「この手法を確立出来れば、上納金として本部に収める金額も大きくなり、ゆくゆくボスはピトロスキー一家の幹部に昇進です。その未来とリスクを天秤にかけてみて下さい」
オランジュはゆっくり目を開けシャルをジッと見つめ質問し始めた。
「投資対象は何を考えている?」
「土地、鉱山、芸術、新規事業でも何でもいい。実際には投資資金を運用をしないわけですから、どんなものでも投資対象になり得ます」
「どうやって貴族どもに話を持っていく?」
「まずは借金を背負っている人間をあたり、そいつに借金を帳消しに出来るといって投資させます。そういう奴らは大体こういう話に乗ってくる。そして実際に配当を出します。そいつが借金を返すことが出来れば、その投資案件は本当らしいと金貸し屋も動くでしょう。金貸し屋は融資をしてる分、商売をやっている者、貴族とも関わりがあるはずです。地道にそこまで辿っていきます」
「ガキ、お前はどれくらい儲かると思っている?」
「やってみないことにはわかりません。ですが、この手法が上手く嵌れば短期間で白金貨百枚は儲けを出せるはずです」
オランジュは再び目を瞑り考え始めた。
その間誰も言葉を発することも無く、静寂と緊張感がその場を支配していた。
(白金貨百枚って言っちゃったけど納得するのか!?マフィアがどれだけ金を稼いでいるかも分からないし、適当なこと言っちゃったけど、これ大丈夫か!?)
ハッタリをかましたシャルだったが、少しずつ冷静になってくると、本当に言ったことが出来るのか不安になってきた。
頭を抱えそうになったタイミングでオランジュは口を開く。
「……わかった。お前を仲間に入れてやろう」
シャルはその言葉に内心雄叫びを上げた。
(よし!最大の難関クリアだ!)
「本当ですか!?ありが」
「ただし」
喜びも束の間、シャルの言葉が遮られる。
「条件がある」
「じょ、条件とは……なんで…しょうか?」
シャルはようやく突破したと思っていた関門がまだ突破出来ていなかったことに不安と焦りを覚えた。
ここからどんな無理難題を吹っ掛けられるのかと戦々恐々とする。
「確かにお前の言った手法は面白い。儲けられる可能性もあるだろう。だがな、所詮は絵空事だ。ましてやお前みたいなガキが言うなら尚更だ」
「で、では、どうすればいいんでしょうか?」
「確かに頭は回るようだ。度胸もある。だが、だからと言ってお前を信用したわけじゃねえ。まずはお前の実力を見せてみろ」
オランジュはポケットからコインを出して、ピンっとシャルに投げて寄越した。
「この銀貨を一週間以内に千倍にしてこい。それが仲間に入れてやる条件だ」
オランジュはやれるものならやってみろと言わんばかりの表情でニヤリと笑い、シャルは銀貨を受け取りハハっと力なく笑った。
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まだまだ拙い文章ですが、これからもっと上手い文章を書けるように努力していくので、応援宜しくお願いします。




