第五話 紐解かれた呪縛
次回は10月13日(火)AM1:00に第6話〜2人の覚悟〜を更新予定です!
「賭けに勝ったというのはどういうことだい?」
焚き火に煌々と照らされながら、不思議そうな顔でアイラックが尋ねる。
「まず考えたのは、奴隷契約がそもそもどんなものなのか?ってことです。どんなことをすれば魔印が反応して、どこまでが許されるのか?」
アイラックは顎に手を当て思案顔になりながら続きを促した。
「なので、敢えて反抗的な態度を取って、魔印がどのような条件で発動するのかを検証しました」
「なるほど。……それで、どんな検証をしていったんだい?」
「例えば、殴りかかろうとしてみたり、罵声を浴びせてみたりですね」
「き、君は勇気があるね……そんなことをしていたら殺されてもおかしくないぞ」
「確かに怖かったです。毎日怯えていました。でも僕に目が向くことで他の三人が痛めつけられることは減ったし……それにもう失うものはありませんから。いつ死んでもいいと思っていました」
アイラックは伏し目がちに話すシャルの話を聴きながら、胸を締め付けられる思いがした。
淡々と話してはいるが、どれだけ苦しい思いをしてきたのかなんとなく想像できてしまったからだ。
アイラックは目を瞑り、もう話さなくていいと言おうとしたところで、シャルが続きを話し出した。
「ここで重要なのは、オリバーと離れていても魔印が発動するかどうかです」
「確かに逃げるにはそこが一番重要だな」
「オリバーは月に数日王都に行くことがありました。でもその数日間はなぜか魔印が何の反応もしなかった」
魔印は魔力を制御すると同時に、奴隷契約を結ぶ魔法刻印だ。
だから契約主の命令には絶対に従わなければならないし、命令に背いた場合は全身に強い電気が流れるような激痛が走る。
「……なるほど。それで?」
シャルが話し始めてしまったので、アイラックは気持ちを立て直して耳を傾ける。
「オリバーが別邸を離れる時は、ほとんどの場合『数日別邸を空けるから自由にしていなさい』と僕たちに伝えていました」
「つまり?」
「つまり、魔印は主との距離に関係なく、主の発した言葉により強制力が発動するってことです。主の目の前でどれだけ反抗的な態度をとろうが、主が何も言わなければ魔印は発動しない。逆に主との距離が離れていても、命令に背くことがあれば魔印は発動する。」
「なるほどな。魔印を刻まれた状況下でありながらそこまで考えていたか」
アイラックはアルフォードに言われた『あの子だったらなんとかする』という言葉を思い出していた。
シャルの言動を見てきたからこそ、あのような言葉が出たのだろう。
確かに何となくこの子なら何かをしてくれそうだと思わせる何かがあるとアイラックは感じていた。
「加えてオリバーが面と向かって命令することが条件です。一度僕たちが認識した命令は主自身が解除しないと、その制約を受けたままになる。だからわざわざ僕たちに別邸を離れることを告げていたのではないかと思ったんです。きっと、逃げるなと言ったままだと、遠く離れ過ぎてしまった時に魔印が勝手に発動しちゃうからでしょうね」
アイラックは魔印がどんな性質を持っているかある程度理解していたため、シャルの考察に唸ったが、しかし同時にその制約を取り外すための言葉をどうやって引き出したのかが気になっていた。
「でもそれが分かったところで、オリバーが君たちの制約を無くすための言葉を言う保証なんてないだろ?」
「そこが賭けだったんです」
ーーーーシャルは焚き火をジッと見つめたままぎこちない笑顔を浮かべた。
「オリバーは嗜虐心の塊です。人を痛ぶって悦に浸る最低最悪な奴だ。でも僕はそれに抗い続けた。すると僕の心をへし折ることに楽しみを見出しました。だから僕は敢えて心が折れたフリをしたんです」
「心を折ろうとする楽しみが……シャル君が折れてしまったことによって、その楽しみがなくなってしまった……ということかな?」
「そうです。僕を痛ぶっても、もう面白くないと思わせることが狙いでした」
「なるほど。でもその後にオリバーが君の制約を解くかどうかは分からないだろう?」
「だから賭けだったんです。きっとオリバーなら、また希望の光を仄めかして、僕を再度抗うように仕向けるはず。だから『解放する』とか、『元の生活に戻してやる』とか、そんなことを言いそうな感じがしたんです。そしたら僕もびっくりするくらい簡単に解放するって言ってきたんです。……敢えて反抗し続けてきたことがこんな形になるとは幸運でした」
「それで制約を解除させる言質を取ったわけか……」
アイラックはシャルの思考力と行動力に舌を巻いた。
「それにしてもよく折れずに拷問に耐えてこれたね」
「それも不思議なんですが、最初は地獄でした。いつ心が折れてもおかしくなかった。でも途中から痛みをあまり感じなくなったというか……痛覚がおかしくなっちゃったんですかね?」
シャルは自虐的に笑い頬を掻いた。
「ん?それはオリバーが手加減をしていたということかい?」
「それはないと思います。ただ、何かに守られているというか、表面が覆われているというか、とにかくなんとか耐えることができました。それにあいつは母の仇です。逃げ出せた今は死んでもいいなんて思わない。必ず後悔させます」
シャルは濁った瞳で薄っすらと笑った。
そんな謎を紐解いていると、空が白み始める。
アイラックはシャルの内側に宿る復讐心には触れずに立ち上がった。
「さて三人を起こしてくれるかい?そろそろ出発しよう」
そうしてまた移動を開始する。
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移動を始めてすぐにウィルは声をあげた。
「なあ!いい加減これからのことを教えてくれよ!俺たちはどうなるんだよ!?」
「よし、では四人の今後について話をしよう。」
アイラックは今までの経緯と今後のことについて詳しく話してくれた。
シャル達四人を助けてくれたのが、王国近衛騎士団第六騎士団長アルフォード・ダン・クラークという人物で、オリバーの護衛を担当している。
アルフォードはこの腐敗した王国の中でも清廉潔白な人間であり、民たちから慕われているらしいのだが、その性格が裏目に出て、オリバーの護衛からは遠ざけられていたのだそうだ。
アルフォードが所用で別邸を離れている時、オリバーは副団長を連れてエルフの村を襲撃した。
それを知ったアルフォードは激怒し、奴隷の解放を進言したが相手にされなかった。
以前から不正に手を染めるオリバーを何度も諌めてきたが、今回の件でついに限界を迎えることとなる。
すぐにでも解放したかったらしいのだが、各所に根回しをし、シャル達を解放するための段取りをしていて時間がかかってしまったそうだ。
しかし護衛から遠ざけられたと言っても騎士団長である。
別邸には問題なく入れるし、信用出来る部下もいる。
シャル達が解放された当日は信用のおける部下が牢番になるように細工し、見張りも裏口に回らないように密かに手引きした。
―――ーということだった。
「そして今向かっているのはサンロータス子爵領だよ」
アルフォードは男爵家の三男であることから、貴族のツテを使って、サンロータス子爵家に保護の協力を取り付けたのである。
「そこで君たちを秘密裏に保護する。私はサンロータス子爵の従者なんだ。もちろん衣食住も保証するし、落ち着くまではそこに居てもらって構わない。帰れる場所は残念ながらもうなくなったと聞いているから……その後のことはゆっくり考えてくれればいい……」
四人は故郷と家族を失った悲しみを感じつつ、今後の見通しが立ったことで安堵のため息を吐いた。
◾️◾️◾️◾️◾️
「ウォルトレン!奴隷が逃げたとはどういうことだ!」
オリバーは副団長に怒鳴り声を上げ、ウォールナット製の高級机を強く叩いた。
「はっ!二日前に牢がもぬけの殻となっておりまして……」
ウォルトレンは冷や汗を流しながら答える。
「そういうことを聞いているのではない!誰が逃した!?」
「目下調査中でありますが、アルフォード団長が疑わしいかと……」
「アルフォードを連れてこい!」
オリバーはここ数日の間、外せない会合のため王都へと出かけていたのだが、出たくもない会合に引っ張り出され、かなりイライラしていた。
このイライラをどうやって奴隷で解消しようか考えながら別邸に戻って来ると、奴隷達が姿を消していたのだ。
―――――
「アルフォード団長、貴様が逃したのか?」
「いきなり何のことでしょうか?」
アルフォードは淡々とした表情でオリバーに答えた。
「貴様はいつも私を諌めてくるよな?奴隷を連れてきた時もこの私に対して怒鳴りつけだろう!私が貴様の言うとおりにしないから奴隷を逃したのだろう!」
「殿下、お言葉ですが、私は殿下のためを思って諫言しているのです。殿下は数年後国政に携わられます。王族は国のため、ひいては民のために働かなければいけません。それをご理解していないから申し上げるのです」
「つまり貴様が逃したんだろう?」
「私が逃した証拠でもあるのですか?」
「もう我慢できん!必ず口を割らせてやる!」
オリバーは下唇を噛み締めながらアルフォードを睨み、躾部屋に連れて行くよう部下に命令した。
「おのれアルフォードめ!実力があるから側に置いてやっているものを!おい!ウォルトレン!奴隷達の捜索はどうなっている!?」
「現在は領地の外側まで捜索範囲を広げております。アルフォードと繋がりの深い貴族領と脱走してからの時間を考えると、かなり候補地は絞られるかと……」
「すぐに捕えここに連れて来い!領主邸に匿われたらいくら私でもそう簡単に手出しが出来ん!」
「承知いたしました」
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物資を調達するために寄った宿場町。
なるべく早く出立しようと急いで買い物を済ませたが、シャルは急に悪寒を感じた。
街道の先をじっと見つめていると、微かに響く馬蹄の音が聞こえて来る。
――――オリバーの追っ手がシャル達の目前まで迫っていた。
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まだまだ拙い文章ですが、これからもっと上手い文章を書けるように努力していくので、応援宜しくお願いします。




