第四話 夜闇を駆ける馬車
次回は10月12日(月)13:00に第5話〜謎の紐解き〜を更新予定です!
国家運営に関わる前の若い王族や王子達にはそれぞれ別邸が与えられている。
この別邸は王家直轄の領地で、王族が将来国を運営するための経験を積む場所として建てられたが、現在はその機能を失っていた。
各領地には代官がいるため、王子達から任せたと言われれば逆らうことが出来ないのだ。
だから王子や王女は一年の大半を帝都の城で過ごし、月に数度各領地に出かけ上辺だけの視察をする。
そんな状態が慣習となっていたのだが、第二王子のオリバーは大半を別邸で過ごしていた。
会合や面会も基本的には代官に任せで、別邸には近寄らせない。
護衛の騎士団も精鋭を除きあまり出入りすることが出来ないので、奴隷を飼うような重罪を犯していても取り締まれる者がおらず、告発が合った場合は揉み消されてしまう。
それがここウェルザー王国の表に出てこない闇の部分である。
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そんな別邸にシャル達が連れて来られて数ヶ月が経った。
「四人ともいらっしゃい。今日も君たちに沢山躾をしてあげよう」
まるで親しい友人を招くような調子でオリバーは四人を部屋へと招き入れる。
シャル達は基本的に毎日「躾部屋」と称される拷問部屋に呼ばれ、体中をムチで叩かれ、棍棒で全身を殴られるのだ。
他にも様々な拷問を受けるのだが、意識が飛ぶと牢屋に戻され回復魔法をかけられる。
そして次の日にまた拷問される。そんなことの繰り返しだ。
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そんなある日の夜、一人の男がやってきて牢屋の前で立ち止まった。
シャルは顔を俯かせたまま無感情に質問する。
「なんですか?」
すると見知らぬ男が、シャルにだけ聞こえるように小さな声で言った。
「君たちを逃がしたい」
(何を言っているんだこいつは?)
シャルは眉間にシワを寄せ、あからさまに怪訝な表情をしながら男に顔を向ける。
「時間がないから手短に話す。一週間後、私は君たちが逃げられるように手引きする。だからなんとか逃げられる準備をしてくれ」
「鎧を着ている奴なんて信用出来ないですね」
「……そうだろうな。でも信じてくれ。必ず君たちを解放する」
それだけ告げて男はその場から出ていった。
(声に……悪意がなかった?むしろ本当に心配してくれているような…)
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それからシャルは一週間考え続けた。
本当に助けにきてくれるのか?
それとも何か裏があるんじゃないか?
もし仮に逃げられるとして、逃げる準備をどうすればいいのか?
半信半疑になりながらも、本当に助けに来てくれるのではないかという希望が日に日に大きくなっていく。
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シャル達は必ず四人で拷問部屋に呼ばれる。
自分が拷問されることも辛いが、誰かが拷問されているところを間近で見せられるのも相当に堪えるものだ。
そしてオリバーはそれらの表情を見ながら紅茶を飲むことを娯楽としていた。
さらに、すぐにおもちゃが壊れてはつまらないと考えたオリバーは、心が折れるか折れないかの境を見極めるのが上手く、誰かの心が壊れそうになると、数日は何もせず、食事や休息もある程度与えた。
そして家族や友人と会わせることを仄めかし希望を見せるのだ。
なんとも狡猾で醜悪である。
その絶妙な匙加減のせいで精神を崩壊させずに済んだわけだが、出口が見えない状況で希望を見出し続けることは難しく、心が完全に壊れた方がマシなんじゃないかとさえ思えてくる。
「今日はまず誰からいこうかな?アナからいってみようか?」
「い、嫌だ、もうやめて、もう無理だよ…」
アナは心底怯えた表情で訴えるが、オリバーはその恐怖に染まった顔を見るのが快感らしく、恍惚の表情を浮かべ無慈悲にムチを振り下ろした。
――――そしてシャルの番がきた。
いつものように棍棒で殴られていると、シャルが急に静かになる。
「あれれ?シャルくんどうしたのかな?そんなに簡単に意識を失う君じゃないでしょ?」
「…も、もうやめて下さい。……もう限界なんです」
「ちょっとちょっと!いつものあの強気な目はどうしたのさ!?あの反抗的な目は!?」
シャルの反応を見たオリバーは少しイラつきながらまくし立てる。
「毎日毎日もう無理なんです。ここから一生出られず、こんな状況が続くのは地獄より辛い……だから殺して下さい」
震えた声で、涙を流しながら懇願するシャルにオリバーは怒鳴り声をあげた。
「何を言ってるんだ!お前は私に反抗する役目だろ!お前が心折れてしまったらどうやって心を折ろうか考える楽しみがなくなってしまうではないか!」
「……もう……死にたいんです……」
オリバーは椅子に座ると、腕を組み貧乏ゆすりをしながら少しの間思考する。
「ちっ……興が醒めた。もういい。お前達は役立たずだ。この第二王子である私の命令に従えないのならお前達はもう用済みだ!」
しばらく癇癪を起こし続けたオリバーだったが、急に静かになり気味の悪い笑顔を浮かべると、ある提案をしてきた。
「わかった。私もそこまで鬼じゃない。そんなに嫌なら君たちを解放してやろう。君たちは今から自由の身だ!」
そう言われてシャルは頭を垂れ足にしがみつくように感謝の言葉を口にした。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
そのシャルの姿を見て、他の三人は目を見開くのだった。
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二日後の夜、自由にすると言われたものの、シャルたちは変わらず牢屋の中にいた。
オリバーはどこかに出かけたのか、何の音沙汰も無い。
そんな中、シャルは目を瞑り集中していた。
ーーーしばらくすると、牢屋の入り口の方から誰かの足音が聞こえてくる。
(来た!)
「待たせた。今から牢を開ける。全員私に着いてきなさい」
「ウィル、アナ、ロッティ、行こう」
「ねえ、本当に逃げられるの?」
ロッティが震える声で聞いてくる。
他の二人も牢の隅で不安そうな目でこちらを見ていた。
シャル自身も男を信じ切ったわけではないが、ここでじっとしていても状況が変わるわけではない。
だからシャルは言い切った。
「大丈夫。必ず逃げられる。だから僕を信じてついてきて」
ロッティはシャルが差し出す手を恐る恐る掴むと、意を決して立ち上がる。
「よし、行くぞ」
男はシャル達の手枷を外し、なるべく物音を立てないように静かに地下を脱出し裏門へと急ぐ。
(脱出が簡単すぎやしないか?いつもいる見張りもいない。どうなってる?)
シャルが疑問に思っていると、男が裏門を指差した。
「あそこに馬車が用意してある。あの馬車に飛び乗るんだ!」
シャル達は少し困惑したが、どうせ後がないと思い勢いよく馬車に飛び乗った。
「アイラック!子供達を頼んだぞ!」
「お任せ下さい!アルフォード様!」
荷台に乗ったシャル達は大きな布を被せられると、アイラックは静かにシャル達に語りかける。
「私はアイラックだ。ここからは私が君たちを引き継ぐ。まずはこの領地を出るまで少しゆっくり進むよ。あまり急いでいると不審がられるからね。そして領地を出たら速度を上げる。領地を出てある程度落ち着くまで会話は無しだ。少し落ち着いたらちゃんと説明する」
緊張感のある声にごくりと唾を飲み込むと、静かに馬車は動き出した。
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どれくらい息を潜めていただろうか?
不安と緊張が支配する中、徐々に速度が落ち馬車が止まる。
「少しここで休憩しよう」
アイラックが少し安堵した声色で優しく話しかけてくれる。
「領地を出てから大分速度を上げたからね。馬達がもうそろそろ限界だ。君たちも疲れただろう?」
アナが周りをキョロキョロしながら問いかける。
「ほ、本当に大丈夫なんですか?追いかけられたりしていませんか?」
「ああ。一旦は大丈夫だ。ただ、どこまでこの安心が続くかは分からない。だからなるべく早く移動したいね。」
そしてロッティも不安そうな目をしながら会話に加わる。
「……このあと私たちはどうなるの?」
「そこもちゃんと説明しないとね。その前にまずは食事でもしようか。お腹が空いてるだろ?」
アイラックは暖かいスープと柔らかいパンを用意してくれた。
温かい食事は空腹と同時に心も満たす。
シャル達は話すことも忘れ、目に涙を浮かべながら無我夢中で食事を掻き込んでいった。
お腹が満たされると、ようやく四人はずっと張り詰めていた緊張を解くことが出来たようで、その表情を見てアイラックも安心する。
「お腹がいっぱいになったなら少し寝るといい。夜通し逃げてきたんだ。眠くなってきただろう?」
「そ、そんなことねえよ!まだあんたのことだって信用してないのに、こんな状況で眠れるか!まずはちゃんと説明しろよ!」
ウィルはそう言って反抗したが、相当疲れていたんだろう。
片付けをしている間に寝入ってしまった。
「君は寝なくていいのかい?それとも私を警戒しているのかな?」
「いえ、色々と考えているとまだ眠れそうにないんです。それにさっき少しだけ荷台で眠れましたから。あ、それと僕はシャルです」
「宜しくねシャル。それにしても君は落ち着いているね。本当に子供なのかな?」
アイラックが冗談めかして質問してくる。
「僕はちゃんとした子供ですよ。10歳になりました」
「10歳にしては随分と大人びている気がするが……。それよりも一つ気になったんだが、どうやってあの屋敷から抜け出したんだい?」
「それはどういうことでしょうか?」
「魔印で奴隷契約を結んだろう?だからオリバーの命令には絶対に逆らえないはずだ。アルフォード様があの子だったら何とかすると言っていたけど、なんとかなっていることが不思議でね」
「ああ、そのことですか」
「普通はオリバーの側から離れたら、魔印が発動して全身に痛みが走るはずだよね?つまり今の君たちは魔印の影響下にない。そこをどうやって掻い潜ったのか教えてくれるかい?」
すると、シャルはため息をつきながら「賭けに勝ったんです」と呟いた。
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まだまだ拙い文章ですが、これからもっと上手い文章を書けるように努力していくので、応援宜しくお願いします。




