第三話 白夜の果てに
本日は20:00にも第4話を公開予定です!
「うおぉぉぉぉ!!!」
シャルは慟哭した。
怒り、悲しみ、憎しみ、喪失感、様々な負の感情が混ざり合って、体内から膨大な魔力が湧き上がる。
「くっ、なんだこれは!?」
「あのガキの力か!?」
膨れ上がった魔力が圧となって吹き荒れ、盗賊達がたじろぎ始める。
すると盗賊の背後から白銀の鎧を纏った青年と騎士達が顔を出した。
「これは面白い」
「殿下、お下がりください。これ以上近づくのは危険です」
「いやいや、あの子が欲しくなったよ。私は離れているからぜひ捕まえてくれ」
殿下と呼ばれる青年は薄笑いを浮かべ素直に後ろへと下がっていく。
「さて、どうやってあの小僧を無力化するか」
「あの状態では、下手に刺激すると何をしてくるかわかりません。一度ここから退避するべきです。」
鎧を着た騎士達は、焦った表情も見せず冷静に状況を観察している。
様々な色をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせたような感情の中、シャルの頭にはアイリーと過ごした日々の思い出がいくつも浮かんでいた。
優しく包んでくれた優しい手、笑いながら囲む温かい食卓、魔法を失敗した時の呆れた顔。
どの思い出も、シャルにとっては大切でかけがえのないものだった。
そのアイリーが目の前でただの肉塊になっている。
シャルは激情に駆られたまま血走った目で男達を睨みつけ、直後両手を男達に向けた。
キィィィィンーーー!
魔力が膨れ上がり、シャルの小さな手から炎が噴き出てくる。
シャルの体程の大きさとなった炎の球は、高周波の音と共にエネルギーがより小さく凝縮されていき、赤から蒼へ、そして蒼から白へと色を変えた。
チリチリと肌が焼けつくような感覚に、思わず騎士達も慌て出す。
「あれはいかん!総員退避!退避だあ!」
そんなことはお構いなしに、シャルは明確な殺意を持ってファイアボールを放った。
「死ねぇぇぇぇ!!」
「まずいっ!」
殿下と呼ばれた青年と話していた騎士が即座にシャルとの間合いを詰める。
そしてシャルから白いファイアボールが放たれると同時に、男は剣の鞘でシャルの腕をかち上げた。
カッッッーーー!!
その刹那、辺りは一瞬の静寂に包まれると同時に、一面真っ白な光に覆われた。
夜が急に昼間に変わったような明るさに、その場にいた者達が目を覆う。
ーーーその光景はまるで白夜のようだった。
直後、今度は轟音が森を支配する。
ドドォォォォォンーーー!
音が止み森に静寂が戻る。
土煙が引くにつれ、ようやく視界が晴れてくると、シャルを中心に直径30メートルを超えるすり鉢状のクレーターが出来ていた。
その威力に周りの木々は薙ぎ倒され、更には爆風で周りの火まで鎮火しかけている程だ。
クレーターの中心には、意識を失ったシャルと、ボロボロになった騎士が片膝をついていた。
「こんな小さい子がこんな魔法を放つなんて信じられん」
男は荒い呼吸を落ち着かせながら、今まで出会ってきた魔法師達のことを思い浮かべる。
同規模の魔法を放てる魔法師は世の中に少数であるが存在する。
しかし皆魔法を極めた熟練の魔法師達で、何十年もの研鑽を積み重ねてこの域に到達するのが一般的だ。
それに、あくまで規模の話である。
魔法の質や密度に関しては、ここまでの魔法は見たことがなかった。
(こいつは危険過ぎるな……)
男はこの年齢でここまでの火力を出すシャルを末恐ろしく感じ、背筋に冷や汗が流れた。
「おかげでこの魔道具もダメにしてしまった」
男が持っていた魔道具は王族を守護するための特殊なペンダントで、強力な障壁を張る物である。
その障壁は並の魔法ではびくともしないのだが、それが一発で壊れてしまった。
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ーーーー
『シャル、お母さんはシャルが大好きよ』
『僕もだよ!だから大きくなったら、村の人たちとお母さんを絶対に仲直りさせてあげるからね!』
『強く生きるのよ。愛してるわ』
『お母さん?どうしたの?』
『………………』
『嫌だ……行かないで……行かないでよ!』
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ガタガタと揺れる車体と車輪の軋む音にシャルはハッと目を覚ました。
どうやら馬車に取り付けられた檻で運ばれているらしい。
(あれ?……馬車?……)
「アイリー?……夢?…………ッ!?アイリーは!?」
シャルは急に意識が覚醒し、アイリーがいない現実を突きつけられた。
(アイリーが……もういない……もういないんだ……)
自分が置かれた状況を理解したシャルの目から留めどなく涙が溢れ出てくると、シャルは感情を抑えきれずに大声で泣いた。
「うわあああああ!あああああ!」
しかし、そんなシャルに容赦ない言葉が浴びせられる。
「おい!うるせえぞ!お前らは黙ってろ!次泣いたら殺すからな!」
シャルは男の怒鳴り声に恐怖し、必死に両手で口を塞ぎ声を押し殺した。
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しばらく泣き続けると、涙は止まったが虚無感が押し寄せてくる。
何も考える気になれず、ただぼーっと下を見つめるだけ。
その時馬車が大きな石を踏んだのか、ガタンと大きく揺れた。
シャルはその衝撃で体勢を崩すと、右腕に何かがぶつかる。
(ああ……そうか……捕まえられたのは俺だけじゃなかったのか……)
そこには同じ年くらいの子供達3人が拘束されていて、隣の女の子にぶつかったのだ。
シャルはアイリーの死で頭がいっぱいになり、周りを気にする余裕がなかったのだが、同じ境遇の子供達を見て、次第に冷静さを取り戻していった。
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徐々に思考能力が戻ってきたシャルは、脱出の算段を考え始めていた。
(夢でアイリーは『強く生きろ』と言った。まずはここから逃げて、悲しむのはその後だ)
シャルはまず自分の置かれている状況の把握に努める。
(俺達全員の手首に嵌められている手枷はなんだ?魔力を練ろうとしても、全身に行き渡る前に霧散する?魔力を抑えるモノなのか?)
そしてふと周りを見ると何台もの馬車が連なり、ざっと見た限りでも20名近いエルフが囚われていた。
(あんなに沢山の人が……)
それを見て、シャルの目にはまた涙が滲んでくるが、必死に感情を押し殺して声だけはあげないように堪え続けた。
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拘束されてから二日が過ぎた頃。
何度も冷静さと絶望感を行ったり来たりしながら、大分落ち着いて考えられるようになってきた。
男達が食事休憩に入り、見張りが離れている隙に、シャルは一緒に囚われている少女に小声で話かけてみる。
「僕はシャル。君の名前は何て言うの?」
「あなたは忌み子でしょ?」
「…忌み子?」
「パパやママがあなたとは話しちゃいけないって言ってた」
少女は膝を強く抱え、震えながら答えた。
(忌み子ってなんだ?疎外された原因はアーサーとアイリーだけじゃなくて俺にも原因があるのか?)
「確かにそいつは忌み子で気に食わないが、そんなこと言ってられる状況でもねえな」
そう言って口を挟んできたのは生意気そうな少年だった。
「俺はウィルだ。最初にお前が話しかけたのがロッティ、そしてこっちのダンマリしてる奴がアナ」
「皆は知り合いなの?」
「当たり前だ。生まれた時から一緒に育てられたからな」
ウィルは少し棘のある言い方で説明してくるが、思った以上に冷静らしい。
「そっか。それより忌み子って?」
「さあな。大人達は教えてくれねえよ。ただ、穢れた子供だから絶対に近づくなって言われてた」
(子供達はどうして俺が忌み子と呼ばれているのか知らないのか)
ウィルは両腕を頭の後ろで組みながら、外の様子を見ながら言った。
「それよりここから逃げ出す方法を考えないとまずいぞ」
「確かにそうだね」
ヒソヒソと話をしていると見張りの男が戻ってきた。
もう間もなく出発するようなのだが、また怒鳴られたり、怒りに任せて暴力を振るわれてもたまらない。
四人は口を閉じると、また馬車に揺られ始めた。
会話が出来ない分、目を瞑り脱出の手立てを考えるが、魔力を封じられ力も無いシャルには、ここから逃げ出す方法が思い浮かばなかった。
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さらに一日が過ぎた夕暮れ時、ようやく目的地に着いたようだ。
ここは森の中にある小さな集落だ。
エルフの村よりも規模が小さく、隠されているようにも感じる。
「着いたぞ。降りろ」
鎖に繋がれ石造りの建物の中に入る。
建物の奥まで進むと地下へ続く階段があり、地下通路の左右には檻が並んでいるのだが、どうやらエルフ以外にも人間や亜人が鎖に繋がれて閉じ込められているようだ。
最奥の広間に着いた瞬間、絶叫が響き渡った。
「ぎゃあああああっっ!!」
肉の焦げる嫌な匂いと煙が上がる。
先に連れて来られたエルフ達が、赤く熱せられた焼印を背中に焼き付けられていた。
「さて、君たち四人はこちらにおいで」
気持ち悪い笑みを浮かべ、でっぷりと太った男がシャル達をさらに奥の扉へと誘導する。
そこには鎧を着た男たちと、黒いローブを纏い顔に仮面を付けた男が待っていた。
「殿下、四人をお連れしました」
「ご苦労だったね」
豪奢な椅子に一人座っていたのは、森でシャルを捕えるように命じた青年だった。
「それでは自己紹介といこう。私はオリバー・フォン・ウェルザー。ウェルザー王国の第二王子だよ。」
ここでウィルが声を振るわせながら声をあげる。
「な、なんで王国の第二王子がこんなことしてるんだよ!王国では奴隷は重罪だろ!」
「うんうん。そうだね。重罪さ。でもエルフが奴隷にされても誰も文句を言わないよ」
「ふざけるな!そんなこと許されるわけないだろ!」
「それが許されるのさ!だって私は第二王子だからね!」
(ああ。前世にもいた。こういうクソみたいな権力者が。自分の地位と権力を振りかざし、弱者をいたぶることに快感を覚えるバカ。俺が一番嫌悪する人間だ)
「さて、これから君たちにも奴隷の刻印を刻ませてもらうよ!でも焼印ではない。奴隷の魔印さ!」
オリバーが楽しそうに説明し終えると、ウィルがグイッと引っ張られて仮面ローブの前に引っ張り出される。
「まずは君から魔印を刻もうね」
オリバーは綺麗な笑顔でウィルに微笑み、その表情を見たウィルは今にも泣き出しそうな顔をしている。
ウィルは体を震わせながらなんとか我慢していると、仮面ローブが呪文を唱え始めた。
何を言っているかは分からないが、20秒程の詠唱を終えると、右手をウィルの胸に当て小さくもはっきりとした口調で呟いた。
「―――ポルナ」
―――そう唱えると同時にウィルは激痛から叫び声をあげ暴れるが、両腕を抱えられているため逃れることが出来ず、痛みに耐えかねて気絶してしまう。
そして胸には薄っすらと紫に光る魔印が施されていた。
それを見たアナとロッティは顔を引き攣らせて、へたり込んでしまった。
シャルは必死にこの状況を打開する策を考えたが、全然思い浮かばない。
とにかく少しでも時間を稼ぐべきかと思い、頭に浮かんだことを質問をする。
「どうして僕たち四人だけが…魔印なんでしょうか?」
「おや。君はなかなかいい着眼点を持っているね。さすが副団長を追い詰めた子だ」
「副団長?」
「ん?君は覚えていないかな?君は目の前で母親を殺され、怒り狂って大きな魔法を放ったんだ。おかげで副団長は満身創痍。周りの者たちも吹き飛ばされた。幸い死者は出なかったが、私も少し吹き飛ばされて転んでしまってね。ほら、ここに擦り傷が出来てしまったよ。」
オリバーは上着の袖を捲り上げると、左腕の肘を指差し大したことない傷を見せつけてくる。
その時シャルは誰がエルフの村を襲い、アイリーを殺したのかをハッキリと理解した。
「お前が村を襲ったのか……お前がアイリーを殺したのか……」
シャルの憎悪と怒りが湧き上がり、声は低く、鋭くなる。
「あれあれ?怒っちゃったかな?話の続きだけど、君のように魔法の才能がある子を特別に僕のおもちゃとして使ってあげようと思ったのさ!でも君たちの場合、手枷についている魔道具だけじゃ魔力を抑えられないから、しっかりと魔印で封じる必要があるわけだよ!この魔印は奴隷契約も兼ねているから、君たちにはぴったりだろう?」
「ふざけるな!お前を」
「―――ポルナ」
シャルがオリバーに飛び掛かろうとしたところで、すでに詠唱を終えていた仮面ローブがシャルの胸に手を当て魔法を発動させる。
「……っ!!」
言葉にならない激痛が体を駆け巡り、視界が暗転していく。
(絶対に……お前は…許さん)
シャルは床へと倒れ込みそのまま意識を手放した。
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まだまだ拙い文章ですが、これからもっと上手い文章を書けるように努力していくので、応援宜しくお願いします。




