第二話 愛を叫ぶ声は届かず
本日は19:00、20:00にも連続更新です!
「ちょっとシャル!一体どうしたの?」
アイリーが心配そうに声を掛けてくるが、そんな声も脳内で響く警鐘音にかき消される。
ジッと暗い森を見ていると、少しずつ森が明るくなっていることに気付いた。
(火だ!森に火がついている!)
シャルは火事が起きていることを確信すると、思わず家から飛び出した。
村に行きたくても、両親の悲しむ顔を見たくなくて近づかないようにしていたのだが、それがこんな事になってから村に向かうことになるなんてとんだ皮肉だ。
村に近づくにつれ、どんどん空がオレンジ色に染まっていく。
同時に黒煙を視認出来るようになってくると、悲鳴も聞こえ始めた。
動悸が収まらず、全身を粟立つような鳥肌が覆う。
ーーーー
息を切らせながら村に到着すると、目に飛び込んできたのは、盗賊達がエルフの村を蹂躙する信じられない光景だった。
家は燃やされ、所々にエルフが血を流して倒れていた。
魔法で抵抗しているエルフも居るようだが、上手く防がれているようで、完全に劣勢に立たされているのは間違いない。
「なんで、こんなことに……」
戦争の映像を見たことはあるが、実際に目の当たりにしてみると衝撃が強過ぎて一瞬頭が真っ白になった。
目の前のエルフが剣で斬られ、女性と子供は拘束されどこかに連れ去られていく。
生々しい音や匂い、空気感までもが映像とは全く違う。
その狂気に吐き気を催し、思わず手で口を塞いだ。
「うっぷ……」
シャルは胃からせり上がってくるものを抑え込みながら、必死に頭を回転させた。
(どうしたらいい!?助けに出る!?でもあんな中に飛び込むなんて自殺行為もいいところだ!それとも逃げた方がいいのか!?)
シャルは木陰に身を潜めながら、これからのことを考えるが、頭が混乱していて思考がまとまらない。
そこにアイリーが追い付いた。
「シャル!」
「あ…お母さん」
「急に家を飛び出して心配したじゃない!」
「ご、ごめんなさい」
アイリーはホッとした顔でシャルの頬に触れるが、すぐに表情を変え、真剣な目付きで何が起きているのか予測する。
「結界が破られてるわ。エルフの張った結界はそう簡単に破られない。でも破られたということは、強い魔道師が居るか、強力な魔道具を持っている可能性があるわ。それにエルフの魔法を上手く無効化してる。」
アイリーは険しい表情で村の様子を確認しながら、これからのことを思案しているようにも見えた。
「……じゃあどうするの?」
シャルは震えた声で尋ねた。
「…………シャルは逃げなさい」
「お母さんはどうするの!?」
「……お母さんはね、皆を助けてくるわ」
アイリーはどこか悲しそうな顔で、無理やり笑顔を作りながら答える。
「どうしてお母さんが行くの!?あの人達はお母さんを差別してきた人でしょ!?いじめてきた人でしょ!?それなのにお母さんが助けに行くのはおかしいじゃないか!?」
アイリーは目を見開き、そして悟ったように力を抜いた。
「シャルにはなんとなく分かっていたのね……本当に頭のいい子だわ。あなたは私とアーサーの自慢の息子よ」
そしていつもの柔らかい笑顔で微笑みかけながら、またシャルの頬にそっと触れた。
(なんだよそれ……これが最後みたいな言い方すんなよ……)
シャルは歯を食いしばりながら、アイリーの瞳をジッと見つめたが、アイリーの目からは何かを覚悟した雰囲気を感じ取ってしまう。
「確かにお母さん達は差別を受けてきた。でも村を助けるのと差別を受けてきたのは別の話よ。だから早く逃げなさい。時間がない。村を助けたら私もシャルを追いかけるから」
「ちょっと待っ……!」
そう言い残してアイリーは村へ走って行ってしまった。
アイリーの背中を見つめながら、シャルはそこから金縛りにあったように動けなくなった。
村を襲っている悪意と暴力に対する恐怖心、そしてアイリーを一人で行かせてしまっていいのかという葛藤。
どちらに進んでも必ず後悔すると直感が告げていたからだ。
しかし、常に温かい愛で包んでくれたアイリーを見捨てるという気にはどうしてもなれなかった。
だからシャルは心臓の警鐘音を無理やり無視し、深く息を吸った。
日々練習した魔法を思い出す。
(俺の魔法があれば盗賊達を撃退できるかもしれない。)
深呼吸を繰り返し、少しだけ冷静になったシャルもまた村に向かって走り出す。
(や、やってやる!あ、あいつらを撃退してやる!)
緊張と恐怖で呼吸が荒くなりながらも、なんとか魔力を練り上げる。
手の平に直径三十センチ程の火の玉を作り上げ、さらにそれを収縮させると、赤かった火の玉は次第に蒼く、そして高密度に変化していった。
ーーーーーーー
シャルの視線の先では、盗賊達がニヤニヤと下卑た笑いで村を見つめていた。
数人がその場に固まっており、全体の指揮を取っているようだ。
(あいつらを倒せば状況が変わるかもしれない)
そう思いシャルは狙いを定めた。
隠れる場所もなく、ただ一直線にそこへ駆けていくため、盗賊達もシャルの存在に気付く。
「おい、ガキがこっちに走ってくるぞ」
「おうおう、勇ましいねえ」
(やっぱり気づかれるよな……!)
シャルは恐怖心を抑え込みながら、手の平を前に突き出し思いっきり火球を放った。
「ファイアボール!!」
人に当てたら殺してしまうというリミッターが無意識に手元を狂わせたが、それでも盗賊達の足元で爆ぜた。
ーーボォォォン!!
密度の高いエネルギー体が地面との接触によって一気に拡散し、そこにいた盗賊達は爆発の勢いで吹き飛んでいく。
「フー…………フー…………フー…………」
初めて人に対して放つ魔法に罪悪感が入り混じるが、この場の状況に興奮状態だったシャルは目を血走らせながら自分に言い聞かせる。
「やらなきゃやられる!やらなきゃやられるんだ!」
もう一度深く息を吸い込み、周りを確認すると、シャルに向かってくる者はいなくなっていた。
大分視野狭窄に陥っていたことを自覚したシャルは、自分の頬を両手で叩き、気合いを入れ直す。
(次はどうする!?アイリーはどこだ!?)
再度駆け出したシャルは、同じようにファイアボールを放ちながら、盗賊達を吹き飛ばしていく。
そしてやっとアイリーを見つけた。
「お母さん!」
「シャル!?どうしてここにいるの!?逃げなさいと言ったでしょ!」
「そうだけど、一人だけ逃げるのは違うと思ったんだ!それに僕も魔法は使えるよ!」
覚悟のある真剣な眼差しに、アイリーはふっと笑みを浮かべる。
「……そう。……今のあなたはアーサーそっくりね。アーサーも何かを守ろうとした時同じような目をしていたわ」
「今そんなこと言っている場合じゃないでしょ!?早く村の人を逃がせるだけ逃さなきゃ!」
「そうね……じゃあシャルも手伝ってちょうだい!一人でも多くのエルフを逃すのよ!」
そこからシャルはアイリーと戦場を駆け回ったのだがーーー。
ーーー「さすがにエルフ全員を助けることは出来ないか……」
半数近くのエルフは逃すことが出来たが、それでも悔しさの滲む表情でアイリーが呟いた。
「これ以上は私たちも危ない。一旦逃げるわよ。」
(アイリーはきっと村の全員を助けようとしたんだろうな。でも俺の安全を優先した。だから俺から全員助けに行こうなんて正義感ぶったことは言えないな)
シャルは自分自身が村の全員を助けようとしていたことに気付いたが、しかし同時に怒りも湧いてくる。
(というかそもそも俺たち家族を差別してきたんだ!そんな奴らを助ける義理なんてあるわけないだろ!)
心の中で一人そんなやり取りをしていると、そこに一人の男が現れる。
「このクソガキ!お前のせいで計画がめちゃくちゃじゃねーか!」
現れたのは、シャルの魔法で吹き飛んだ盗賊の一人で、その男の左半身は火傷でただれていた。
シャルは反射的に魔力を練り上げようとするが、シュっと魔力が抜けてしまった。
(まずい!このタイミングで魔力切れ!?)
初めて体感する無遠慮の暴力と、極限の緊張感によって、自分でも気付かない程に体力も魔力も消耗していたのだ。
とにかく逃げようと体の向きを変えた時、足がもつれて転びそうになってしまった。
(ヤバっ!)
その隙を男が逃すはずもなく、剣を大きく振り上げた。
シャルは一気に体が冷えていくような感覚に陥ってしまう。
「死ね!クソガキがああ!」
(ああ、また俺は刃物で死ぬのか。まさか死因が連続で刺殺とはなあ。今世もまた報われずに終わるのか……)
一瞬の時間がゆっくりと流れていくように感じた。
目を瞑ると、不思議と死を受け入れることが出来て、その時の心は落ち着いていたーーー。
―――死の瞬間というのは走馬灯が見えるというが、全然見えない。
(……あれ?痛みがない?)
ゆっくり目を開けると、目の前にはアイリーがシャルを庇うように立っており、地面には大きな血溜まりが出来ていた。
「ゴフッ………シャルは…逃げなさい」
一瞬で頭が真っ白になり、力が抜ける。
「えっ…………」
アイリーは痛みに顔を歪めながら、男に対して魔法を放ち、フラフラとよろつきながら前に駆けていく。
アイリーの進む先を見ると、数人の盗賊達と鎧を着ている連中がこちらに迫って来ていた。
そして鎧の連中は明らかに盗賊達とは違う。
シャルは声を出そうとしたが出てこない。
立ちあがろうとしても腰が抜けて動けず、アイリーの背中に届かない手を伸ばすだけしか出来なかった。
視界に写るアイリーがどんどん小さくなっていく。
アイリーが放つ魔法も、威力は無く防がれてしまった。
そしてついに膝をつくーーー。
「……やめろ。アイリーが死んじゃう」
ようやく声を絞り出したが、その呟きは誰にも届かない。
「シャルーー!」
アイリーが叫び、こちらを振り向いた。
「愛してるわよ……だから生きてね」
ザシュッーーー!
アイリーは鎧の男に斬られた。
(最後に何て言ったんだろう?)
アイリーの声は遠くて聞こえないが、愛していると言われた気がした。
生きろと言われた気がした。
目の奥が熱くなり、じんわりと涙が滲んでくる。
前世の平和な世界を生きてきたシャルにとって、目の前で人が殺されるという経験をしたことがない。
ましてや大切な母親を殺されるなんて想像もしたことがない。
アイリーは仰向けに倒れながらも、僅かに残った力でシャルに手を伸ばし、少しでも近くに行こうとした。
シャルも必死に右手を伸ばし、少しでもアイリーに近づこうとした。
しかしその時、アイリーの胸に剣が突き立てられーーー
ドサっ。
ーーー力の抜けた腕が地面に落ちた。
――ドックン!
シャルは涙で視界が歪み、朧げな輪郭しか捉えることが出来ないが、母親の命が事切れてしまった事を瞬時に理解する。
「ああ……ああ……アイリー…………アイリィィィィ!!!」
直後、シャルの内側から灼熱のマグマのような膨大な魔力が解放され始めた。
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まだまだ拙い文章ですが、これからもっと上手い文章を書けるように努力していくので、応援宜しくお願いします。




