第一話 目覚めと蒼の炎
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本日18:00/19:00/20:00と4話まで一挙に公開です!
(努力は報われるなんてただの綺麗事だ。もしそれが真実ならもっと人生楽しめてたはずなんだ。あんなに努力したのに……結局成功出来なかったな……)
体の熱が急速に奪われ、意識が遠のいていく。
三流大学を出て就職したブラック企業で心を壊し、退職後に選んだ個人事業主の道。
居酒屋でバイトを続けながら、クライアント獲得に奔走し、本を読み漁り、休日は勉強会に明け暮れた。
それでも納得いくような結果は出ず、迎えた三十八歳の誕生日。
バイト先の居酒屋で客同士の喧嘩の仲裁に入り、怒り狂ったチンピラ風の男に腹を複数箇所刺された。
失血死。それが成功を諦めきれず足掻き続けた俺の人生の、あまりにあっけない幕引きだったーー
ーーーはずだった。
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「起きたのかな? パパですよー」
「もう! 寝起きにそんな大きい声出したらびっくりして泣いちゃうわよ」
「そ、そうかな……ごめんな。それにしてもシャルは可愛いなー」
ぼんやりとした視界が段々と輪郭を帯びてくる。
見たこともない木造の天井が視界に映り、さらに優しく見下ろす二人の顔が飛び込んできた。
(ここはどこだ? あんた達は誰だ?)
尋ねようとしても、口から漏れるのは赤ん坊の無力な声だけ。
「あうー、あうー」
「そっかそっか、お腹が空いたのね! すぐにミルクをあげるわね」
女性からミルクを与えられ、胸と腹を満たす圧倒的な温もりと安心感に、俺は心地よく思考を手放した。
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それから一年。徐々に現実を理解していった。
どうやら前世での記憶を持ったまま、異世界に転生してしまったらしい。
この世界で新たに与えられた名前はシャルル・ベントラム。愛称はシャル。
父親のアサヒ(通称アーサー)は黒髪黒目の東洋人を思わせる精悍な顔つきの男で、細身に見えて引き締まった肉体を持つ凄腕の冒険者らしい。
母親のアイリア(通称アイリー)は、輝くブロンドヘアーと吸い込まれるような緑の瞳、そして長く尖った耳を持つエルフだった。
気品漂う絶世の美女だが、俺を抱く腕はいつも信じられないほど温かい。
日々の生活に電化製品はなく、洗濯や料理には魔法が使われ、夜は魔光石という鉱石が部屋を照らす。
新たな両親の「無条件の愛」に包まれるうち、俺はこの世界を自分の生きる場所として自然と受け入れていた。
そして知識と経験は頭に残っているのだが、感情だけが幼児退行しているようで、同時に不思議な違和感を覚えていた。
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ここはウェルザー王国最北端にある『銀の森』。
森のさらに深くには、百人ほどのエルフが静かに暮らす村がある。
その村を中心に魔物や人間が近寄れないよう巨大な結界が張られているのだが、その結界の隅でシャル達家族はひっそりと暮らしていた。
五歳になったある日、シャルはずっと気になっていた疑問をアイリーにぶつけてみた。
「どうして僕はあの村に行っちゃいけないの?」
アイリーはハッとしたように息を呑み、悲しそうな顔で視線を落とした。
「……お母さんとお父さんはね、村のみんなとケンカしちゃったの。仲直りしたいんだけど、まだ出来てないんだ。お母さんなかなか勇気が出せなくて。本当はお友達も作らせてあげたいのに……ごめんね、シャル」
涙を浮かべる母を見て、シャルは前世の知識からなんとなく察する。
(嘘だな)
「大丈夫だよ! お母さんは悪くないもん! お父さんとお母さんがいれば、僕は大丈夫だよ!」
頭では冷静に思考出来るが、子供のように感情が先に出てきてしまい、必死にアイリーを慰めた。
シャルは平和だった前世でも、差別やいじめ、村八分のような醜い悪意は腐るほど見てきたし、何より、自分がその対象になっていたからこそ理解出来る。
ごく稀に村について行った時に感じていた嫌な雰囲気は、恐らくそういうことなんだろう。
アイリーを悲しませたくなくて笑って見せると、アイリーは愛おしそうにシャルを抱きしめた。
「ありがとう、シャル。……そうだわ!いつも我慢してくれているシャルに、特別に魔法を教えてあげようかしら!」
「えっ、本当!?」
「ええ。本当はもっと大きくなってから教えようと思っていたけど特別よ。その代わり、練習は絶対にお母さんかお父さんと一緒の時だけ。約束できる?」
「うん! 約束する!」
するとアイリーがまずはお手本を見せると言って、意識を集中させ始めた。
次の瞬間空気が変わり、アイリーから目に見えないエネルギーが湧き上がるのを肌で感じる。
「――ファイア」
一言呟いた瞬間、アイリーの手の平にポッと十センチほどの赤い炎が灯った。
「おお!すごい!」
「まずは集中してお臍の下辺りに意識を向けるの。そうすると温かい何かを感じるわ。それが魔力の根源。そしてその温かいモノを全身に行き渡らせながら、手の平から炎が出る姿を思い描くの。いい?魔法はイメージよ!」
本来は十歳を過ぎてから魔法の練習を始めるものらしい。
子どもの身体では魔力循環の理解が出来ず、想像力の解像度も足りないからだ。
だがシャルには三十八年分の前世の記憶と知性がある。
シャルは目を閉じ、深く息を吸い込んだ。
(魔力の根源……瞑想の感覚に近いな。お腹の魔力を血管の隅々にまで巡らせるように……)
呼吸を整えた瞬間、下腹部で熱いマグマのような塊が湧き上がってくる。
ゴォッと風が巻き起こり、足元の草木が激しくざわめいた。
「えっ……!?」
アイリーが息を呑む。
五歳でいきなり魔法を使えるようになるとは思っていなかったアイリーだが、シャルの魔法適性は高いと感じていた。
だからもしかしたら五歳でも……と小さな期待はあったのだが、間違いないようだ。
しかしシャルの魔力量が想像を超えていて、アイリーは途中で止めるかどうか迷ってしまう。
そんな中シャルは集中を切らさない。
(魔法はイメージだ)
集中し思考が回り出すと途端に大人の知性が顔を出す。
頭に思い描いたのは前世の使い捨てライター。
ボタンを押すとガスが噴出し、フリントが擦れ合うと摩擦によって散る極小の火花。
アイリーは躊躇する思考を押さえつけながら叫んだ。
「シャル、もうやめなさい! 暴発するわ!」
「――ファイア」
ボォオオオオオッッ!!
アイリーの制止と同時に手の平から巨大な火柱が立ち昇り、その業火は高さ二メートルを超えていた。
まるで火炎放射器だ。
「嘘……でしょ……」
呆然と立ち尽くすアイリーの前で、シャルは奥歯を噛み締めさらにイメージをし続ける。
(拡散させるな。一点に……点収束させろーーー!)
荒れ狂っていた巨大な火柱が急速に圧縮され、三十センチ程の鋭利な炎へと徐々に姿を変えていく。
まるでガスバーナーのようで、高密度、高熱で噴射されるファイアは、透き通るような蒼い炎だったーーー。
ーーーシャルの集中がぷつんと途切れ火が消えると、全身から汗が噴き出しその場へへたり込んだ。
「シャル! 大丈夫!?」
「あはは……お母さん……できたよ。すごい?」
「……ええ、凄いわ。でもシャル、改めて言うけど絶対に一人で使っちゃダメよ」
アイリーは優しい笑顔で褒めながら、同時にシャルの魔力がいかに規格外なのかをちゃんと説明した。
それだけシャルの魔法は危険だったのだ。
そしてそんなアイリーの言いつけをシャルはしっかり守るのである。
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それから五年。
シャルは母に魔力制御を教わり、父アーサーと的当ての訓練を重ねると、十歳を迎える頃には、魔力操作において大人以上の練度に達していた。
そんなある日、シャルとアイリーの前でアーサーが真剣に話し始めた。
「アイリー、シャル。お父さんはちょっと仕事で遠出することになった」
冒険者であるアーサーは、時折村の外へ出て魔物の討伐依頼をこなしている。
「大物の魔物が出たらしくてな。調査も含めてしばらく家を空けることになった」
その言葉を聞いた瞬間、(ドクン!)と胸の奥が嫌な音を立てる。
(……なんだ? この底知れない嫌な予感は……)
全身の毛穴が開くような本能的な悪寒。
この世界に生まれてから殆どワガママらしいワガママを言わなかったシャルは、思わずアーサーの服の裾を強く掴んでいた。
「行かないでお父さん!お願いだから行かないで!」
「シャル……?どうしたんだ急に?」
「嫌な予感がするんだ!お願いだから家にいてよ!」
いつもと違うシャルの雰囲気に、アイリーとアーサーは困惑するが、生活のかかった仕事を子どもの根拠のない直感でキャンセル出来るはずもない。
困り果てた二人の顔を見て、前世の大人の理性が蘇ったシャルは掴んでいた手をそっと離した。
「……ごめんなさい。ワガママ言って」
「シャル……ごめんな。本当はシャルのワガママを聞いてあげたいがそうもいかないんだ。……そうだ!シャルにこれをあげよう!」
アーサーが首から外し、シャルの首へと掛けてくれたもの。
それは宝石でも貴金属でもない、不思議な紋様が刻まれた古びた石の首飾り。
「お父さんの大切な宝物だ。これがあれば嫌なことがあってもシャルを守ってくれるさ!」
「……うん」
次の日の朝、シャルは胸騒ぎが収まらないまま、アーサーをぎこちない笑顔で見送った。
◾️◾️◾️◾️◾️
アーサーを見送ってから一週間が過ぎた夕暮れ。
温かいスープの湯気が立つ食卓を囲みながら、シャルはアイリーに向き合っていた。
「ねえ、お母さん。そろそろ教えてほしいんだ」
「何をかしら?」
「僕たちがこの村の外れに住まなきゃいけない本当の理由。喧嘩したって前は言ってたけど、本当は違うんでしょ?」
アイリーはスプーンを止め、静かに目を伏せながら覚悟を決めたように呟く。
「……そうね。シャルももう十歳だものね。ちゃんと話さなきゃいけないわね」
母が口を開きかけた、その刹那だった。
ドックンッ――!!
心臓を鷲掴みにされたような激しい感覚。
アーサーが旅立った時の胸騒ぎなど比べ物にならないほどの、圧倒的な悪寒と恐怖。
「シャル……? どうしたの?」
母の声が遠く聞こえる。
理屈じゃない。
全身に立つ鳥肌と肌を突き刺すような悪意。
シャルは椅子を蹴るようにして立ち上がり、窓の外――夜闇に沈む銀の森を凝視すると、風が止み木々が不気味にざわめいている。
そして無意識に一言呟いた。
「――何かが、来る」
記念すべき初執筆第1話!
最後まで読んでいただきありがとうございました!
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まだまだ拙い文章ですが、これからもっと上手い文章を書けるように努力していくので、応援宜しくお願いします。




