↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼炎の太陽は影月に嗤う  作者: kobito
第二章:「旅立ち編」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/22

第二十一話 模倣の刃と蜂剣の教え

月・水・金・日の19:00に更新です



 シャルは今までと違いどっしりと剣を構え、少し腰を落として重心を下に落とした。


「ほう。敢えて重心を下にしたか」


「俺はあなたの動きに翻弄されっぱなしで、本来の動きが出来ていませんでしたから」


「良い判断だ。ではもう一度こちらからいくよ?」


ランベールは先ほどの復習だと言わんばかりに、同じ下からの斬りあげを仕掛けてくる。



(相変わらず速いが……)


シャルは四度目の斬りあげに完全に目が慣れていた。


今度は後ろに躱すのではなく、右足を一歩前に踏み込みランベールの斬りあげを木剣で防ぐ。




―――ガンッ!!




「そうきたか!」


ランベールは瞬時に全身の力を抜くと、シャルの木剣がするりと外れ、さらに回転を加えて横薙を払ってくる。



―――まるで剣舞を見ているようだ。



シャルは冷静にその一撃も剣で受け止めた。



「足元がガラ空きだよ」


立て続けの剣戟に重心のバランスが若干左足に乗ってしまったシャルを見て、ランベールは楽しそうに笑いながら、シャルの右足に容赦なく足払いを掛けた。


シャルは足を綺麗に払われ、先ほどと同じように転ぶと思われたーーー




――ブワッ!




―――が、足払いの勢いを利用して側宙してみせた。




「なっ!?」


ランベールはシャルの動きに呆気にとられ一瞬の隙を作ってしまう。


シャルは着地と同時にその隙を見逃さず、強烈な一撃を振り下ろした。


「うりゃっ!!」





―――ガツンッ!!





「くっ!」


ランベールは足払いをした直後で体勢が崩れていたため、その場から逃げることが出来ず、なんとか両腕でシャルの剣を受け止める。




 その時、訓練場の隅で二人の闘いを見ていたセシリアは驚愕の表情を浮かべていた。


(す、凄い……ギルドマスターは噂通りの人だったけど、ラヴィがあんなに強いなんて……。ガンビー達を倒した時も凄いとは思ったけど、剣を持つと動きの次元が違う感じがする。遠くから見ていても目で追うのがやっとだ)


セシリアは強く指を絡め合わせ、まるで祈っているかのような姿勢で二人の戦況を見つめていた。




「ラ、ラヴィ君、なかなか良い動きをするようになったじゃないか」


「お、おかげさまで」


シャルは次の動作を考えながら、上から剣を振り下ろしたままの体勢で、力を緩めずにランベールの剣の動きを封じていた。


(次はどう動けば良い!?この人の動きは予測が立てづらい。次はどんな攻撃を仕掛けてくる!?)



鍔迫り合いをしているほんの数秒の間に、シャルの頭は高速に回転する。


(一度引いて体勢を立て直すか!?いや、それじゃ結局振り出しに戻るだけだ。それよりもこのまま力で押し込んでみるか!?)


シャルはこのまま力で押し込むことを選択し、瞬発的に腕にブーストを掛けようとした。


(ブースト!!)



その瞬間ランベールはニヤリと笑い剣の力を抜いた。



―――ドゴンッ!



行き場を失ったシャルの木剣は大きな音と共に地面を抉る。



ランベールはシャルがバランスを崩した隙に立ち上がり、間合いを取ろうとブーストを掛けた足で一気に後方に下がった。


(ラヴィ君の実力は本物だ。まさかここまで追い詰められるとはね。でも一度距離を取ってしまえばやりようはいくらでもある)


そう考えていたランベールの表情が瞬時に驚愕に変わる。





(なんだと!?)





そこには既に間合いを詰めていたシャルが迫っていた。


(私はほとんど彼から目を離していなかった!それを一瞬で!?なんて速さを出すんだ!!)



シャルは瞬間的に全身にブーストを掛け、低い体勢から木剣を斬りあげた。





――ブォン!!





シャルの身体はブーストによる負荷でミシミシと軋みを上げるが、体が壊れるか壊れないかギリギリの魔力制御により、現在シャルの出せる瞬間最高速度でランベールに肉薄する。



(こいつ!私と同じ技を!)


ランベールは上半身を逸らし、なんとか剣を避けたが、シャルは回転の勢いをそのままに足払いを放ってきた。


(なんて動きをしやがる!?こいつは魔力制御の化け物か!?ブーストの使い方が異常だぞ!!)


ランベールは綺麗に足元を掬われ地面に転がってしまった。


立ち上がろうにも、シャルの動きが速すぎて間に合わない。



シャルはその隙を見逃さずランベールに向けて剣を突き立てようとしたーーー。


(これで終わりだ!)



―――その刹那、昨晩ガンビーの骨を砕いた生々しい感触が、脳裏をかすめる。


(くっ!これ以上は……!)


無意識に木剣を持つ力が緩み、切先がブレたその一瞬の隙だったーーー





「私の勝ちだな」





仰向けになりながら突き出したランベールの木剣がシャルの腹に食い込んでいた。


シャルは一瞬頭が真っ白になった。


(なんだ?何が起きた?俺は今勝ってたよな?なんで俺の腹に剣が刺さってる?)



木剣を逆手で持ったまま固まるシャルにランベールが問いかけた。


「納得いかない顔だね?」


「え?ああ、あの、俺が勝ったと思ったから」


「とりあえずこれで手合わせは終わりにしよう。そろそろ私も立っていいかな?」


「あ、はい、すみません」



 シャルは剣を下ろし、手を差し出してランベールを引っ張り起こした。



ランベールは体についた砂を両手で払うと、また柔和な表情で話し始める。


「ラヴィ君の強さは疑いようもないよ。体捌き、剣技はもちろんだけど、魔力制御が化け物じみてる。私でもあそこまでブーストは使いこなせない」


「それでも負けちゃいましたけど」


「そこなんだが、最後に剣を突き立てようとした時、一瞬躊躇っただろう?」


「あ……はい。確かに躊躇ったような気がします」


「そこが君の弱点だ。ラヴィ君、君はきっと優しい人間なんだろうな。無意識に人の命を考えてしまう癖がある。木剣でさえその癖が出ている。最後のあの瞬間の躊躇いがなければ勝っていたのは君だよ」


「…………」


シャルは弱点を指摘され、自分の気付けなかった癖を看破されたことに何も言うことが出来なかった。



「それに、それ以前の撃ち合いもそうだ。君はどうも無意識に急所を外す癖がある。そこには気付いていたかな?」


「いえ、気付いていませんでした……」


シャルはなぜか師匠に説教されているかのように俯いてしまった。



それを見てランベールは困ったような笑みを浮かべながら、まるで弟子を諭すように続きを話した。


「なにも説教をしたいわけじゃない。ラヴィ君の人を傷つけたくないという気持ちは尊いものだ。喜んで人を傷つけるよりもずっとね。……しかし、冒険者をやっていると、そんな甘いことを言っていられなくなる場面が出てくる。自分の命を散らしてしまうかもしれないし、下手をするとその躊躇いの一瞬で仲間を失ってしまうかもしれないんだ」



シャルはランベールの目を直視しながら、質問した。


「俺は、どうすればいいのでしょうか?人を殺す覚悟を持つべきなのでしょうか?」



ランベールは顎を指で撫でながら、目を瞑り暫く考えるとゆっくり口を開いた。


「今はまだそんな覚悟を持たなくて良いと思うよ。でも、ラヴィ君……君はいつかその覚悟を問われる時が来るだろう。それまでに自分なりの覚悟を持てればいいんじゃないかな」


「それは俺も人を殺す場面がやってくるということですか?」


「んー……それは分からない。でもギルドマスターの勘……ってやつが囁くのさ!」


ランベールは意図せず重くなってしまった話に、少しおどけたような表情で誤魔化そうとしたのだが、シャルはその勘があながち間違っていないと思った。



「自分なりの覚悟……ですか。……そんな覚悟を持てるのでしょうか?」


シャルは天井を仰ぎ見ながらボソリと呟いた。



シャルのどこか儚げな表情を見たランベールは、まるで昔の自分に言い聞かせるような口調で答える。


「そもそも覚悟なんて、持とうとして持てるもんじゃないよ。逃げ場のない、どうしようもない状況に追い込まれて、腹を括るしかなくなった時に持てるのが覚悟さ」


シャルはランベールに向き直り、小さく頷いた。



「それにね、怖がらせるようなこと言っちゃったけど、冒険者が相対するのは基本は魔物だからね!傭兵ギルドじゃあるまいし、そうそう対人戦があるわけじゃないから安心しなよ」



シャルはつい深く考え過ぎていたことに気付き、ハッとして空気を変えようとした。


「そ、それはそうと、手合わせありがとうございました。師匠と修行して強くなっていた気になっていましたが、まだまだだということが分かりました」


「いやいや、謙遜しなくてもいいよ。技術は既に一級品だし、なんせ元はといえSランク冒険者である私とやり合えるんだから。恐らくこの国で君に勝てる者はそこまで多くないだろうね。それにまだ君は本当の力を出していないだろう?まあ私もだけど」


ランベールはケラケラと笑いながら簡単に言うが、完全に見透かされていた。


シャルは剣術においては全力を出したが、魔法は使っていなかったのだ。


もし魔法を使っていれば、もっと闘いの幅は広がったに違いない。


しかし、弱点と切り札を看破され、さらに力を出し切っていないと言い切るランベールには勝てる自信が相変わらず湧いてこなかった。



「ハハハ……」


シャルは思わず笑いを引き攣らせていると、闘いを見守っていたセシリアが駆け寄って来て、焦りながら問いただしてきた。



「ギギギ、ギルドマスターってSランクだったんですか!?」


「ああそうだよ。とは言っても元だけどね。『蜂剣(ほうけん)』っていう方が分かりやすいかな?」


「ほほほほ、蜂剣!?ああ、あの蜂剣ですか!?」


「そうだよ。細剣(レイピア)を蜂の針になぞらえて蜂剣って呼ばれ始めたんだけど、安直だよね?私はあんまりその二つ名を気に入っていないんだ」



ランベールは頭を掻きながら恥ずかしそうに答えると、冒険者に詳しくないシャルがセシリアに質問をしてきた。


「Sランクってどれくらい凄いものなんですか?冒険者に詳しくないもので」


「ラヴィ!何を言ってるんですか!!Sランクは特別中の特別なのです!Sランク認定された冒険者は今現在世界中に20人もいないんですよ!それに二つ名を持っていること自体が強者の証なんです!」


「そ、そうなんですか……」


シャルはセシリアの圧にタジタジになりながら、改めて凄い人物と手合わせしたのだと思った。



「さて、君の実力は分かったしマスター室に戻ろうか」


興奮しているセシリアを横目に、シャルはランベールの後をゆっくりついて行った。




次回は11月2日(月)19:00の更新です!


少しでも続きが気になりましたら、下にある【ブックマークに追加】ボタンや【評価(★★★★★)】で応援して頂けると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。