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蒼炎の太陽は影月に嗤う  作者: kobito
第一章:【少年期編】〜過酷な運命と太陽の旅立ち〜

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12/22

第十二話 恩人との邂逅

次回は10月16日(金)PM13:00に第13話を更新予定です!




 シャルは街道をひたすら走った。

どれくらいの時間を走り続けただろうか?


後ろを振り返ると、グレーブンの街はすでに見えず月明かり以外の光は無い。


 シャルは立ち止まり夜空を仰ぐと、静寂と満点の星空がシャルの脱出を祝福しているように感じた。



(やった……逃げ切った……!)


シャルは大きく息を吸い、やっと自由を手に入れたと思った。



 既に体力が限界を迎えていたが、運良く林を見つけたためそこに身を潜めて休憩を取ることにする。


急に緊張が解けたからか、ピーキーに斬られた胸の傷がズキズキと痛み出した。


胸を確認すると服は大きく裂け、汗と血でドロドロになっている。


(うわ……これはひどいな)



鞄から水筒を取り出し、痛みに顔を歪ませながら傷口を洗うと、幸い血は止まっていた。


傷の処置をし、準備しておいた旅装に着替えた後、ボロボロになった服を燃やすことにした。


持っていても邪魔になるだけだし、そのまま投げ捨てれば誰かが追ってきた時、逃走先の目星を付けられてしまうと考えたからだ。




―――シャルがファイアを発動すると直ぐに燃え尽きて灰になった。





 干し肉を齧り小腹が満たされると、徐々に瞼が重くなってくる。


ウトウトしそうになりながらも、眠気を振り払うように頭を振り立ちあがろうとした時だったーーー。



(……馬蹄の音が聞こえる!?)


とっさにしゃがみ込んだが、音はもう直ぐそこまで迫っている。



(くそっ!気を抜きすぎた!)


心の中で舌打ちをしながら身を屈め、息を殺す。



馬から誰かが降り、こちらに近づいてきた。


先ほどまであんなに綺麗だった満月をどんよりとした雲が覆ったせいで、相手の顔を確認することが出来ない。





――パキッ!





疲れと焦りから思わず小枝を踏んでしまった。


(チッ!……相手は!?気づいたか!?)


シャルは恐る恐る元の方向を見たが、こちらの立てた音には気付いていないようだった。




(ふう…………このままじっとしてや)


「見ぃぃつけたぁ」


心拍数が瞬時に高まり、咄嗟に声の主と距離を取る。





「やっと追いついたぜ。さっきはよくも俺の腹に魔法をぶち込んでくれたな?おかげで上半身がとんでもない火傷を負っちまったじゃねーか」


ピーキーが殺意のこもった目でこちらを睨んでいた。



シャルは焦りから街道側しか注視していなかったため、林の奥から回り込まれていると気づけなかったのである。


ピーキーと対峙していると、ピトロスキー一家の男達がシャルを取り囲んだ。



なんとか逃げるチャンスを作ろうと、会話で時間を稼ぐ。


「どうやってここが分かった?」


「そりゃあお前、魔法使っただろう?東門を出たら次の街まではずっと一本道だ。何か手掛かりがねえか探しながら馬を走らせてたら林が光ったからな。お前だとすぐに分かった」



(くそっ!まさか魔法の光でバレるなんて!)



「相当疲れてるんだろ?油断し過ぎだ。いつものお前は常に気を張ってた。誰も信用せず、誰にも弱みを見せず、周りを警戒してな。それが今のお前はなんだ?逃げられたことに安心して気を抜いちまったか?」



全てピーキーの言う通りだ。

少し考えて慎重に行動すれば回避出来るミスをこのタイミングで犯してしまった。



「お前の魔法のせいで脇腹がめちゃくちゃ痛くてよぉ、おかげでイライラしっぱなしだぜ。今度こそ殺してやるからな!お前ら手ぇ出すなよ!」



首をポキポキと鳴らすと、ピーキーが先ほどと同じく突きを放ってきた。


ピーキーは身体中が痛むのか動きにキレはない。


しかしシャルも体力が限界を迎えていて、剣を避けようとバックステップを踏むが、足がもつれて倒れ込んでしまう。



(まずい!すぐに立たなきゃ!)



その隙を見逃さずピーキーは剣を振り下ろす。


シャルは咄嗟に地面を転がり回避し、急いで立ちあがろうとしたが、眼前にはピーキーがすでに剣を再度振り上げて迫っていた。



魔力を練り上げようとするが間に合わず、咄嗟に腕で頭を隠し防御の姿勢を取る。


「死ねやあああああ!!」





―――ヒュンッ!




「あぁ?」


ピーキーが呆けた声を出すと、ボトっと何かが目の前に落ちた。




「ギリギリ間に合ったな……とりあえず無事で良かった」


聞き覚えのある声に顔を上げるが、誰だか思い出せない。


もう一度足元に視線を向けると、そこには剣の握られた腕が落ちていた。





「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!う、腕が!腕があぁぁぁ!!」


ピーキーは切られた右腕を押さえながら後退りするも、すかさず首を一閃された。




―――シュッ!!




剣で斬ったというのに風切り音しか聞こえず、遅れて血飛沫が散った。




もう人ではなくなった何かが前のめりに倒れ、その衝撃でゴロっと頭が地面に転がると、目を見開いたままのピーキーがシャルを見上げていた。



(な、何が起きたんだ!?)


シャルは現状を未だ理解出来ず、謎の男を見つめることしか出来ない。




「「アニキー!!」」


「「ピーキーさんっ!!」」


シャルとピーキーの戦いを傍観していた男たちは仲間の死を理解すると、突然の出来事に取り乱し、各々武器を振りかざしながら謎の男に突っ込んできた。


しかし、一瞬で全員の首が両断される。

きっと全員が切られたことを理解出来ていないだろう。


改めて見ても太刀筋が全然追えなかった。





◾️◾️◾️◾️◾️





 静寂が戻った林の中、月が雲の合間から顔を出す。



返り血すら浴びていない男はゆっくり剣を鞘に納めると、ただ呆然としているシャルに手を差し伸べながら、緊張を解いた声で話しかけてきた。


「立てるかい?」


「あ、ああ、はい」


(やっぱりこの人見たことがある)



旅人用の外套を着て、いかにも冒険者という雰囲気だが、その精悍な顔つきには見覚えがあった。



「……アル……フォード……さん?」


「…………」


「そうでしょ?アルフォードさんだよね?」


「……そうだ。よく覚えていたな」


アルフォードは俯きながら答えたが、その声には後悔が滲んでいるようにも感じる。



「ど、どうしてここにいるの?」


「君をずっと探していたんだ。君が地下牢から脱出した後、皆のために囮になって行方不明になったと聞いてからずっと。二年も助けられなくて悪かった」


アルフォードはシャルが無事生きていてくれたことへの安心感と、直ぐに助けに行けなかったことへの自責の念が混ざった声で謝罪した。



「い、いや、謝らないで下さいよ。アルフォードさんは僕たちを助けてくれた。囮になったのは僕が自分で決めたことで、誰のせいでもありません」


「…………」


「それに、またアルフォードさんに助けられました。有難う御座いました」


そう言ってシャルが頭を下げると、ようやくアルフォードも頭を上げてシャルをゆっくり立ち上がらせた。



二年前、シャルたちを奴隷から解放してくれた恩人である。

感謝はしても怒りなどない。



「ここに留まるとまた追っ手がかかる可能性がある。移動しながら話そう」


アルフォードは馬に跨り、シャルを後ろに乗せた。





◾️◾️◾️◾️◾️





アルフォードは街道を逸れて、林の中をゆっくり進む。

火照った体に流れる夜風は心地よく、馬の規則正しい蹄の音が心を落ち着かせてくれた。



「それで、どうして僕を助けに来ることが出来たの?」


「それは、グレーブンの街を張っていたからだよ」


「どういうこと?」


「私は二年前に騎士団を辞めたんだ。君たちを逃したあとに脱走幇助の疑いをかけられてね。まあ疑惑というか事実ではあるんだが……」


「ああ。あの腐った騎士団か」


シャルは侮蔑を込めた声で反応すると、アルフォードは苦笑いしながら、話を続けた。



「これでも当時は騎士団長をやっていてね。いくら騎士団が腐っていると言っても、中には真っ当に職務をこなしている奴もいるんだ。だが、第二王子からしたらそれが疎ましかったんだろうね。私や誠実な部下たちは護衛から遠ざけられていたんだよ。でも騎士団長権限で上手く工作して、脱出当日は信頼の置ける部下が別邸の警護担当になるようにしたんだ」


「だからあんなに簡単に抜けられたんですね」


「ああ。だがそうなると勿論私が手引きしたと疑われる。証拠は残さなかったんだが、追及がどんどん酷くなっていってね。それで騎士団に残るかどうするかを悩んでいた時、君が行方不明になったと聞いた。それで踏ん切りがついたよ。騎士団を辞めて君を探すことにしたんだ」


アルフォードは淡々と今に至るまでの事を語っていった。



「でも最初は当てなんてなかったんですよね?」


「ああ。だから最初にロングボルト領に向かった。君以外の子達から情報を聞こうと思ってね。そしたら彼らからは物凄く怒りをぶつけられたよ。騎士は嫌いだ、俺たちの人生を返せってね。だから私も君を助けた時、名前を名乗るかどうか迷ったんだ。いくら命を助けたとはいえ、嫌な人間に救われたと知ったらどう感じるか想像してしまったんだ」


「でも名乗ってくれました」


「君が私を覚えてくれていたこともそうだが、君の姿を見て、誠実でありたいと思ったんだ。名乗らないのは、ただ自分が傷つきたくないと逃げているだけなんじゃないかと思ってね」


まるで懺悔するようにアルフォードは静かに話した。


後ろからでは彼の表情は見えないが、きっと自責の念に取り憑かれた顔をしているんだろうと安易に想像はつく。



「アイラックからも色々と話を聞いて、グレーブン辺りに居るまでは予想がついた。聞き込みをすると君らしき子供の目撃情報はいくつもあったが、実際に見つけることは出来なかった」



シャルは名前こそ隠してはいなかったが、基本的にオランジュの息のかかった人間としか会っていなかった。


そういう奴らは口が固くシャルのことについても口を割らなかったのだろう。


それに見つからないのも当然だ。


一日の大半はアジトの奥で計画を練っていたし、交渉に行く時は子供だと舐められるため、指示書だけ渡して他の人間を行かせていた。


最初の一週間以外は自分から進んで外に出ることは殆どしなかったのだ。



「そして先日、元部下から連絡が入った。第二王子がグレーブンの街でオランジュを捕まえると。そこに君が居るかもしれないと」


「それで街を見張っていたんですね?」


「そうだ。最初はマフィアの取り締まりだけかと思ったんだが、部下からは、君に関することで王子が動いたと聞いていたから、暫く粘ることにしたんだよ。そしたら爆発音やら怒鳴り声が聞こえてきてね。門の方に走っていく連中を見つけたから後を追ってみた。そうすると怒りの籠った声でシャルを追えという言葉が聞こえてきて、その連中が馬を走らせて街道に飛び出して行ったんだ。だから私もすぐに馬を探して追って来たってわけさ」



シャルは事のあらましを聞いて納得した。


前世でもここまで心配して行動に起こしてくれる人はなかなかいなかったように思う。


この二年間の出来事を思い出しながら、アルフォードの誠実さと優しさに自然と涙が頬を流れ落ちた。



「アルフォードさん……本当にありがとう」




―――シャルの逃亡劇はここでようやく幕を閉じる。


しかし、シャルの瞳の奥には、腐った王家への復讐心と、誰にも虐げられることのない強さを手に入れたいという強い意志が宿っていた。



シャルの逃亡劇やようやく終わりました!


九死に一生を得たシャルと、現れたアルフォード。

ここから二人がどこへ向かいどんな道を歩むのか――。


「シャル、助かってよかった!」「二人のこれからが気になる!」と思っていただけましたら、

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次回もぜひお楽しみに!

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