第十一話 諦めと蒼い炎
次回は10月16日(金)AM1:00に第12話を更新予定です!
トランプの利権とポンジスキームの仕組みにより、オランジュはピトロスキー一家の中で大躍進を遂げていた。
上納金は一家でもトップクラスで、幹部昇進も間近。
その勢いの中心にいたのは、当然シャルだった。
シャルがターゲットとして選ぶのは、私腹を肥やす悪徳貴族や裏で汚職に手を染める悪徳商会のみだ。
善良な民を騙せば、魂まで本当のマフィアに染まってしまう――その一線を越えないために必死に情報を集め戦略を考えた。
組織加入当初は暴力を強要されたり、凄惨な現場に立ち会わされることもあったが、どのような事をされても決して屈しなかった。
そのうち莫大な利益を叩き出し続けるシャルに、オランジュもいつしか暴力による支配を諦め、「金の卵を産む鶏」として重用せざるを得なくなっていたのである。
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シャルがピトロスキー一家に加わってから二年が過ぎた。
「……本当に明日、魔印を解呪してもらえるんですか?」
「ああ、勿論だ。お前のおかげで本部から人を呼べるくらいになったんだ。明日の夜には本部からの魔術師が到着する予定だ。」
オランジュはソファを深く腰を落とし酒を煽りながら、ニヤついた顔で首肯した。
―――シャルは自室で机の上に広げた計画書を見つめながら、オランジュの言葉を思い返す。
(……嘘だな……)
ベッドに横になり天井を見上げる。
(騎士団が先か……魔術師が先か……)
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十日程前、急にオランジュはシャルの魔印を解呪する手配をしたと言い出したのだが、オランジュは狡猾で臆病な男だ。
魔印を解呪するだけで終わるはずがない。
そのため、シャルは直ぐ様、秘密裏にオランジュの名でオリバーへ脅迫状紛いの密書を送ったのだ。
もし解呪と同時に、オランジュによる新たな魔印を刻まれてしまえば、ここからの脱出は絶望的になる。
しかし魔印が刻まれる前にオリバー側が動き、オランジュと騎士団がぶつかれば脱出の糸口が見えてくるかもしれない。
そう思ったシャルは最後の賭けに出たのだった。
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「ふ、ふ、ふざけるなああ!あのドブネズミ風情が!私がどれだけの貴族の顔繋ぎをしてやったと思っている!」
「殿下落ち着いてください!」
「これが落ち着いていられか!ウォルトレン!すぐに騎士を招集しオランジュを潰せ!」
密書を受け取ったオリバーは激昂し、直ぐに騎士団の派遣を命じる。
しかし騎士団長のウォルトレンが、マフィアとの戦争を避け、尚且つオリバーのスキャンダル封じの為に策を弄した。
オランジュに不信感を抱かれぬよう、変装した騎士団を少数精鋭で街に潜り込ませ、グレーブンの衛兵を使ってピトロスキー一家の息が掛かった店や人物を摘発させていたのだ。
退路を断つために外堀を埋め始めたのである。
この時、オランジュは騎士団の動きを察知つつも、自ら動こうとはしなかった。
「ボス、何やらきな臭い動きがあるようですが静観していていいんで?」
「ああ。確かに何か裏を感じるが、まだ動かなくていい」
「ボスがそう言うならいいんですが、いつも慎重なボスがどうして今回は動かないんです?」
オランジュはグラスに酒を注ぐと、一気に飲み干してソファに背中を預けた。
「今うちの稼業は随分拡大して、ご貴族様との取引も増えた。おかげであのバカでどうしようもねえオリバーとも密書を交わせる程の立場にもなったわけだ。オリバーを怒らせることをしない限り、こっちに手は出してこねえよ」
オランジュはまさか支部にまで乗り込んでこないだろうと高を括っていたのである。
「それに多少息のかかった店が摘発されようと、そこから得られる利益は微々たるもんだ。変にオリバーを刺激して、関係を悪化させる方が今後のビジネスに響くんだよ」
オランジュはもうこの話は終わりだと言わんばかりに部下を追い返し、机に並べられた金貨の山を見ながら、機嫌良さそうに酒を煽った。
おかげで、さほど警戒されずに済んでいるのだが、騎士団の動きが予想外に遅く、脱出のタイムリミットがどんどん近づいていた。
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翌日の夜更け。
シャルはボスの部屋へと呼び出された。
オランジュの隣には、黒いローブを深く被った不気味な魔術師が佇んでおり、部屋の隅では幹部のピーキーが腕を組みながらシャルに鋭い視線を向けてくる。
ピーキーはオランジュの右腕で、以前はシャルの教育係でもあった。
性格は残忍で疑り深く、シャルが組織の中で一番苦手で憎む相手だ。
「シャル、座れ。さっそく解呪を始める」
オランジュはニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら、魔法陣の上に置かれた椅子に座る様促した。
魔術師が近づくと、シャルは上着を脱いで魔印を露わにさせた。
(やっと解呪される……長かった……でもここで気を抜いたらダメだ)
シャルはより一層警戒心を高めるが、詠唱が紡がれるとあっさり魔印が解呪される。
「痛っ!!」
安堵する間も無く背中にチクリと痛みが走り、ふと横を見るとピーキーがナイフを突き立てていた。
魔法を放ちたくても発動してくれない。
恐らくこの魔法陣の影響なんだろう。
(マジかよ……警戒していたってのになんて様だ。どうする!?ここからどうすればいい!?)
冷や汗を流しながら、シャルは焦りを抑えて問いかける。
「ボス、これはどういうことですか?」
「ちゃんと約束は守っただろ!解呪してやったんだ!だが、お前みたいな金の卵を生むガキをやすやす自由にすると思うか?今度は俺が魔印の契約者になってやるよ!お前は一生俺が世話してやる!これまで通り沢山金を運んでこい!」
(はあ……やっぱりこうなったか……騎士団も来ないしタイムオーバーだ。どれだけもがいても、結局上手くいかないもんだな……せっかくここまで我慢したっていうのに……)
前世の記憶を思い出し、諦めの気持ちがシャルを支配した。
魔術師が新たに詠唱を始めると、黒く濁った魔力がシャルの胸へ迫る。
シャルが目を瞑り完全に諦めかけようとした時だったーーー
―――怒鳴り声と、剣戟の音が響き始める。
音に気を取られた魔術師がシャルから目を逸らし、ドアの方向を見た直後、部屋のドアが突き破られた。
「な、なんだ!? 何が起きた!?」
部屋の中に居た者はオランジュを守りながら壁際へと追いやられる。
すると扉の向こうから冷徹な怒鳴り声が聞こえてきた。
「突入しろ! ここにいる者は一人残らず捕らえよ!殺しても構わん!」
(間に合ったか!)
シャルは騎士団が突入してきたと確信した。
オランジュは顔を真っ赤にして喚き散らす。
「クソがっ!どこの連中だ!?ピトロスキー一家に手を出してタダで済むと思うなよ!」
全員の意識が扉に注がれた瞬間、シャルはその場でファイアを放った。
「ファイア!――――くそっ!魔力が全然上手く練れない!」
二年も魔法を使えていなかったため、威力は低くコントロールも難しいが、それでもシャルの手の平からは一メートル程の炎が噴き出て目眩しにはなった。
すぐに床を蹴り、扉に向かって今度は目一杯ファイアボールを放つ。
小さな爆発が起こり、突入してきた騎士達を吹き飛ばすと、すかさず階段を駆け上がって行く。
これで多少の足止めにはなるだろう。
今回踏み込んできた連中に魔法使いがいないのが幸いだった。
(落ち着け!落ち着け!冷静になれ!)
シャルは出口に向かいながら、自分に言い聞かせる。
そして出口に到達すると、外にいた衛兵が中の異変を察知し雪崩れ込んで来ようとしていた。
「っ……!!」
シャルは一瞬思考し足が止まりかけるが、すぐさま衛兵の元に走っていく。
「助けて!僕はマフィアに捕まっていたんだ!お願い!助けて!」
シャルは子供の立場を利用し、咄嗟に捕えられていた少年を装ったのだ。
「だ、大丈夫か!?君はここに捕えられていたのかい!?」
「そうなんだ!父親が借金をして、お金を返せなくなって、それで人質として捕まった」
「そうだったのか。わかった。もう安心だよ。まずは安全な場所へ移動しよう。こっちにおいで」
「怖かった……怖かったよ」
「もう大丈夫だからね!……おい!俺はこの子を詰め所まで連れて行くからここは任せたぞ!」
シャルは衛兵に連れられて、不自然なくその場を離れることに成功した。
暫く歩き、大通りに差し掛かろうとしたタイミングで、シャルは繋がれていた手を振り解き一気に駆け出す。
引き止める衛兵の足元に構わずファイアボールを放ち、爆発に乗じて路地裏に姿をくらました。
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身を隠しながら、シャルは街の門付近に到着した。
門の近くには脱出する時のため、事前に旅の旅装や路銀を隠しておいたのだ。
それらを入れた鞄を探していると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてくる。
「シャル、お前が探しているのはこの鞄か?」
そこには足から血を流し、目を血走らせたピーキーが肩に剣を添えながら立っていた。
「アジトに侵入してきたのは騎士団だろう?そんでもって手引きしたのはお前だな?」
ピーキーの問いかけに思わず顔を顰めてしまった。
「やっぱりお前か。裏でコソコソ動き回りやがって。何か隠しているとは思っていたが、まさか騎士団を動かすとは思わなかったぜ。お前は俺たちを裏切ったんだ。簡単に死ねると思うなよ」
シャルはピーキーを睨みつけ、込み上げる怒りを言葉にした。
「ふざけるな!裏切るも何も俺はもともとお前達を仲間だと思っていない!特にピーキー、俺はお前を絶対に許さねえぞ」
「ふん、そうかよ。まあ俺もお前のことは最初から信用してねえし、いけすかねえガキだと思ってたよ。もっとちゃんと教育しておきゃ良かったと後悔してるぜ。……死ねや!」
殺意に満ちた目でピーキーが突っ込んでくる。
ピーキーはグレーブン支部の中でも特に武闘派として知られており、剣技の実力も相当なものだと聞いていた。
本気のピーキーは想像以上に動きが早く、直ぐに間合いを詰めてくると、鋭い切先がシャルの胸目掛けて突き出される。
寸でのところで身をよじり、致命傷は避けたが、胸はじんわりと赤く染まる。
(早いっ!足に怪我をしているからなんとか躱せたけど、それでも何度も避けられるスピードじゃない!)
一瞬焦ったシャルであったが、この二年間で数々の修羅場を経験してきたことで、すぐに冷静さを取り戻した。
「ほう。今のを躱すか。でもそう何度も躱せねえだろ?」
(集中しろ、冷静になれ、相手の動きをよく見ろ)
シャルの集中した目付きに、ピーキーは獲物を弄ぶかのような笑みを浮かべて突っ込んできた。
―――その瞬間シャルは腹から湧き出る魔力を必死に練り上げる。
ピーキーは一気に間合いを詰め、先ほどよりも早い突きを繰り出した。
体をよじり今度こそ上手く躱わしたが、それ読んでいたピーキーは直ぐに剣を横薙ぎに振った。
―――この時、集中力が極限に達したシャルには動きがスローモーションのように見えていた。
(ピーキーの剣が……見える……?)
正確に喉元を捉えた刃が迫ってくるが、シャルは無意識に膝の力を抜き身を沈めた。
刹那、アイリーの笑顔が脳裏に浮かぶ。
―――魔法はイメージよーーー
練り上げられた魔力は手の平で炎に変換され、小さな蒼白い火球が甲高い音を立てる。
――――キィィィィィン!!
「なっ!?」
ピーキーは自分が無防備になっていることを察知し、直ぐ様膝をシャルの顔面に叩き込もうとするが、それよりも一瞬早くシャルはピーキーの脇腹にゼロ距離で火球を思いっきり叩き込んだ。
「ファイアボール!!」
――ドカァァァンッ!!
「ギャアアアアッ!!」
高密度のエネルギーが爆発し、ピーキーを吹っ飛ばした。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
シャルの全身から汗が吹き出す。
ピーキーは分厚い革鎧を着ていた様だが、跡形もなく消し飛び、上半身は焼け爛れていた。
気を失ってはいるが、命はあるようだ。
シャルは鞄を拾い上げ、重くなった体を引きずりながら暗闇で染まる街道を走り始めた。
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まだまだ拙い文章ですが、これからもっと上手い文章を書けるように努力していくので、応援宜しくお願いします。




