第十話 銀貨一枚の錬金術
次回は10月15日(木)PM13:00に更新予定です!
「確かこの辺りにあった気が……あった!」
シャルは翌朝、街の端にある工業区域に来ていた。
「すいませーん。これってゴミですか?」
「あ?そうだが、そんなゴミがどうした?」
「これって貰ってもいい?」
「まあ、ただのゴミだからな。欲しけりゃくれてやるよ」
「ありがとう!」
シャルは家具工房で大量の薄い板を貰い受けると、その後も道具屋を回り、やすりと細い筆、インクも手に入れた。
赤のインクが少し高かったが、それでも銀貨一枚になんとか収まりホッとする。
すぐにアジトへ戻ると、今度は道具箱をガサゴソと漁り始める。
(確かこの辺に……あった!ここが倉庫でよかった!)
シャルは小さなノコギリと定規を見つけると、板を同じ大きさに切り始めた。
やすりを使い、丁寧に表面を削りながらささくれ立ったバリも同時に取っていき、手の平サイズになった薄い板に模様と数字を書き込んでいった。
(よし!これでトランプの完成だ!紙じゃないから分厚いけど、それはご愛嬌だ)
◾️◾️◾️◾️◾️
その日の夜、シャルはトランプを持って春風亭を訪れていた。
「どう!?これ面白いでしょ!?」
「これは面白いな!坊主が考えたのか?」
「そうだよ!トランプって言うんだ!」
シャルは残り少なくなったお金で客にエールを奢り、トランプを試しに遊んでもらっていたのだ。
最初はシャルと数人の客だけだったのだが、あまりの盛り上がりに興味を示した他の客も参加し始め、トランプ大会までに発展していた。
シャルが教えたゲームは『大富豪』である。
大富豪は上から「大富豪」・「富豪」・「平民」・「貧民」・「大貧民」と階級が決まっており、身分制度を嫌悪する一般民衆にとって、貧民が革命を起こして大富豪を引きずり落とし、自分が成り上がるという構図が熱狂を生む。
その余りの騒ぎっぷりにマスターがシャルをカウンターに呼び出した。
「おいおい坊主。随分面白い遊びを知ってるな。」
「頑張って考えたんだよ」
マスターはシャルに顔を寄せてヒソヒソと問いかけてきた。
「あの遊びをよ、この店で扱いたいんだがどうだ?」
「それはどういうこと?」
「ギャンブルさせるってことだよ」
マスターはニヤニヤ笑いながら提案してくる。
「もちろんタダってわけじゃねえ。今後一年間、坊主の食事代は無料だ!」
(まさかマスターから提案してくるとは。まあその方が交渉は進めやすいからいいけど……それにしてもこっちが子供だと思って舐めてるな)
シャルはそれまでの子供の表情を消し一気に雰囲気を変え、目つきを鋭く、声も低く抑えて言った。
「貸出と買取どっちか選べ」
マスターはシャルの変貌ぶりに狼狽し気圧されながら、言っている意味が分からなそうに質問を返す。
「ど、どういうことだ?」
「マスターが言った通り、この遊びを今後どう扱うかってことだ」
「か、貸出ならどうなる?」
「貸出なら、このトランプを一日白銀貨一枚で貸してやる。場代を銀貨一枚で設定して、十人の客から集めればその日の元は取れるだろ?そこからはみ出た分は全てマスターの利益だ」
「か、買取なら?」
「白金貨五枚だ。毎日十人の場代を徴収出来れば、一年半と経たずに元が取れる。もしそれ以上の期間貸出を続けるなら、買取の方が圧倒的に割安だ。それにこの熱狂ぶり。もしマスターに先を見通す商才があるなら今すぐ買い取ることを勧めるよ」
「ちょ、ちょっと考えさせてくれ」
シャルは間髪入れずに畳み掛ける。
「いいかいマスター?この権利を売るのは今日を含めて残り三日。それも独占契約。もしマスターが望まなければ他の店に商談を持ちかける。どうするか早めに決断することだね。幸運の女神には前髪しかない」
「わ、わかった。明日また来てくれ。そ、それまでに結論を出すよ」
「ちなみにおれを出し抜こうなんて思わない方がいいよ。おれの後ろにはピトロスキー一家がついてる。複製なんてしたら……わかってるよな?」
シャルは元の子供の表情に戻し、ニコニコしながら春風亭を出て行った。
内心は冷や汗を掻きながら……。
◾️◾️◾️◾️◾️
そして七日目の夜、ついにボスの部屋に呼び出される。
勝負の時間だ。
「おいガキ、俺の渡した金は千倍に出来たのか?」
オランジュは鼻で笑いながら結果を聞いた。
「はい。どうぞこちらです」
シャルはポケットから小袋を取り出し、テーブルの上にドサっと置くと、オランジュは思わず目を見開きながら引き攣った表情を浮かべた。
「こ、こんな大金どうやって稼いだ?」
袋から中身を取り出すと、白金貨三枚と金貨が数十枚入っている。
部下からトランプを販売していると報告を聞いていたが、それがこんな大金になっているとは考えていなかったのだ。
「ボスも知っていると思いますが、トランプで儲けました」
「そんなもん売るだけで、酒場が大金を払うわけがねえ!」
「そうですね。厳密に言うと、このトランプの遊び方を売ったんです」
「どういうことだ?」
オランジュは目つきを険しくし続きを促してくる。
「まず、おれはこのトランプの『遊び方』を春風亭に白金貨五枚で独占販売しました。そして他の四店舗にも同じ額で販売したんです。ただ、流石にどの店主も白金貨五枚なんてすぐに準備が出来なかったので、頭金だけ回収してきました。足りない分は金貸し屋で借入れさせています。なので、今ここにある金は頭金から他の経費を引いた残りの金です」
「つまり、お前が増やした金はこれだけじゃないってことか……」
オランジュは驚愕する。
白金貨一枚も作ることは無理だと思っていたのに、まさかその数十倍に増やせるとは思っていなかったのだ。
それもこんなボロボロのガキがだ。
だからこそオリバーの騎士達にシャルを高額で売り払おうとしていた。
「ひとつ聞くが、お前はどうやって最初のトランプを作った?材料費は銀貨一枚を超えるはずだが、そんな金をどうやって調達した?」
「それならモラノ家具工房で廃材を貰ってきましたよ。薄くてちょうどいい大きさのモノがあったので。倉庫にあったノコギリやら何やら道具はお借りしましたけど」
実はそのゴミはピトロスキー一家が出したゴミだったのだ。
酒や武器を密輸する際に木箱を二重底にしたり、商品がガタつかないように固定するために使われた板である。
密輸品の積荷を解いたあとは、証拠隠滅として木箱ごと廃棄するのだが、その廃棄を請け負っているのがモラノ家具工房だ。
そこに出した廃材を利用したのだとすぐに分かり、オランジュは内心で舌打ちした。
箱の加工は部下達が倉庫で行なっているため、道具も一式揃っていたのである。
自分たちが出したゴミが、シャルの手によって大金を産む道具に変わったことを理解し、シャルの頭の良さを認めざるを得なかった。
しかし納得いかない部分もある。
「お前は独占販売をしたと言っていたな?それを五店舗に売ったのなら、独占にならねえだろ?これから揉め事が起きるのは目に見えてる」
「改めて言いますが、おれはトランプを独占させるとは一言も言っていません。『遊び方』を独占販売すると言ったんです」
「それがどういうことなのか聞いてる」
オランジュの目つきは鋭くなり威圧感が増すが、シャルは平然とした表情は崩さない。
そしてシャルはその辺りは突っ込まれるだろうと思い、事前に準備していた契約書を提示する。
「トランプの遊び方は一つじゃない。春風亭には大富豪を教えましたが、他の店にはそれぞれ、ポーカー、ブラックジャック、ババ抜き、ダウトと、全然違う遊び方を売ったんです」
確かに契約書に明記されているのは、あくまで『大富豪』という単一ルールの独占権だ。
しかも小さな文字で『トランプ(遊戯具)本体の独占を保証するものではない』とまで追記されている。
嘘は書かれておらず、契約の条項にも一切の違反はない。
これでは反論の余地もなかった。
「それにこの契約はあくまでおれと店側で締結させた契約です。他で勝手に真似されてもおれは知ったこっちゃありません。ただ、真似する連中が現れる頃にはとっくに投資資金は回収出来ていると思いますよ」
オランジュはシャルの抜け目のなさに唸った。
「それと……」
「まだ何かあるのか?」
オランジュは怪訝そうな表情を浮かべるが、シャルは気にせず話し出す。
「金貸し屋にはピトロスキー一家の息が掛かっていますよね?つまり借入れの返済で利息を取って金貸し屋は儲け、そのあがりがこっちに舞い込んでくるってわけです」
「………」
「ちなみに、おれはまだマフィアの仲間にはなってないので、金利は一般的な額になっています。そのように金貸し屋を説得しました」
シャルは笑顔で話すが、オランジュは歯噛みしていた。
さっさと仲間にしていればもっとあがりが大きかったかもしれないと思ったからだ。
――――シャルはその後も今後について話を展開していく。
契約書にはトランプの製造・複製を禁じる条項も記載されており、模倣品が出回るまでのタイムラグを確保していること。
王国にある中堅商会にトランプの製造販売を委託すること。
委託契約を結んだ場合、トランプの販売益十パーセントを毎月組織に上納し続けるよう交渉するよう計画していることを伝えた。
敢えて大商会を選択しないのは、成長意欲が高く、常にチャンスを狙っている可能性がある事と、大商会よりは話を聞いてくれるからだ。
そして、ある程度の販路も持っているから一気に市場シェアを取れるし、先行者利益を独占して大商会になる後押しが出来れば、恩を売る事も出来る。
将来の経済のパイプ構築まで見据えたシャルの策だった。
オランジュは冷や汗をかきながら白金貨を掴み、顔を引き攣らせながら言った。
「こんな方法で金を増やしてくるとはな」
「言ったじゃないですか。仲間に入れれば儲けさせるって」
(これはとんだ良い拾い物をしたかもしれんな。オリバーの坊ちゃんに売り飛ばさなくて正解だった)
オランジュはシャルが条件を達成出来ないと思いつつも、時間一杯は待とうとする程度には慎重な男である。
「それで?おれは仲間に入れてもらえるんですか?」
「ああ。今日からお前はファミリーだ。しっかり儲けさせてくれよ」
「分かりました。宜しくお願いします」
(何がファミリーだ!俺をオリバーに売ろうとしてくせに!さっさとこの街を抜け出してウィル達に合流しないと)
最大の難関を突破したシャルは、安堵のため息を吐きながらも、次はどうやってこの街を脱出するか考え始めた。
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まだまだ拙い文章ですが、これからもっと上手い文章を書けるように努力していくので、応援宜しくお願いします。




