第2話
翌朝、松田は自室のベッドで目覚める。
隣には裸のキリコが眠っていた。
その横顔を眺める松田は記憶を遡る。
(ああ、そうだ。いきなり殺されかけたと思ったら、一時間だけ言うことを聞くって言われて、それで俺は……)
ぱちりと目を開けたキリコが松田を見た。
キリコは松田の胸板に頭を押し付けて挨拶をする。
「おはよ、松田さん」
「えっ、ああ……おはよう」
「昨日は激しかったね。たまってたの?」
「いや、その、まあ……」
「別に照れなくていいのに。一時間は好き放題にしていいってルールなんだから」
ベッドから出たキリコは、エアコンのリモコンを手に取って室温を調整する。
彼女の裸体に目を奪われていた松田は我に返り、視線をそらしつつ尋ねた。
「あの、今日も俺を殺そうとするのか?」
「今日の分はもう終わってるから明日だよ。時間は内緒ね」
「そうか……」
考え込む松田であったが、スマートフォンで時間を確認した途端にひっくり返る。
彼は大急ぎでベッドを飛び出して洗面所へ向かった。
「やばい、遅刻だっ!」
「朝ごはんは?」
「俺はいらない! 欲しいなら勝手に食べていいから!」
「はーい」
五分ほどで身支度を整えた松田は、合鍵をキリコに渡して玄関へ走る。
彼は革靴を履くのに苦戦しながら声を上げる。
「じゃあ行ってくる!」
「あっ、ちょっと待って」
駆け寄ったキリコが松田の頬にキスをする。
キリコは上目遣いで告げた。
「これはサービスね」
「あ、ありがとう……」
赤面した松田は逃げるように出勤した。
◆
午後十一時五十五分。
残業を終えた松田は、自宅近辺の住宅街にいた。
静かな道を彼は歩いていく。
(なんか、いつもより疲れてないな。あの娘と寝たおかげか?)
信号待ちの途中、松田はスマートフォンを見る。
ちょうど日付が変わったところだった。
青信号になり、松田はまた歩き出す。
(コンビニで何か買って帰るか……)
その時、右方からけたたましいクラクションが鳴り響く。
松田は怪訝そうに音の方角を見てぎょっとする。
猛スピードで迫るのは一台の軽自動車だった。
運転席には狂気的な笑みを浮かべたキリコが乗っていた。




