京君の暗く鋭い目が…
彩葉 … 気比 彩葉 三中2年1組 バスケ部
仁保 … 仁保 吉継 三中2年1組 コンピュータ好き 帰宅部
千里 … 松原 千里 三中2年1組 帰宅部
和歌 … 野坂 和歌子 三中2年1組 帰宅部
代田先生 … 代田 神楽 2年1組担任
奥山 … 奥山 呉羽 三中2年3組 殺されてしまう
京 … 京 東洋 三中2年4組 奥山の友達
(5)尾行
「みなさん、奥山君を殺してしまった犯人は、電気屋さんだったのです。」
敦賀三中、緊急全校集会での校長先生の話である。
「本人は否定していますが、物的証拠がそろったということで、先日、逮捕・起訴されました。一旦保釈されましたが、今後は、裁判で犯行が明らかになるでしょう。」
事件についての報告であった。うわさを耳にしている何人もの生徒は、首をかしげている。本当に電気屋さんなのか…。
仁保も、校長先生の話を聞きながら、京のあの暗く鋭い目の光を思い出していた。仁保は、そっと京の姿を探した。2年4組…。いたっ。
京は、眠っているのか、顔を伏せている。せめて横顔でも、と見つめていると、ふいに京が顔を上げた。無表情…。そんな横顔だった。その時、突然、京がこちらに顔を向けた。
(ハッ!)
仁保は京と目が合ってしまった。一瞬だったが、またあの暗く鋭い目の光を感じた。仁保の方が、目をそらした。
(おかしい…。普通の中学生が、あんな目をするのか? 何か知ってるはず…。よし!)
仁保は心に決めた。
(京の後をつけてやる。)
京の行動から、何かがつかめるはずだ。京の家は、同じ小学校出身だから知ってはいる。しかし、電気屋さんが逮捕されたことを知った日に、京は何か動くだろうか…。
仁保はいつもは3時50分きっかりに下校する。早く家に帰ってネットで動画を見るのが、毎日の楽しみなのだ。ところが、今日に限って、仁保は2年1組の入り口で立ち止まっている。
「仁保君、じゃあね。」
「仁保君、さよなら!」
和歌と千里が帰っていった。彩葉は部活動に急ぐ。
「仁保、さよ~なら!」
「ん? あぁ、さいなら…。」
生返事の仁保は、さっきから一点を見つめているようだった。
「仁保君、さよなら? ん? どうかしたのかな?」
さすがの代田先生も、今日の仁保には、何かピンときたようだ。
「仁保君、腹でも痛いのかな?」
残念、代田先生の直感は、空振りだった。
「お大事に~。」
その時だった。仁保の見つめる一点に、動きがあった。京が教室を出たのだ。
「…ょっし!」
何かを心に決めたように、仁保が鋭く息をはいた。素早く自転車小屋へ向かう。
ほどなくして、京が2年4組の自転車小屋に現れた。京は自転車に乗ると、敦賀の町へと走り出した。
(やっぱり! 家の方向じゃない!)
仁保は、京の100mほど後ろから自転車を走らせている。向かっているその方向は、京や仁保の住む地域とは逆の方向だった。
そして、京が次に曲がったのは、電気屋へ向かう角だった。逮捕・起訴され裁判を待つ、例の電気屋だ。
京の自転車が止まった。電気屋にほど近い、小さな公園だった。京が自転車を降りた。公園に自転車を置いて、京が歩き出した。
仁保は、そこから少し離れた商店の物陰に自転車を停めた。京から50mほど離れてついて行く。京はまっすぐに電気屋へと向かっているようだった。
その時だった。京がふいに、横道にそれた。電気屋の手前20mほどの地点。細い路地へと姿を消したのだ。
仁保は思わず走った。その路地への入り口で、角から素早く目を走らせた。京の姿は、すでに消えていた。
(しまった。気づかれたのか?)
その後、しばらく近くを探してみたが、京の姿はなかった。仁保は、仕方なく家に帰った。
ところが、その夜、家に帰った仁保は驚くことになる。両親から、電気屋で火事があったと聞かされた。
(あの後、火事? オレはすぐ近くにいたのに…。そういえば、やたらに消防車が走っていた。知らずに帰ってきていたのか!)
両親の話は、こうだった。今日、夕方、電気屋で火の手が上がった。電気店は全焼。焼け跡からは、電気屋のご主人の遺体が出てきた。裁判になるのを苦にしたご主人が、自殺を図ったのではないか、といううわさだそうだ。
仁保は、あのとき京を見失ったことを後悔した。
京が、火事を…? いや…、そんなはずはない。まさか、京がそんなことをするとは思えない…。もしかして真犯人が火をつけたのかも…。でも、京が真犯人なら、人を殺しているということ…。ならば、火をつけるようなこともしなくはない…?
電気屋さんのご主人が亡くなったということは、奥山を殺した犯人探しは、終わるということなのか…。いや、これで終わらせてはいけない! おそらく電気屋さんは犯人ではない。真犯人はきっとどこかにいるはずだ!
仁保は、ひそかに心に決めていた。必ず、真犯人を捜し出してみせると。
三中殺人事件は、新たな展開を迎える。




