すべてはあなたの…
仁保 … 仁保 吉継 三中2年1組 コンピュータ好き
代田先生 … 代田 神楽 2年1組担任 推理好き
常先生 … 常 永大 2年2組担任 体育教師 バスケ部顧問
(12)常先生
黒く焼け焦げたホイッスル。
仁保の手に、そのホイッスルがあった。
(これを持って、常先生を問い詰めれば…。この動かぬ証拠があれば、おそらく…。いやダメだ。まだ弱い…。もう一つ、何かが必要だ…。何かが…。)
仁保は、どうにかしてあの火事の犯人、つまり電気屋さんを殺した犯人であり、奥山を殺した真犯人を洗い出そうとしていた。おそらくそれは常先生だ。しかし、ホイッスルだけでは追いつめることはできない。
もう一つ、動かぬ証拠が必要だった。
「防犯カメラには常先生の車が映っていた…。そうか! それだ!」
あの防犯カメラ映像を突き付ければ、言い逃れはできないはずだ!
仁保は再び警備会社のホームページから、車が映っている映像を開いていた。パソコン上の映像をダウンロードし、スマホへと転送する。
(よ~し、これで証拠はそろった。)
1月下旬。夜。金ヶ崎緑地公園。
レトロな外灯がそこかしこに灯り、緑地を照らし出す。クリスマスの頃は数万個のLEDが並び、カラフルな光を灯すイルミネーションが輝いていたが、それもひと月前の話だ。今は、数本の樹木が少しのLEDで灯されているだけだった。
真冬の夜の公園には、誰もいなかった。
仁保は常先生を呼び出していた。
「先生、こんばんは。夜にお呼びたてしてすみません。ちょっとお話がありまして…。」
仁保が静かに切り出した。
「うん。どうしたんだい。話って何かな?」
常先生は、教え子の呼び出しに面くらっている様子だ。
「実は、こんなものを拾いまして…。」
仁保が差し出したのは、例のホイッスルだった。真っ黒に焼け焦げている。仁保はホイッスルを載せた手を差し伸べながら、常先生の反応を観察している。
「…っ!」
声にならない声がのどにつまっている。常先生の顔の色が変わるのが、薄明りの中でも分かる。
「き、君! そ、それは…。い、一体どこで…、それを…。」
「先生はこれをご存知ですね? これは、ある場所で拾ったのです。どこだと思いますか?」
「えっ? そ、そんなこと、私は…、分からないな。どこなんだい?」
開き直ったのか、どうにか声を落ち着かせようとしているようだ。
「あれっ? 先生ならご存知だと思ったのですが? 例の電気屋さんですよ。火事の後の現場で、たまたま拾ったんですよ。」
「そ、そうなんだ…。それで…?」
あせりを、必死でこらえているように見える。
「それでって? 何をおっしゃるんですか? おかしいな~。火事の現場でお会いしたじゃないですか?」
「なっ、何を言っているんだ? 私は君に、そんなところで会ったことはない!」
(しらばっくれるおつもりなのかな? 逃がしはしませんよ…。)
「あの時は痛かったな~。死ぬかと思いましたよ、先生。」
「…っ!」
「その後、僕のポケットから消えてなくなっていたんですよ、このホイッスル。」
常先生の顔色が徐々に青ざめていく。
「一体誰だったのでしょうね? でも僕は見つけたんです、これ。どこにあったと思います?」
「さ、さぁ…。」
「あれ~、これは、確か常先生の机の引き出しにあったんですけどね~。なぜ、そんなところにあったのでしょう? ね、先生。」
「くっ、な、なぜなんだろう…。私には分からない…。」
「先生、しらばっくれては困りますよ~。このホイッスルは、先生、あなたの持ち物だ。そして、先生のホイッスルが火事現場にあったということは、あの火事は先生が関係しているのではないですか?」
「…っ、い、いや、私は何もしていない! 何の関係もない! あるはずないじゃないか!」
声が上ずっている。
「そうですか~。ではこれを見ていただきましょうか。」
仁保が次に手に取ったのは、スマホだ。スマホの画面には動画が映し出されている。
常先生にも見えるよう近づき、動画をスタートさせた。
画面には、大人と分かる人物が中学生ぐらいの人物を殴る場面。倒れた人物の服から何かを探る場面。そして、人物が停めてあった車に乗り込む場面へと移る。車はランドクルーザーらしい形をしている。そして車のナンバープレートが拡大され、モノクロの陰影はかすかだが、その数字が見えている。2・6・0・1。
常先生が息を飲むのが分かる。仁保は常先生の表情の変化も見逃さない。
「これは例の火事現場のあの時の映像です。殴られたのは僕。そして殴った人物が載っていた車のナンバーは2601。」
先生の息が荒い。
「…フ~、ハ~、フ~…。」
「先生の車のナンバーも、なぜか2601。これは、どういうことなのでしょう? 先生?」
「くそっ! あの時のっ! お前だったのかっ!」
突然、先生が殴り掛かってきた!
その時だった! 殴ろうと振り上げた常先生の右手が、何者かに掴まれ動かなくなった。
「うっ…。何っ?」
振り返った先生の目に、右腕を掴む代田先生の姿が飛び込んだ。
「代田先生…。どうして…。」
「常先生、すべて聞かせてもらいましたよ…。」
常先生を呼び出す前に、代田先生にも呼び掛けておいた。仁保の胸には通信器が仕込んであり、代田先生が受信し録音していたのだ。こうなるだろうことは予想できていた。
オレは、常先生に静かに語り掛けた。
「先生、もうあきらめてください。すべてはあなたのしでかしたことだったのでしょう…。」
常先生がガックリと膝を落とした。
代田先生が背中に手を添え、問いただすように尋ねた。
「火事を起こしたのは先生だったのですね? その証拠品のホイッスルを奪い取ろうとして、仁保君を殴ったのでしょう。」
常先生は動かない。
「でも、なぜあなたが電気屋さんを殺すなんてことを…?」
常先生が顔を上げた。
「わ、私は、お、脅されて…。どうしても、やらなければ…。」
二人で顔を見合わせる。
「えっ? 脅されて…?」
「どういうこと? 一体誰に…?。」
ここに来て、脅されてとは…? どういうことだ? 誰が常先生を…? そして一体なぜ…?
三中殺人事件は、いよいよ混迷の中へ?




