表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱冒険者は、あの背中に手を伸ばしたい  作者: あっかんべー
第一章:最弱冒険者の再出発

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/25

第5話「炎と影、不格好な連携」

E層に入った瞬間から、空気がぎこちなかった。


蒼汰と桜花は並んで歩いていたが、お互いほとんど話していない。

悠がいないと、こんなに無言が続くとは思わなかった。

蒼汰が「今日はよろしくお願いします」と言ったら、桜花は「うん」とだけ返した。それきりだ。


(苦手なのかな、俺)


そんなことを考えながら歩いていたら、最初のガズを見つけた。


通路の交差点に2体。

個体名のついていない雑兵タイプだ。

蒼汰は咄嗟とっさに立ち止まって桜花に目で合図を送った。

桜花がわずかに頷く。


蒼汰が先に動いた。走り込んで、床に伸びるガズの影に向けて叫ぶ。


「《影縫い》!」


1体の動きが止まる。3秒。


桜花が後ろから炎拳を放った。


――が、そこで問題が起きた。


炎が床に着弾した瞬間、熱波が広がって、蒼汰が縫い止めていたガズの「影」がゆらいだ。炎の光が影の形を変えてしまったのだ。影縫いの固定が、2秒で解けた。


ガズが動き出して、蒼汰の肩口を爪で引っ掻く。


「痛っ……!」


「なにやってんの、固定してよ」と桜花が言った。


「炎で影が消えたんです!」


桜花は少し眉をひそめた。

それから何かを考える顔をした。


(炎の光で影が乱れた。そうか、光源が増えると影の形が変わる。基本的なことだ。俺が気づくべきだった)


悔しいが反省は後だ。

蒼汰は肩の傷を無視して体勢を立て直し、もう1体のガズに向き直った。



2体目、3体目と倒していくにつれて、問題は明確になってきた。


桜花の《炎拳》は強い。

直撃すればガズ程度なら一撃で仕留められる。

でも近距離でしか使えない。

桜花自身が前に出るか、相手をおびき寄せるかしなければならない。


一方で蒼汰の影縫いは、「影と影が接触する距離」でしか発動できない。

つまり二人とも近距離型だ。


(遠距離支援の悠がいないと、こんなに前が詰まるのか)


4体目を倒した後、桜花が立ち止まった。


「このやり方、効率が悪い」


「……ですね」


「あんたの影縫い、距離はどのくらいまで届く?」


「自分の影と相手の影が繋がれば、だいたい2〜3メートルくらいまでは」


桜花はしばらく黙って考えていた。

蒼汰も考えた。


(炎の光が邪魔になる。でも逆に言えば、炎がない方向に影は伸びる)


(光源と反対側に、影は長くなる)


「橘さん」と蒼汰は言った。

「炎を横から当ててもらえますか。正面じゃなくて、右か左から」


「なんで?」


「炎の光が横から来れば、モンスターの影は反対側、つまり俺の方向に伸びます。そこを縫えば固定時間が延びる」


桜花は一瞬目を細めた。

値踏みするような目ではなく、今度は少し違う、何かを確かめるような目だった。


「……やってみる」



5体目で試した。


ガズが一体、通路の中央に現れた。個体名「ガズ・ナル」、一般的な戦闘型だ。


桜花がガズの右側から回り込んで、手のひらに炎を灯す。


「《炎拳》!」


直撃ではなく、わざと右側の壁に向けて炎を当てた。

ぱっと光が広がって、ガズの影が左側に長く伸びる。蒼汰のいる方向に。


「《影縫い》!!」


影を踏んだ瞬間、縫い付ける。

ガズが動きを封じられる。


今度は3秒、きっちり止まった。


桜花が踏み込んで核を一撃で砕く。

ガズが光の粒子になって消える。


静寂。


炎が影を作り、影が動きを縫い止め、炎が仕留める。

蒼汰と桜花の技が、初めて、きれいに噛み合った。


蒼汰は思わず「やった!」と呟いた。


桜花は何も言わなかった。

ただ、次のガズを探すように顔を上げた。

その横顔に、ほんのわずかだけ、口の端が動いた。


(笑った? 今、笑ったか?)


(……気のせいかな?)



残り10体は、新しい連携で一気に進んだ。


途中、群れの中に見慣れない個体が混じっていた。

通常のガズより細身で、動きが素早い。

右手に短い骨製の槍を持っている。

群れの中で斥候せっこう役を担う「ガズ二番槍ニバリ」だ。機動力が高く、単体での討伐難度はEランク中位に相当する。


ニバリが蒼汰に向かって槍を突き出した。

速い。昨日のガズ長オヤジの突進よりも速い。


蒼汰は避けきれなかった。


だが。


ニバリの槍が蒼汰の脇腹をかすめる、

その一瞬前、桜花の手が蒼汰の肩を引っ張った。

ぐっと後方に引き倒すような力で。

蒼汰はバランスを崩しながら後退して、槍の先が空を切った。


そのまま桜花がニバリの懐に飛び込む。


炎拳えんけん!」


至近距離での一撃。

ニバリが吹き飛んで、核が砕ける。


蒼汰は尻もちをついた状態で、桜花の背中を見た。


(……今、俺を引っ張ったのか)


(咄嗟に、庇ってくれたのか)


桜花は振り返らなかった。

手についたすすを払って、何事もなかったように次を探している。


「ありがとうございます」と蒼汰は言った。


「別に」と桜花は言った。


「またですね、その返事」


桜花が少しだけ振り返った。

眉が少し上がっている。


「なにが?」


「昨日も『別に』って言ってたじゃないですか。ありがとうって言ったら」


「……気にしなくていい」


「気になります」


(言ってから、余計なことを言ったかなと思った。でも桜花は怒らなかった)


ただ、またそっぽを向いて、小さな声で、


「……次、行くよ」


とだけ言った。


(耳が、また赤い気がする)


(今度こそ気のせいじゃないと思うけど、多分言ったら怒られる)


蒼汰は立ち上がって、桜花の隣に並んだ。


依頼票のガズ討伐数、残り5体。


二人の影が、壁の魔石光に照らされて並んで伸びていた。炎の橙と、暗がりの黒と。


(不格好だけど)


(悪くない)



依頼達成後、二人で協会の受付に報告書を提出した。


窓口で並んで立って、朝倉さんに二人分の判子を押してもらった。

報酬は二人合計で7500円。

蒼汰の取り分は3750円。昨日より圧倒的にいい。


帰り際、自動ドアの前で桜花が立ち止まった。


「連携、悪くなかった」


ぼそっと、前を向いたままそれだけ言った。


蒼汰は少し驚いてから、「ありがとうございます」と言った。


「だからそれを言うな」と桜花は言って、先に外へ出た。


(照れてる? 絶対照れてるよな)


(……でも指摘したら怒られる。黙っておこう)


蒼汰は苦笑して、自動ドアをくぐった。


秋の夕方の空に、二人の影が長く伸びた。

さっきまでダンジョンの中にいたのが嘘みたいに、普通の街の普通の夕暮れだった。


蒼汰はふと思った。


(炎があるから、影が伸びる)


(橘さんと一緒にいると、俺の《影縫い》がもっと遠くまで届く気がする)


根拠はない。でも確信があった。


――それはきっと、スキルの話だけじゃなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ