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最弱冒険者は、あの背中に手を伸ばしたい  作者: あっかんべー
第一章:最弱冒険者の再出発

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閑話2「光刃《こうじん》の意味を、俺はまだ知らなかった」― 黒瀬慧の過去

黒瀬慧は、生まれたときから「できる子」だった。


勉強は学年トップ。運動神経も良い。

人の顔色も読める。

何をやっても一定以上の結果が出た。

褒められることに慣れていたし、期待されることにも慣れていた。


だから、冒険者になることも、当然のように決まっていた。


(父親の後を継ぐ。それが黒瀬家の長男の役目だ)


黒瀬統哉くろせとうやはAランク冒険者だ。

業界では名の知れた実力者で、テレビに出たこともある。

自慢の父親だった。同時に、慧にとっては「超えなければならない壁」でもあった。


覚醒試験の前夜、父は慧の肩に手を置いてこう言った。


「お前なら必ずいいスキルが出る。黒瀬の血だからな」


(その言葉が、プレッシャーにしかならなかったことを、父はわかっていたのだろうか)


覚醒試験の当日、慧のスキルは《光刃》だった。


光属性の攻撃系スキル。

希少性が高く、速度に特化した斬撃を放てる。

試験官が「これは優秀だ」と言った。

周りが「さすが黒瀬」と言った。


慧は「ありがとうございます」と答えた。


(嬉しかった。それは本当だ)


(でも同時に、少し怖かった)


期待に応えたことへの安堵と、「これで当たり前だ」と思われることへの疲れが、ほぼ同時に来た。慧は自分がそういう人間だと知っていた。

結果を出しても、次の期待が上書きされるだけだ。ゴールがない。


そのとき、隣の列で少し騒ぎがあった。


「影を3秒固定? 欠陥じゃない?」


振り返ると、黒髪の癖毛の男が診断書を見つめていた。

夜霧蒼汰という名前は、確か席順が近かったので知っていた。

嘲笑を受けながら、怒るでも言い返すでもなく、ただ書かれた文字を見つめていた。


(笑われてる。でもあいつは、笑い返していない)


慧は自分が《光刃》だと分かったとき、どんな顔をしていたか、そのとき初めて考えた。多分、安堵の顔だった。

喜びじゃなく、安堵。

「良かった、期待を裏切らなかった」という顔。


(俺は、自分のスキルを好きだと思ったことが一度もない)


夜霧蒼汰は、診断書を胸に抱えて黙っていた。

その横顔には、悔しさと、それ以上に何か別のものがあった。


(何を見ていたんだ、あいつは)


数週間後、慧はEランクに昇格した。父は「当然だ」と言った。


慧は「はい」と答えた。


その夜、慧は自室で《光刃》を一人で発動した。指先から光の刃が伸びる。

鋭い。速い。きれいだ。

だが慧は、それを見ながら思った。

―― 俺は、このスキルで何がしたいんだろう。


答えは出なかった。


翌日、協会のロビーで夜霧蒼汰を見かけた。

報告書に書かれた討伐数は「1体」だった。Fランク。最底辺。でもあいつの目は、昨日より少し違った。


慧は思わず声をかけた。


「使い方次第、かもな」


蒼汰が意外そうな顔をした。

慧は自分でも驚いた。

そんなことを言うつもりじゃなかった。


(俺はあいつに言ったんじゃない)


(俺自身に、言ったのかもしれない)


《光刃》の使い方も、慧はまだ本当の意味では知らなかった。

父の期待に応えるためじゃない、自分だけの使い方を。


黒瀬慧が「自分の答え」を見つけるのは、もう少し先の話だ。

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