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最弱冒険者は、あの背中に手を伸ばしたい  作者: あっかんべー
第一章:最弱冒険者の再出発

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閑話1「あいつのことが、心配なわけじゃない」― 野本悠の独り言

悠は協会の自販機の前で、缶コーヒーを買うかどうか三分迷った末に買わなかった。財布の中身は今月も豊かではない。


代わりに水を買って、ロビーの隅に立って飲んだ。


(蒼汰のやつ、今日はもう来てるかな)


昨日、あいつの目を見て驚いた。

いつもの暗い目じゃなかった。

何か刺さったものがある目だった。

ああいう目をしてる人間は、たいてい何か変わる前兆だ。

悠はそれを、自分の経験から知っていた。


蒼汰と知り合ったのは覚醒試験の日だ。


悠がスキルを発動させた瞬間、隣にいた背の低い男がぽつりと呟いた。


「きれいだな、その風」


悠のスキル《風刃》が初めて出たときのことだ。

刃のような風が発生して、正直うまくコントロールできなかった。

試験官に「もう少し絞れ」と言われたくらいだ。

なのにそいつは「きれいだな」と言った。


悠は少しだけ嬉しかった。


それが夜霧蒼汰で、直後に本人のスキルが発動して「影を3秒固定? 欠陥じゃない?」と周りが笑い始めた。

蒼汰は笑われている間、ずっと自分のスキル診断書を見つめていた。

悔しがるでも泣くでもなく、ただ静かに見ていた。


(なんか、気になる奴だと思った。それだけだ)


悠は水を一口飲んだ。


(心配してるわけじゃない)


(ただ、あいつが「俺のスキルの可能性は俺が証明する」みたいなことを言うとは思わなかっただけで)


昨日、協会からの帰り道に蒼汰から報告を受けた。

朝倉さんに「判定不能」と言われたこと、それでも続けると答えたこと。


悠は「ふーん」と言った。


内心では、胸のあたりが少しだけあたたかくなった。

それには気づかないふりをした。



悠のスキル《風刃》は、正直そこまで特別じゃない。

風属性の攻撃系スキルは持っている冒険者が多いし、悠のそれは特に威力が高いわけでも、射程が長いわけでもない。「平均的な支援型」と協会のランク評価票には書かれていた。


だから悠はわかる。


「普通」と言われることの、じわじわした重さが。


(蒼汰は欠陥と言われてた。私は平均と言われた。どっちがましかなんてわからない)


でも蒼汰は、諦めなかった。


悠はそれが、なんとなく羨ましかった。

自分には「諦めない理由」がまだ、霧島澪みたいな形で現れていないから。


(いつか私にも、そういう出会いがあるのかな)


そんなことを考えていたら、ガラス戸が開いて蒼汰が入ってきた。

眠そうな顔で、でも昨日よりちょっと背筋が伸びている気がした。


悠は何も言わずに蒼汰の隣に並んで、依頼ボードに目を向けた。


「今日も潜るの?」


「うん」と蒼汰は答えた。


「一緒に行く」と悠は言った。


「え、いいの?」


「暇だから」


(暇じゃないけど)


(まあ、今日くらいは、いいか)


悠は依頼ボードから「E層・ゴブリン(ガズ)討伐×10体」の依頼票を引き抜いて蒼汰に差し出した。蒼汰は一瞬驚いた顔をして、それから「ありがとう」と静かに言った。


その「ありがとう」が、少し照れくさかった。


(別に、心配してるわけじゃない。本当に)


でも悠の足は、蒼汰と並んで出口に向かっていた。


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