表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱冒険者は、あの背中に手を伸ばしたい  作者: あっかんべー
第一章:最弱冒険者の再出発

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/25

第19話「Eランク昇格試験・再挑戦。《影鎖》で合格」

再試験の朝、蒼汰は五時に目が覚めた。


別に緊張していたわけではない。

たぶん。ただ、眠れなくなっただけだ。


(嘘だ。緊張してる)


布団の中で天井を見ながら、今日やることを頭の中で整理した。


ミドロ討伐。いつも通り。問題なし。


ガズ討伐。いつも通り。問題なし。


ダクロ討伐。今日は違う方法でやる。


(「五点縛り」。ダクロの四肢と尾を、影鎖で同時に縛り上げる)


先週から毎日練習してきたことだ。

影鎖を五本同時に操作する。

それぞれを別の標的に向ける。

今はまだ五本同時は難しく、四本が限界だが、ダクロの場合は尾さえ封じれば毒液の脅威が消える。四肢のうち前足二本と尾の三本縛りでも十分なはずだ。


(魔力管理は徹底する。今日は試験前に一切スキルを使わない。朝の訓練も槙さんに体術だけにしてもらった)


六時に起きて、軽く体を動かした。

コーヒーを一杯飲んで、装備を確認した。


協会に向かう途中、スマホに悠からメッセージが来た。


「今日、再試験だっけ。まあ頑張れば」


(「まあ頑張れば」。悠の応援の言葉だ。これでいい)


蒼汰は「行ってきます」と返した。



試験官はまた瀬戸晴彦だった。


顔を見た瞬間、蒼汰は少しだけ身が引き締まった。

前回失格にした人物だ。

でも今回は違う。

今回は準備がある。


「夜霧蒼汰。再試験だな」と瀬戸は言った。

表情は前回と変わらない。

無表情。淡々としている。


「はい。よろしくお願いします」


「同じ内容だ。三種討伐、単独。始める」



ミドロは三十秒で終わった。


影を縫い止めて、核を砕く。

体の動きに無駄がなくなっていた。

一ヶ月前の蒼汰と今の蒼汰は、同じスキルを使っていても、別人のように動いていた。


瀬戸は何も言わなかった。

記録板に書き込んだだけだ。


ガズ・ソムは少し手間取った。

素早い個体で、一度《影縫い》が外れた。

でも焦らなかった。

外れたならもう一度。

クールタイム五秒の間、距離を保って様子を見て、次の発動で確実に捉えた。


瀬戸が「二体目」と記録した。


(魔力残量……まだ八割以上ある。問題ない)


D区画の境目に来た。


ダクロはすぐに見つかった。

壁際に張り付いて、鉄色の鱗を光に光らせている。

前回と同じ個体かどうかはわからないが、サイズは似ている。


蒼汰は立ち止まって、息を整えた。


(今日は、最初から影鎖を使う。先手を取る。ダクロが動く前に、縛り上げる)


(距離は五メートル。影鎖の射程は今の俺で最大二メートル少し。届かない。だから近づく必要がある)


(近づく過程で毒液を飛ばしてくる可能性がある。そこが一番のリスクだ)


蒼汰は右手に意識を集めた。

影鎖を「準備状態」にする。

発動はまだしない。

ただ、いつでも出せる状態にしておく。


一歩、二歩と近づいた。


ダクロが気配を感知した。

頭がこちらを向く。

尾が揺れ始める。


三歩目を踏み込んだ瞬間、ダクロが尾を振った。毒液が飛ぶ。


蒼汰は右に跳んで避けた。

前回と同じ動きだ。でも着地の瞬間が違う。


着地と同時に、右手から影鎖を放った。


「《影縫い》――《影鎖》、三本!!」


影鎖が三本、同時に伸びた。


一本目がダクロの右前足に巻きつく。

二本目が左前足を捉える。

三本目が尾の根元を縛り上げた。


ダクロの動きが、止まった。

四肢のうち前足二本と尾が封じられ、体勢が崩れた。

横に倒れかけながら、後ろ足だけで踏み留まっている。


三秒。


蒼汰は踏み込んだ。今度は迷わない。

ダクロの首の根元、鱗の継ぎ目。

前回覚えた場所に、短剣を一直線に突き込んだ。


核に、届いた。


ダクロが光の粒子になって消えた。


影鎖が霧散した。


静寂。


蒼汰は息を吐いた。

膝が震えていなかった。

腕も震えていなかった。


(……やった)


(魔力残量……六割弱。問題ない。十分余っている)


後ろから瀬戸の足音がした。


瀬戸は記録板をしばらく見ていた。

それから、ペンを取って何かを書いた。


「三体目、討伐確認」と瀬戸は言った。

少し間を置いて、「魔力管理、問題なし。判定――」


(来る)


「合格」


たった一言だった。


蒼汰は「はい!」と答えた。

それだけだった。


跳び上がって喜ぶとか、声を上げるとか、そういうことはしなかった。

ただ、胸の奥にじわりと熱いものが広がって、それがしばらく消えなかった。


(Eランク。なった…!)


(まだFランクからEランクになっただけだ。でも、一段上がった)



出口に向かって歩きながら、瀬戸が後ろから言った。


「影鎖を三本同時に操作していたな」


「はい。今週練習してきました」


「先週は一本すら使えなかったはずだが」


「先週の試験中に、初めて出てきたスキルで」


瀬戸は少し黙った。

それから、「一週間で三本同時操作まで持っていったのか」と言った。


「槙さんに指導してもらいました」


「神楽か」と瀬戸は言って、それきり黙った。


出口の階段を上がりながら、蒼汰は少し振り返った。

瀬戸は記録板を見ながら歩いていた。

無表情だが、どこか満足そうな、そんな気がした。

気のせいかもしれない。


(瀬戸さんは、昔の槙さんの仲間だ。槙さんをADRの前で待っていた。今は試験官をしている。この人も、誰かに拾われた人なのかもしれない)


地上に出た。


秋の昼の空気。少し風がある。


蒼汰はスマホを出して、悠にメッセージを送った。


「合格した」


すぐに返信が来た。


「そう。よかったじゃん」


それだけだった。

でも十秒後にもう一件来た。


「お祝いにご飯おごってあげてもいいよ?」


(どっちが奢るんだ)


蒼汰は思わず笑った。


次に槙にメッセージを送ろうとして、やめた。

直接言った方がいい気がした。

明日の朝の訓練のときに、直接報告しよう。


(槙さん、合格しました。って言ったら何て言うだろう)


(「当然だ」か、「悪くない」か、それとも「次の課題を教えてやる」か)


(どれでもいい。どれでも、嬉しい気がする)


協会に向かって歩き出した。

Eランクの登録手続きがある。

カードの更新もある。


やることが、また増えた。


(次はDランク。その次はCランク。Cランクに上がれば、霧島さんがいる層に入れる)


(まだ遠い。ずっと遠い。でも今日、一歩進んだ)


空が高かった。

秋の青い空に、蒼汰の影が地面に伸びていた。


影の端が、かすかに揺れた。


まるで「よくやった」と言うように。

面白いと思ったら、コメント、フォロー、評価をお願いいたします!

とても、励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ