第64話 M28:演奏会 Concerto
「演奏会?」
「ええ、フュルベール師匠から強く勧められました。そろそろ個人でも演奏会をする時期だと……」ポロロン♪
「お茶を用意しました」
「執事さん、ありがとうです」
相変わらず執事さんの淹れるお茶は美味しい。
「今耳にしたのですが、ジョルジュさまが演奏会を開くとか」
「ええ、師匠から勧められました。小拙には、まだ早いと思うのですが……」
「頑張ってやってみればいいのに。折角のチャンスだよ」
「我が主人、ルノー・ド・モントーバンさまからも、ジョルジュさまの演奏会には協力するよう申し付かっております」
「そこまで言われては、やらない訳にはいきませんな」ポロロン♪
「早速、みんなに連絡しなきゃね」
ということで、ジョルジュくんの演奏会をすることになった。
いや、最初は顔見知りだけで竪琴を聞くために集まるつもりだったのだが、フュルベールさんの強い勧めにより演奏会となった。
ルノー師匠の処からも資金が出ているらしい。
ジョルジュくんのお披露目式と言った処じゃないかな? 人気出るといいな。
建国2年渦月21日(21/Spirale/Auc.02)第六昼刻
演奏会の場所は、酒場でもある小夜啼鳥
結構な高級店らしい。建物も内装も立派だ。
「いらっしゃいませ」
入店した途端、店の人に声を掛けられる。
「あの、演奏会に招待されているのですが……」
「結月琴音さまですね。ご案内します」
招待客はフリーパスだったけど、入場料のお値段もなかなからしい。
「ことね! 来たな」
「遅いわよ!」
「みんな早いね」
「楽しみじゃからのぅ」
知り合いが揃ったみたいだ。
エド、はるっち、サブ、いつものメンバーに信越さん、カタケルススさんも居る。
席も舞台に近い良い場所だ。
第六昼刻の終わりから第一夜刻にかけて、薄い日の光と魔法の灯の交錯する時に演奏会が始まる。
舞台に上がるジョルジュの姿は眩しい。
軽やかに弾かれる竪琴の糸と伸びのある高音が紡ぎ出す優雅な旋律に引き込まれる。
甘い溜息をつく
それはしばしば愛を与える
彼女は私に言う
あなたのたくさんの言葉は、とてもお気に入り
私は考えながら見つめる
あなたの中に優雅な姿がある
私が望んだとしても
露す術を知らない
避けてしまうとしても
あなたに向かい、否とは言わないい
そうして、私はいつもあなたを願う
細やかな好意を添えて
彼女は内に美しさが輝く
私は幾度となく我を忘れる
あなたを称賛し、請うときに
……
次々と繰り出される音と言の葉に気持ちが翻弄される。
増幅装置も踊りもレーザー光もない、純粋な芸だけの詠唱
古の “歌謡„ はこんなものだったろうか?
歌が強力な支援バフになることはよく理解できる。
カタケルススは、こう言う。
「冒険も悪くはないのですが、わたしは自分の生産したものがみんなに使って貰えるのが嬉しいのです。自分の作成した薬剤が最前線で使われているって、ワクワクしませんか?」
ジョルジュも、こんな感覚を持っているのだろうか?
最前線で戦闘しているプレイヤーなら支援の重要性は身に染みているだろう。
時が経つに従い、聴衆は増えて行く。
求めに応え、長い長い叙事詩を謡う。
世界の始まりから、続く歴史を語る。
天地定まる前
神々集い
行先を議る
ここに一人の神、示す
世界を創り、天と地を定め
火、水、地、風を基礎とし
気を隅々まで行き渡す
創造の神、一人の勇者を創り給う
勇者、世界を駆ける
世界の隅々まで、走破し、世界を確認する
神々、時を動かす
人々、世界に溢れ
道を拓き、町を造り、生活を営む
ここに悪神は、魔神、魔人、魔獣を世界に放つ
悪神の下僕たち、人々を襲う
……
世界が始まって嬉しい。
戦闘は楽しい。
友の退場は悲しい。
現実には勝てない。
様々な事をこなしながら、現実も仮想も先へと進む。
人は “生老病死„ を経糸に、 “喜怒哀楽„ を緯糸に過ぎて行く。
やがて竪琴《arpa》の音が止む。夢から醒める。
聴衆の拍手を浴び、少し恥ずかしそうに微笑むジョルジュ
良かったね。演奏会は成功だよ。
諦めなければ、君はきっと有名になる。
そして今日、彼に伝える言葉はひとつしかない。
「ありがとう」




