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―第97章― 目前に近づく私立入試の為の理恵の「緊密」

 死神は約束通り、千夏の寿命をまた1ヶ月と延ばした。

 あれほど心臓を打ち鳴らしたあの瞬間の記憶も、今では薄い膜の向こう側。

 勝利の喜びは日を追うごとに色褪せていく。

 2月5日、入試前日。

 私は千夏の病室にいた。

 排除することのできない緊張感を覆い隠すために、千夏の前で笑っていた。

「明日の面接、やりたくないな。明日だけ多重人格になって、私の中の別の誰かがやってくれたらいいのに」

 確実に現実にならない戯言を愚痴る。

 そう嫌だと吐き出すだけで、少し気が紛れる。

「それこそ、千夏とか絶対向いてるよ」

 大袈裟に溜め息をついて、千夏は私のことを絶対によく言ってくれるからと、その千夏が返してくれる言葉に期待をしてしまっている。

 利用している。

「え~、私は理恵みたく頭もよくないし、学校行ってないから学力ゼロだよ」

 おどけて笑う。

 私の邪な発言にすら、千夏は微笑みをくれる。

「いつも教科書見てて、色んな人に教えてもらっているから、ゼロではないと思うよ。それに、面接って学力はそれほど関係ないし」

「まあ、そうかもだけど、敬語使って生きてこなかったからね」

 千夏は、お見舞客が通っていく通路が見える窓枠を見つめていた。

「千夏には人を動かす力があるよ。勇気とか希望とか、人間性とか夢とか、普通の人が持ち得ないものを沢山持ってるよ。だから大丈夫」

 キョトンとした顔で、私の顔を見つめる。

 千夏には長い入院生活で得られなかった経験や見られなかったものが多くあっただろう。

 それでも、私にはその千夏が魅力的だった。

 だから大丈夫。

「そうなのかな。だといいけど」

 不安そうな眼差しを浮かべる千夏に私は大きく頷く。

 私はずっとそんな千夏に励まされてきたから。

 きっと、私達以外にも千夏を好きになってくれる人は沢山現れる。

「それを言ったら、理恵だって普通の人には持ってない物を沢山持ってるよ。頭の良さも努力できる心も、物事を客観的に判断して立ち向かえる力も」

 千夏の言葉は私を無意識のうちに照らしてしまう。

 そういうところだよ。

 ほんとに。


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