―第93章― 千夏が1月を生き永らえる為の死神の「躑躅」
会場の2人が躍動する。
1-8の7点差から巻き返し、6-8の5連続ポイント。
この調子で、勝ち切ってくれ。
拳を強く握って、祈りを込める。
しかし、点差が縮まったことで相手も焦り出したのか、鈴の得意のラリーで点を取られてしまう。
6-9。
相手はあと僅か2得点で勝利を掴む。
どうにか次の一点を取ってくれ。
固唾を呑んで、コートを見つめる。
理恵の正面の選手が鈴のコートを狙い、球を突き上げた。
ネットすれすれで、短めのサーブが来る。
鈴はコートに前のめりになって、ツッツキで球を相手コートの隅に返す。
いいコースだ。
相手選手も負けずに、その球めがけて走る。
ラケットが掠り、ギリギリで拾われたその球はセンターラインを越えて、少し高く上がった。
行ける。
理恵が手首を巧みに回して、得意のバックドライブをかけた。
コートの隅にバウンドする。
得点なるか。
しかし、瞬時にフォアで回り込まれ、再び相手の得点が追加された。
6-10.
あと1点。
たった一つのミスで全てが終わる。
「頑張れ。まだ行けるぞ!」
「取り返せ!」
背後から降り注ぐ隼人達の叫び声が鼓膜を激しく叩いた。
「フッ」
乾いた笑いが零れる。
自嘲か、それとも。
そうだ。
絶望の淵に立たされてなお、勝利の光はまだ潰えていない。
視界が異様なほどに冴え渡った。
まるで自分がコートを隔てているかのように、その場の温度感や相手の僅かな重心の移動、空気の震えすら、身体に伝わってくる。
停滞していた思考が沸騰した熱に塗り替えられていく。
俺はもうただの傍観者ではいられない。
俺だって、運命に抗うキーパーソンだ。
死神の職を捨てた今、残っているのは彼等だけ。
俺も、こうしちゃいられない。
すっと深く息を吸って、コートに鋭い眼光を向けた。




