―第86章― 千夏が1月を生き永らえる為の隼人の「静怖」
現在の得点は想空の4位200点と俺の1位500点、合計で700点。
現段階のチーム優勝はチーム3で、バドミントン1位、テニス2位の合計900点。
あと3競技残っている訳だし、優勝チームとの点差は200点で、逆転の可能性は十分にある。
「さて、次の競技は今大会一番得点重視率が高いリレーです。チーム5人でバトンを繋いで、一人200m、5人で1キロを走り切るというレース。この競技、一体勝利を掴み取るのはどのチームなのでしょうか」
会場を盛り上げるアナウンスが響き、選手としてスタート位置に着く。
スターターがピストルを振り上げた。
「オンエアマークス」
その瞬間、会場は幕に覆われたかのように静まり返り、ピストルの音に全ての視線が集中する。
「絶対、勝ち取ろうぜ」
飛鷹が挙げた雄叫びが耳元に蘇る。
俺達は5人で円陣を組んでからベンチを飛び出し、各々待機場所へと走った。
その時の一人一人の表情が脳内を駆け巡る。
いつもより一段と前のめりになって興奮気味の想空、今の状況を冷静に分析しようと理性的な目つきを浮かべた理恵、自分が足を引っ張ってしまわないか不安そうに眉を下ろす鈴、勝負に昂る飛鷹。
「セット」
銃弾が放たれて、空気が揺れた。
5人全員、千夏、死神さん、助手の西川さん、全てを背負って、俺は走り出す。
50mごとに配置された赤コーンを疾風の如く駆け抜けていく。
順調に足は加速し、トップで鈴にバトンを繋いだ。
微かにそのバトンを受け取った鈴の手は震えていた。
一拍置いて、足が繰り出される。
前へ前へと焦りのままに歩を進めるが、相手チームの背中が近づき、追い抜かされていく。
そのまま想空にバトンが渡り、呼吸を弾ませたまま前を走る人を追い抜かしていく。
その上に荘厳と立ちはだかる紺色の空は自らと天の遠さを窺わせた。
遠くたっていい。
遠くたって、俺達は越えて見せる。
どんなに危機的状況に追い込まれようとも、俺達は諦めない。
バトンは理恵へ、そして飛鷹へと流れていく。
「行け!」
第1走者の列にしゃがんだまま、大声を上げる。
抜け、飛鷹。
飛鷹は切り裂く刃の如くひっそりと距離を詰め、1人、また1人と追い抜かしていく。
まるで、風のようだ。
たった200mという距離の中で会場を揺らし、悠然と走り去る。
先頭を走る2人の腹によって、ゴールテープは切られた。
勝者はどっちだ。
手を当てなくても分かるほどに心臓の鼓動が大きくなっていた。
「1位、判定の結果チーム3」
アナウンスが会場に高々と響き渡り、力が抜けた。
あとほんの数秒。
あと少し早くバトンを繋げていたら、と無力感に苛まれる。
「この位の方が面白いだろ」
いつの間にか後ろにいた飛鷹が、俺の肩に手をのせて、ニヤついていた。
一番自己嫌悪に陥りやすいポジションであるアンカーの飛鷹がそう笑っているのだから、トップバッターで走った俺が落ち込んでどうする。
あともう少しで、勝てた僅かな差だろうと、結果は結果、2位は2位だ。
でも、まだ勝負は終わっていない。
「そうだな」
空いていた飛鷹の肩に寄り掛かって、口元を緩ませた。




