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85/99

―第85章― 千夏が1月を生き永らえる為の想空の「静憧」

 身体にはまだ僅かに熱が籠っていた。

 コート上に立ちはだかる隼人は覇者の如く、ボールを捌き、自らの思うままに配置していく。

 ベースラインの上にただ立っているだけのように見えるのに、打ち返される球はすべてラケットの中心に吸い込まれていく。

 構えも誇示もなく、ただそこにいるだけで勝利の天秤が傾く。

 力強く放たれたトップスピンにも、一歩も下がらず、胸の前で軽く振りぬいたバックハンドはまるで風の向きを変えるだけの仕草で、球はコートの隅へ正確すぎるほど正確に落ちていく。

 無駄のないその姿は洗礼されていて、美しい。

 勝負を決めるスマッシュを放つと、会場全体の空気が僅かに震えた。

 けれど、隼人は決めたことすら特別視せずに、ラケットを軽く持ち直す。

 チャンピオンシップポイントを軽々と決めて、隼人は拳を振り上げた。


「悔しいな」

 耳の奥に響いた自分の声は案外、重かった。

 僕は思ったよりバドミントンに魅了されていたみたいで、さっきまでの楽しさが恋しくなっていた。

 隼人くらいの腕前のプレイヤーになったら、コートは一体どんな眺めなのだろう。

 それが気になって仕方がない。

 シャトルがスロー再生で見えたり、コートのベースラインが見なくても感覚で分かったりするのだろうか。

 今よりも、もっと多彩に忠実にやりたい技を放てるようになるのか。

 楽しそうだな。

 隼人のように自在にシャトルを操る自分を想像して、心の奥から光が突き上げた。


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