―第84章― 私が1月を生き永らえる為の千夏の「祈援」
ラインカーで引かれた白線が織りなす4つのバドミントンコート。
その中に佇む多くの選手の中、想空は右端のコートに立っていた。
コート上で飛び跳ねて、興奮という文字を体現しているかのように生き生きとした表情。
ホイッスルが鳴り、相手コートからシャトルが放たれる。
ネットを超え、高々と弧を描いていく。
想空は、飛翔するシャトルをその真新な瞳で捉えた。
そして、力一杯にラケットを振るう。
相手コートに強烈なスマッシュが送り込まれ、白線の内側に着床する。
無垢なままコートを翻弄していく。
足音は軽快に弾み、その楽しさは影にまで映り込む。
やりたい技を興味のまま、思い付きのままに実行して、想空は得点を積み重ねていく。
そんな調子で順調に勝ち進み、準決勝。
会場の注目度は一段と増し、視線が集中する。
想空は変わらぬ笑顔で、コートに向かってくるシャトルを捉える。
恐怖心なんて一ミリもなく、ただ楽しさに繰り出されてその足は一歩先へと動く。
放たれたクリアーは観客を掠めて、相手コートへ舞い降りた。
地面に着く。
そう思ったシャトルは、黒光りをした手に握られたラケットに寸前で拾われた。
ネットを掠めて、再びコートへ舞い戻る。
早く。
早く戻って。
ぎゅっと手を組んで、想空のラケットが少しでもシャトルに触れるように祈る。
けれども、その願いの甲斐もなくシャトルは想空の目の前でコート上に落ちてしまう。
想空の額には僅かに汗が滲み、上がっていた口角も落ちてきていた。
相手コートを捉える目は未知を追うワクワクした眼差しではなく、興味のないものへ向ける寂しさへと変わっていた。
ラケット捌きが雑になり、相手コートへ入らなくなっていく。
「想空」
大声で叫んだ声も届かず、歓声の中に消える。
負けちゃう。
負けないで。
この願いが自分の為のものか、想空に勝って欲しいという純粋な想いなのかが、分からない。
その瞬間、ネットに沿うように低く短く放たれたシャトルに想空が飛びついた。
読まれないように体の向きと逆向きに打たれたシャトルを、想空は反射神経と予測で相手コートへ送り返したのだ。
思い通りにシャトルが打てたことで、やっと想空の表情がパッと明るくなり、落ちていた視線は再び焦点を取り戻す。
きっと、大丈夫。
想空は無茶苦茶に暴れ回った。
スマッシュ、クリアー、ドロップ、ドライブ、ヘアピン。
繰り出せる可能性が少しでもあるのなら、その一縷の望みに懸けて、全てを打っていく。
25-23。
敗戦。
興奮の余韻を残したまま、想空はベンチに戻ってきた。




