―第76章― 志望校選択の為の理恵の「果断」
2学期の終業式の朝。
空は広く晴れ渡っていて、雲一つない快晴というやつだった。
教室の窓から眺めた空は、普段よりもどこか近く感じられる。
学校に着いて、自分の偏差値よりもほんの少しレベルの高い高校に書き換えた進路希望調査票を担任の先生に提出。
担任は受け取ったと同時に用紙をじっと見たが、何も言わずに承諾した。
教室の空気はどこか高揚感に満ちていながら、微かに緊張感が漂っていた。
終業式は粛々とたゆみなく進み、下校。
私は玄関にカバンを置いて、ほどなく千夏の病室に向かった。
進路決断の報告と感謝を改めて伝えたかったから。
千夏はいつも通りの空気を纏って、ベッドに寝そべったまま私の古い教科書を眺めていた。
「あ、理恵。おはよう」
私が近づくと、千夏は軽く姿勢を正して「これ、どうしてこうなるの?」と訊ねた。
千夏が指したのは小学5年生の割合の問題で、男子が女子より6人多く、男子は60%。
男女それぞれの人数を求めるという問題。
千夏は長い間入院していたことで仲良くなった看護師さんや患者さんなどにも勉強を教えてもらっているそうで、解説の例が面白い患者さんについてもこの前、楽しそうに話していた。
「男子が60%だと女子が40%。その差が20%。問題文から人数だと6人までは分かる?」
棚の上に常備してあるメモ帳を破り取って、メモ書き程度に説明を書き込む。
千夏は表情をコロコロと変えて、私の解説の言葉に「うんうん」と応じる。
窓の外の景色が段々とオレンジ色に染まっていった帰り際、一際異様な雰囲気を放っている一つの固体が目についた。
「あれ、誰か忘れていったの?」
千夏のカバンの上には不気味だが、今ではもう見慣れてしまったあの鏡があった。
「ううん。死神さんがちょっと早めのクリスマスプレゼントだって言って、私の分を置いてってくれたんだよ」




