―第75章― 志望校選択の為の理恵の「吐露」
「今日は表情なんか暗いけど、どうかしたの?」
3日前に訪ねた時にお願いされていた教科書を棚の上に置くと、千夏が私の顔を心配そうに見つめていた。
千夏は嫌に鋭いな。
このまま、千夏に話せたら私は楽なのだろう。
けれど、病気のせいで学校に行けない千夏からしたらこの悩みは贅沢だし、私が千夏の立場でこの事を相談されたら相手を僻む。
「いや、そんなことないよ」
慣れない作り笑いを浮かべたが、千夏にそんなものは通じず、千夏は私の瞳を鋭く見つめた。
私の言葉が本当か嘘かを問い正すように、何の感情も載せずに。
「嘘だよ。何かあったんでしょ?」
私の目を真っ直ぐ見つめるその瞳に折れて、私はやはり話し始めた。
私らしくない支離滅裂な説明に、ゆっくりと相槌を打って、無力感へ共感をくれる。
大丈夫。
その何気ない一言が途方もない光を放ち、眩しくて、柔い部分を覆っていた膜が乱されていく。
「理恵は頭の良さを除いても、優しくて強くて可愛いんだから、きっと立ち向かえる。怖くても、理恵ならきっと大丈夫だよ。もし、いざとなったら、いつでも私に頼っていいからね」
怖いけれど。
その言葉に、千夏が病気で何度も期待が裏切られて、苦しんできた過去の痛みが凝縮されて、声が震えていた。
この無根拠な実体のない言葉に私の心はいつも照らされてしまう。
きっと大丈夫だから。
私は上の学校を目指すことに決めた。
落ちこぼれになることへの怖さはあるけれど、自分は負けず嫌いだし、意欲がないと思いながらもある程度やって、上手くいっているのだからきっと大丈夫。
それに、頭がいい学校ならば、ライバルもできるだろうし、一人でも楽しそう。
それに、人を虐めるような幼稚な人も少なそう。
心の底から希望的になれなくても、ある程度、ほんの少し。
青空よりも身近で親身な千夏に、私の心のわだかまりは解かれたのだった。




