―第72章― 千夏が12月を生き永らえる為の鈴達の「勇戦」
冷たい風が肌を刺し、私の心は嵐のように揺れていた。
震える手は剣の柄を握りしめ、指の震えが刃に伝わって微かな金属音を立てる。
刹那、地を這うような重低音が周囲の空気を震わせた。
「ボー、ボー」
西川さんが吹いた法螺貝の湿った空気を押し返す音。
開戦の合図に囮隊である死神の軍が進軍した。
総大将を中心に戦士が外側を向いて、円を描くように盾を並べた円陣の陣形。
その囮軍には死神、死神を守る隼人と理恵、想空と志願してくれた街の人々が組みしていた。
死神は城に控えている敵軍から分かりやすいように漆黒の龍の兜を輝かせながら、最前列に立ち、圧倒的な存在感で敵を威圧する。
その姿がいつにも増して、心強く映る。
それまで場を支配していた喧騒が、潮が引くように消え失せて、戸惑いの色を浮かべている。
歪み、恐れる。
どうだ、攻めてくるか。
心拍が高鳴り、自分の鼓動のみが耳に響く。
「1軍、2軍、死神の首だけを狙え。進軍だ」
敵軍の指揮官が大きく軍配を振り上げた。
地面がけたたましく轟き、地響きが鳴る。
巨大な鉄の堤防が壊れるように轟音が響く。
辺りには土煙が飛び交っていた。
隼人が敵の槍を巧みにかわして、鋭い一閃で敵兵の胸を貫く。
敵の追撃から逃れながら城から離れたところにうまく誘い出す。
戦場は混沌と化して、叫び声と怒号が入り混じる。
よし、このタイミングだ。
「本陣、進軍!」
波立つ心を抑えて、自らを鼓舞するように力一杯に叫ぶ。
戦士たちの視線が集まる中、私は敵が待ち構える月影城を見据えた。
隼人、鈴、想空、死神さん。
頑張って、どうにか耐えて。
祈りを込めながら、月影城に向かって駆け出した。




