―第70章― 私が12月を生き永らえる為の千夏の「慰励」
夏の大三角、デガ、デネブ、アルタイル…。
ベッドに寝そべりながら、教科書を読みこむ。
天体の動き方や名称についての理解を深めていく。
「あの、千夏」
人の気配が近づき、私は教科書を棚の上に置いて、向き直った。
「ドサッ」という重い振動が木製の棚を通じて、掌に伝わる。
目の前にいた鈴の肩がぴくりと揺れた。
「どうしたの?」
緊迫した空気に自分の声が響いていく。
「相談があって、今時間いいかな」
鈴のまつげが細かく震えているのを見て、私は背筋が伸びる気配を感じた。
「いいよ」
鈴は私の向かい側に置かれていた椅子に座り込む。
鈴の真っ直ぐで真剣な視線が自分に向けられていて痛い。
「他の4人は月影城を取り戻すために一生懸命真正面から向かって頑張っている。だけど、私は自身の死と自分が戦う相手に及ぼす影響を怖がって、動けない。手が震えて、力が入らない。私だけが何の役にも立てなくて、」
声の震えと鈴が感じていた恐怖心が空間を隔てて、伝わってくる。
自分の人生の終わりを左右するかもしれない恐怖が胸を掠めるが、真剣に向き合っている鈴を前に、逃げるべきではないと感じた。
この部屋をただ一定のリズムで響く秒針の音が支配する。
「そっか」
痺れた空気にそっと吐き出した息の音がやけに重たく響く。
私は意識して背筋を正し、鈴の潤んだ瞳を真正面から見据えた。
私が思っていることがしっかりと鈴の心に届くように、祈りながら。
「鈴のいいところはそういう慎重なところだよ。気を使いすぎるところ。恐れすぎるところ。だからこそ、考え込んで出した言葉が素敵になる。私も、あの時の運命を変えてでも生きていて欲しいって言葉、今でも刺さってる。だからさ、鈴のペースで大丈夫だよ。他の4人もそれをきっと受け入れてくれるから」
口にする私の声が僅かに熱を帯びていく。
言葉を発した後、鈴の顔を見るのが怖かった。
自分の選択が合っているのか、もし悲嘆に満ちた表情をしていたらと思って、なかなか顔が上がらなかった。
「ありがとう。私は千夏の人を凄く尊重してくれるところが好き。自分が抱いていた無力感が吸われたような気がする」
さっきまでの震えていた顔が嘘のように鈴の表情は晴々としていた。
どこか私の知らない遠くを見つめる瞳。
冬の陽だまりのような力の抜けた暖かな微笑みを浮かべながらも、どこかいつもとは違う静寂を纏っていた。




