―第67章― 6人と街の人々を守る為の死神の「虚飾」
昨日まで辛うじて、梢にしがみついていた枯葉が一夜にして地面を覆い尽くした。
剥き出しになった木々の枝は天を呪う痩せ細った指のように乱れる。
吹き抜ける風が街の彩度を攫い、人々の顔もアスファルトも冷たい鉛の色に沈んでいく。
そのモノクロームの死景の中で、一点、黒のボタンだけが剥き出しの内臓のように脈を打っていた。
風に煽られて不自然なほど鮮やかに、硬質な音を立ててぶつかり続けるその黒は暴力的な異質感を放つ。
「た、大変です!」
そのボタンを見つめていた私に助手の西川が息を切らしながら駆けてきた。
声が裏返り、足元がおぼつかない。
「月影城がネクロポリスに攻め込まれました」
驚きに瞬きすら忘れていた。
月影城。
それはこの死者の都のシンボルとも言うべき場所であり、私がここに来た頃よりずっと前から代々守り続けられている場所。
ネクロポリスの死神であるロべス・ウィリアムとは、あの夏祭りの件以来顔を合わせていない。
なのに、なぜ今頃強硬手段に出たのだろう。
長年の経験から見ても、衝動的に動く奴ではないし、なるべく言論で踏みつぶすことを望み、簡単に強硬手段に出ない。
まさか、あの6人の件がばれたのか。
それならこの行動も頷けてしまう。
でも、もしそうなら、あいつは瞬時に上に報告するのではないか。
だが、その疑問はすぐに解消された。
「夏祭りの時のテレビ局がネクロポリスの死神とこのタブレットで回線を繋いでいるそうで、」
西川がそのタブレットを抱えて、家へ入ってくる。
「テレビに放送されるのか」
「いえ、今回はネクロポリス側への協力との事で放送はしないそうです」
その言葉にふっと息が抜ける。
もし、放送されたら、街の人からの信用も無くし、5人の命も危うくなってしまう。
だが、放送されないとしても、相手はあの男で、非はこちら側にある。
無論負けるつもりはないが、相当な心持ちが必要になるだろう。
「黄泉の都の死神に告げる。分かっていると思うが、一ノ瀬千夏という少女の延命の件についてだ」
「ええ。分かっています。その件は認めましょう。だが、なぜ貴方のような方が上に報告する前に強硬手段に出たのですか?」
コイツに突き止められた時点で言い逃れしても勝ち目はない。
ならば、不確定要素の確認、このまま延命と死神職の継続方法を探るまでだ。
「上の判決はどうせ死神職の没収。悪くて、魂の略奪。だが、死神の不正がそんなぬるい刑罰で許されていい訳がないと私は前々から感じていた。身体的、精神的な屈辱を伴わない罰で済ませられてはいけない、そう思った上での行動だ」
感情の揺れが露わになり、画面越しでも分かるほど拳を力強く握りしめている。
「確かにそうですね。ここでは屈辱を受ける刑罰は存在しないかもしれません」
正面から立ち向かおうとしては負ける。
ただ相手の考えに共感を示し、自分の熱い思いが嫌に躱されるのを感じさせることによって、相手の怒りを引き出し、そこから抜け道を探る。
「ああ。だから、不正を犯したお前に、自国である死者の都を守り切れずに死ぬという屈辱を味合わせる」
それが理由か。
この死者の都の生活を意外と悪くないと思いかけていた私には、確かにその刑罰は苦しそうだ。
「確かにそれはきつそうな刑罰ですね」
想像以上にこの男の存在は質が悪いかもしれない。
罰されても自分の魂が消されるだけだと割り切っていた身としては町の人々に危害が及ぶとなると話が変わる。
「しかし、それをしたらあなたの地位も危うくなるのでは」
どうにかその考えを変えてくれるよう言葉を紡ぐが、やはりこの男は簡単に自分の考えを曲げてはくれない。
やはり、この攻められている状況を打破するしかないのか。
しかし、死者の都とネクロポリスには一目瞭然と言っていいほどはっきりとした戦力差がある。
だが、もしかしたら、あの5人に頼めばこの危機的状況を打破してくれるかもしれないという希望。
しかし、それには千夏の延命が不正である事が街の人や6人にばれるリスクも跳ね上がり、その戦いをきっかけに誰かメンバーが死んだら、千夏も他のメンバーも、病で千夏が死ぬこと以上に悲しむだろう。
だが、挑戦せずこの男に攻められるのを待ったら千夏の延命は確実にない。
どうするべきだ。
そう、命だけは助かるように援軍を差し向ければいい。
そして、あの5人ならばきっとやってのけるはず。
そんな幻想にも似た願いを込めて、私は心を落ち着かせた。
「ミッション発令。月影城が隣のネクロポリスに取られたので奪い返してきてもらいたい」
急ぎ、5人に連絡を入れた。




